真夜中でも明かりが灯り続ける建物、通称“不夜城”。そこでは一体だれが何をやっているのか——。『不夜城はなぜ回る』(TBS系)は、深夜にもかかわらず煌々と光を放ち稼働する場所に突撃し、その謎を解明していく番組だ。時に、深夜のバラエティ枠とは思えないようなドラマチックな展開が繰り広げられることから、ジワジワと注目を集め、昨年10月にレギュラー化。好評を博していたものの、惜しくも3月27日の放送で最終回を迎えるという。
本番組を企画したのは、期待の若手ディレクター・大前プジョルジョ健太氏だ。学生時代から「不夜城巡り」を趣味として、夜な夜な街に繰り出していたというプジョルジョ氏は、実際に番組内でレポーター役もこなしている。今回は番組の顔であるプジョルジョ氏に、不夜城での思いがけない出会いや過酷な実情、そして番組のこれからについて語ってもらった。
(構成・撮影:丸山剛史/執筆:kitsune)
趣味が高じて、そのままレギュラー番組に!
「夜活動しているのは、一体どんな人なのか気になって」
――番組でも話されていましたが、もともと「不夜城巡り」が趣味だったそうですね。
プジョルジョ そうなんです。「不夜城巡り」と銘打ってやっていたわけではないのですが、学生のときから、よく深夜に街を歩き回っては明かりが灯って光っている場所を探していました。
――不夜城を見つけることを目的として、夜中にわざわざ外にでていたんでしょうか……?
プジョルジョ はい、そうなりますね(笑)。当時は、自宅が高尾山にあったのですが、そこから新宿まで行くこともありますし、逆に中央線を下って終点の大月まで行くこともありました。
――なるほど。そういった場所を巡っていた理由は何なのでしょうか?
プジョルジョ 単純に、そこにいる人たちはどうして夜に行動しているのかが知りたかったんです。夜中にわざわざ何かしているってことは、それなりの理由があると思うので。
――たしかに。そう考えると気になりますね。
プジョルジョ 例えば当時、夜中にヨガ教室に並んでいる方々と出会ったのですが、それはみんなが寝静まった静かな時間に瞑想をすることが目的でした。また、自分自身も夜の工場でアルバイトを始めて、そこで働いている外国人の人と交流したり、番組でも紹介しましたが、夜に作業をしている花火師の師匠のもとに弟子入りしたりして、話を聞いていました。
――その後TBSに入社されて、実際に趣味が番組になったわけですが、どのように企画を提案されたんですか?
プジョルジョ ほぼそのままですよ(笑)。僕が過去に実際に行ったことがある「夜中光っている場所」と、そこでのエピソード、行くとどうなるのかを企画に書きました。その際に、そういった光っている場所を“不夜城”と呼ぶことにして、提案したんです。
――企画の段階で、具体的なラインナップがあってロケハンも済んでいる……という状態だったわけですね。
プジョルジョ なんなら学生のとき、一人で撮影していたこともあったので、本当に番組と変わらないですね(笑)。
——すごいですね。ちなみに、当時はどんな場所で撮影を?
プジョルジョ 例えばですが、沖縄の日本最南端の有人島・波照間島に行ったりしましたね。そこには夜中でもずっと稼働しているサトウキビの製糖工場があって、現代社会に疲れた人たちが全国から集まって働きにくるんです。すると、工場の中で出会いがあって、島で結婚する人が出てきたんだとか。
9割がアポなし取材。時には過酷な不夜城も……
「3日間、山奥で張り込んでいたこともありました」
――そして、番組が実際にスタートするわけですが、不夜城を探して取材をするときは、本当にアポなしで行っているんですか?
プジョルジョ そうですね。9割アポなしで突撃して、その場で取材交渉をしています。事前に連絡するときも、その敷地を管理している方だけに許可を取って、現場の人たちにはその場で取材OKか聞いたりしていますね。アポを取っていくと、どうしても身構えられてしまうので、リアルな様子が撮れないというのもあって。
――すごいですね。番組でも、臆することなく取材交渉されていますが、人見知りとか全然しなさそうですね。
プジョルジョ いえ、すごいしますよ。合コンとか全然ダメです!
――(笑)。しかも、夜中に声をかけて、怒られたりすることはないんですか?
プジョルジョ 何度もありました。ここでは言えないくらい、めちゃくちゃ怒られたことも(笑)。まあ普通に考えて、夜中に話しかけてくるなんて不審者だと思われても仕方ないですし、迷惑をかけているのはこちらなので申し訳ない気持ちです……。
――毎回ロケごとに命懸けですね。
プジョルジョ なんなら、それ以前に、取材対象の不夜城が見つけられないことも多いです。夜中に光っている建物がある、と情報を聞いて現地に駆けつけても、その日はたまたま休みで光っていなかったとか。一度、山奥の森の中に不夜城があると聞いて、張り込んでいたんですが、3日経っても結局光らなかった(笑)。
――ええ……!それは過酷すぎませんか……。
プジョルジョ 携帯の電波も入らない場所で、食べ物を買い込んで張り込んで、結局取材はできずという。辛かったですね。なので、真っ暗な中で光る建物を見つけると「やったー!光ってる!」と本当に安心するんです(笑)。
体力的にも精神的にも辛いことも…それでも…
「ひとつの感情が生まれるまでの過程をカメラに収めたい」
――撮影中に、過酷だったことは何かありますか?
