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音楽
2023/2/1 6:30

斉藤由貴「35年以上も音楽を続けていることは想定外ですが、どんどんと歌うことが好きになってきています」

毎年恒例となった斉藤由貴さんのクリスマスライブ。昨年12月に開催された『X’mas live 2022』ではカバーに挑戦するなど、新たな一面を見せファンを楽しませた。そのときの模様がホームドラマチャンネルにてテレビ初放送。また、2020年にはアーティスト活動35周年を迎えるなど、ますます精力的に音楽と向き合う彼女に今回のライブの見どころ、そして歌うことへの思いをたっぷりとうかがった。

 

斉藤由貴●さいとう・ゆき…1966年 9月10日、神奈川県出身。女優・歌手。1985年、『卒業』で歌手デビュー。同年、ドラマ『スケバン刑事』や映画『雪の断章 -情熱-』で初主演を務め、各映画賞で新人賞を受賞。翌年、連続テレビ小説『はね駒』でヒロインを演じ、人気を不動のものに。2月21日に’11年のオリジナルアルバム「何もかも変わるとしても」を再リリース。また、今春より『連続ドラマW フィクサー Season1』がWOWOWにて放送開始。

 

今の時代って、いろんな窮屈さを感じるようになったなと思う

──斉藤由貴さんの『X’mas live』も回数を重ね、いまや恒例のイベントとなりました。

 

斉藤 昨年でなんと8回目を迎えました。ただ、“クリスマス”と銘打っているわりにはクリスマスソングをそれほどたくさん歌っているわけではなくって(笑)。どちらかというと、年の瀬のクリスマスの時期に開催しているライブという感覚のほうが強いです。誰しもが「今年ももう終わるなぁ」という気分のときにライブ会場に集まり、一緒に音楽を楽しむ。そうした気分を味わってもらいたいというのがコンセプトとしてあります。

 

──そうしたなか、今回放送される『X’mas live 2022』の選曲はどのように決めていかれたのでしょう?

 

斉藤 今の時代って、いろんな窮屈さを感じるようになったなと思うんです。たとえば、“こんなことを遵守しなきゃいけないの?”というような変な決まりがたくさん生まれ、生きづらい厭世観が蔓延している感じがして。そんなモヤモヤとした感情を抱いているときに、《嘘》をテーマにしたら面白いかも……と思ったのが始まりでした。代表曲の1つである「AXIA〜かなしいことり〜」もそうですが、私が歌ってきた曲には恋愛における女の子の嘘をテーマにしたものが多くて。ですから、それらを選んで並べてみたら、いつもとちょっと違ったセットリストになるかもって思ったんです。

 

──なるほど。その一方で、ライブの後半には1991年のアルバム『LOVE』から「Yours」と「Julia」の2曲が選出されていますね。

 

斉藤 これはたまたまなんですけどね(笑)。ライブ前半のテーマが《嘘》なので、後半はもう少し軽やかさがありつつ、ちょっと冷ややかな空気感も出せたらいいなと思ったんです。そうしたらこの2曲がしっくりときて。ただ、その結果、今度は全体の構成が妙に小洒落た雰囲気になってしまったので(笑)、“これは少し毛色の異なる曲も入れなきゃいけないぞ”と思い、カバー曲にも挑戦しました。

 

私にとってずっと憧れであり、眩しい存在

──そのカバー曲として選んだのが松田聖子さんの「SWEET MEMORIES」とNOKKOさんの「人魚」です。これはどういった経緯で決めていかれたのでしょう?

 

斉藤「SWEET MEMORIES」にはちょっとした思い出があるんです。私が所属している東宝芸能は女優が在籍する事務所であって、音楽活動をするという感覚がもともと方針としてなかったんです。ただ、デビューしてほどなくして、いろんなところから「歌を歌いませんか?」というお話をいただき、なんとな〜く音楽活動を始めていくことになって(笑)。そうしたなか、私の声やイメージに合う曲の方向性を探るために当時のヒット曲をいくつか歌うことになり、そこに「SWEET MEMORIES」もあったんです。作詞が私のデビュー曲「卒業」を書いてくださった松本隆さんでもありますし、その縁もあって、今回選ばせていただきました。

「人魚」に関しては非常にシンプルな理由で、私がNOKKOさんの大ファンだからです。本当にものすっごくファンなんです(笑)。この「人魚」はNOKKOさんがソロになられてから筒美京平さんに書いていただいた曲ですが、きっと女性アーティストの誰もがいつかカバーをしてみたいと思っていたはずで、私もその1人でした。また、NOKKOさんは私にとってずっと憧れであり、眩しい存在だったのですが、少し前から思いがけずお友達になることができて。そうしたタイミングもあり、“歌うなら今だ!”と、カバーさせてもらいました。

 

──実際に歌ってみていかがでしたか?

 

斉藤「SWEET MEMORIES」に関しては、同じ松本隆さんが私に書いてくださった「卒業」や「初戀」「情熱」とは歌い方のニュアンスが異なり、かなり異質な表現になったかなと感じています。実際にリハーサルのときにもコーラスの方に、「由貴さんの表現の新しい一面を見たかも」と言っていただいて。一瞬、“それはいいことなの? だめなことなの?”と悩んだのですが(笑)、「すごくいいです!」と言ってもらえましたので、放送をご覧になる方もぜひ楽しみにしていてほしいです。

 

本当に自分の中で想定外のことで、いまでも不思議な気持ち

──また、3年前の2020年にはアーティストデビューから35周年を迎え、いまなお、こうして音楽の分野で活躍されていますが、デビュー当初から比べて、ご自身の中で音楽に対する変化にはどのようなものがあると感じていますか?

 

斉藤 率直に思うのは、デビューから何十年も経ったいま、私の人生の中でこれほど音楽の割合が多くのキャパを占めるとは想像もしていなかったということです。私は女優としてこの世界に入ってきたわけですし、当時から漠然と、お仕事をいただける限り、一生女優を続けていくんだろうなと思っていたんです。だからこそ、アイドル歌手としてデビューをし、音楽活動をしていた自分に対して、当時は違和感しかなかったんです。アイドル歌手として求められる表現や受け答え、佇まいなどに自分が馴染んだということが一度もなくって。それがやがて、時間が経つにつれて少しずつ音楽から離れていったわけですが、“そういえば、歌手をしていた時期もありました”と思えるぐらいになったタイミングで、思いがけず「また歌ってみませんか」と声をかけていただいたんです。正直に言うと、“いまさら?”という思いも多少はありました。でも、そこから気づいたら、また歌を歌っていく時間が増えていったんです。これは本当に自分の中で想定外のことで、いまでも不思議な気持ちです。

 

──再び活動を続けている要因の中に、以前よりも歌うことが好きになったということもあるのでしょうか?

 

斉藤 たしかに自分らしく表現できるようになったという点においては、すごく好きになりました。やはりアイドル歌手の頃は、“これは私じゃない”という思いがあり、不自由さも感じていましたから。でもいまは、歌で表現することに純粋に向き合えている。その意味では、どんどんと歌うことが好きになっているんだと思います。

 

──また、斉藤さんは歌だけでなく、90年代の初めの頃から作詞もされるようになりましたが、ご自身にとって“言葉”を表現することにはどのような思いがあるのでしょう?

 

斉藤 もともと小さい頃から物を書くのが好きだったんです。中学生のときに入った部活がなんといっても「小説部」ですからね。ひたすら文章を書き続けるという奇妙な部活だったのですが(笑)、それもあって何かを書く作業は自分の中で、ごく自然な行為だったんです。ですから、「歌詞を書いてみないか」と言われたときも、すっと受け入れることができました。それに、当時は雑誌の「月刊カドカワ」で詩とイラストを毎月掲載していたり、自分のラジオ番組の最後に「一行詩」というのを考えて、それを本にまとめていただくということもあったので、作詞は私にとってすごく嬉しく、楽しい作業でした。ただ、全曲で作詞をしたアルバム『LOVE』などもそうですが、作詞にのめり込むと、自分を投影し過ぎてしまって、客観的に楽曲と向き合えなくなってしまうということがあったんです。ですからいまは、言葉を紡ぐこと自体は好きなんですが、やはり他人の目や手で客観的に書かれた歌詞のほうが風通りがいいなと思うようになりました。

 

撮影当日に「あんまり変わらないね」って。あのときは悲しかった(笑)

──なお、ホームドラマチャンネルでは『X’mas live 2022』のほか、アルバム『LOVE』をテーマにした短編映画(1991年)や、1986年に作られた『漂流姫』も合わせて放送されます。当時の撮影で印象に残っていることはありますか?

 

斉藤 たしかに撮ってましたね。懐かしい〜(笑)。『漂流姫』は故 市川準監督に撮っていただいたんです。当時はまだ映画監督になる前でCMやPVの世界で活躍されていたんです。ですから、発想も豊かで。すごく覚えているのが、最初の打ち合わせで、「今回、由貴ちゃんは何もしゃべらなくていいから」って言われたんです。「ただひたすら香港の街を逃げ回って、ときどき姿を見せては、また消えていくだけ。最後の最後に『はい』って言うだけでいいから」って。面白いことを考える人だなぁって思いました(笑)。その頃の私は倒れるぐらい忙しかったこともあって、何もしゃべらなくていいというのは本当に嬉しかったです(笑)。それと、もうひとつ印象に残っているのが、私のことをまじまじと見て、「由貴ちゃん、撮影までにもうちょっと痩せてきて」と言われたんです。“え〜、そんなことはっきり言う?”と思って(笑)。でも、言われたとおりにランニングをしたり、食事制限をしてかなり体を絞っていったんですが、撮影当日に私を見て、「あんまり変わらないね」って。あのときはホントに悲しかったです(笑)。

 

──初めて映像をご覧になる方は、そのあたりも注目しそうですね(笑)。では最後に、あらためて『X’mas live 2022』の見どころをお聞かせください。

 

斉藤 今回のクリスマスライブの大きな挑戦の1つに、バンド編成をガラリと変えたというのがあります。今まではお友達のようなサポートメンバーでお送りしていたのですが、あえて少し雰囲気を変えてみようと思い、新たなピアニストやいつもはいないドラムを入れてみたり、フルートやアルトサックスといった管楽器にも参加していただきました。そのことでアレンジや楽曲の印象にも変化が生まれましたし、いつもご覧になってくださる方にとっても、新鮮さを感じていただけるのではないかと思います。また、これは個人的な好みで恐縮ですが、大好きな楽曲のカバーにも挑戦してみましたので、ぜひそこにも注目していただきたいです。

 

【斉藤由貴さん写真一覧】

「斉藤由貴セレクション」CSホームドラマチャンネル

『斉藤由貴 X’mas live 2022』2023年2月5日(日)後7・00、2月26日(日)後8・00放送

『LOVE』2023年2月5日(日)後8・45放送

『漂流姫』2023年2月5日(日)後9・30、2月26日(日)後9・35放送放送

公式HP:https://www.homedrama-ch.com/special/saito_yuki

 

 

撮影/宮田浩史 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/冨永朋子(アルール) スタイリスト/石田純子(オフィス・ドゥーエ)

衣装協力:メムロード、アンテプリマ