プジョルジョ 真夏に熊本県の南関町で南関そうめんを作る職人の方を取材したことがあったのですが、その方は休みなく働かないと生産が追い付かないということで、1日に2時間しか寝ないんですよね。ずっと作り続けているところを撮影しつつ、しばらく工程が変わらない時に僕は仮眠を取るのですが、さすがに目の前で寝れないので、路上で野宿して。それを2日間(笑)。
――おお、それは大変でしたね……。
プジョルジョ いつ何が起きるかわからないので、なるべく現場にいたくて。熱帯夜の中、外で過ごしていたのでなかなか体力を消耗しました。
――不夜城ロケは、体力勝負な面もありそうです。
プジョルジョ そうですね。逆に、精神的に辛いのは取材をしても、結局いろいろな理由が重なって番組にできないときがあることですね。
――プジョルジョさんは、そういった方々を取材するときに、一番撮影したいと考えているのは、どういった部分でしょうか?
プジョルジョ やっぱり、人と人との関わり合いの中で、ひとつの感情が生まれるまでの揺れ動いていく過程に魅力を感じるので、その一連のできごとをカメラに収めたいと思っています。
――なるほど。どうやってその感情に至ったのか、ということですね。
プジョルジョ はい。僕は上司に怒られていても「なんでそこまで怒っているんだろうな」というのをずっと考えてしまって、怒られが響かないタイプで(笑)。それも感情の動きが気になってのことというか……。まあ、そんなことより反省しろよって話なんですけど。
――あはは! ある意味で、感受性が豊かな感じがします。
プジョルジョ そうなんですかね~。とにかく、出会った方々の感情を映し出すというのは、いつもテーマにはなっていますね。
“今までにない番組”だから話題に
「ドキュメンタリーとバラエティの間を目指していました」
――番組中、基本的にレポートをされているのはプジョルジョさんですが、いつもロケは何人チームで行われているんですか?
プジョルジョ 2人もしくは3人ですね。初期のころは僕が暴走して、一緒にやっているプロデューサーに、止められることもありました(笑)。危なそうなところに入って行ったり、取材先の方との会話で踏み込みすぎたりして。もちろん僕も相手の方に失礼のないようにチューニングはしているんですが、踏み込んでいくことで、もっと仲良くなれる場合が多いので。
――心を開いてもらうためには必要だったりしますよね。
プジョルジョ そうなんです。今では、もうその辺を含めて「任せる」とプロデューサーが言ってくれているので。ありがたいですよね。ちなみに、そのプロデューサーは女性なんですが、例えば僕が取材先の旦那さんに付いているときは、その間に奥さんと仲良くなって自然にお話を聞いてくれていたりするんで、チームとしても感謝しています。
――素敵ですね。取材先がご家族であることも多いし、長時間のロケになることもありそうですから、チームのバランスも大切ですね。
プジョルジョ はい。本当に自由にやらせてもらってるし、チームのおかげで成り立っていると思います。
――その結果といいますでしょうか、先日『不夜城はなぜ回る』はギャラクシー賞を受賞されていましたね。おめでとうございます。
プジョルジョ ありがとうございます。制作チームがすごく喜んでくれて。スタッフはフリーのディレクターさんも多いのですが、みんな「やったことないような番組で自分の成長にもなる」と言ってくれていて、その上ギャラクシー賞で箔をつけることができて、僕も嬉しいです。
――そうだったんですね。たしかに、バラエティであり、ドキュメンタリーでもある、今までにない番組だと思います。
プジョルジョ 視聴者のツイートを見ていた時に「ドキュメンタリーとバラエティの間だ」というコメントがあって、まさにそれは自分の意図していたことなので、実際に見て頂いてる人にそれが伝わってるんだと分かって、嬉しかったですね。報道とバラエティどちらも経験しているのもあって、そこで学んだことを生かせる企画を目指していましたから。
東野幸治が“趣味で続けたほうがいい”とアドバイス
「海外の不夜城を巡る旅はいつかやってみたい」
――しかし、残念ながら3月27日の放送をもって、番組が終了してしまうとのことで……。
プジョルジョ 悲しいですね……。まだまだ、自分としては行ってみたい不夜城があったので、続けたかったのですが……。
――不夜城はもちろんのこと、バイきんぐ小峠(英二)さんの夜の酒場巡りも名コーナーだったので、もう見れないと思うと寂しいです……。
プジョルジョ 何度かお願いしてやって頂いたのですが、2回目終わったくらいで小峠さんも慣れて楽しんでくれていた様子だったので。
――酒場を巡っている最中も、だんだんテンションが上がって楽しんでいる感じが伝わってきて良かったです。
プジョルジョ そうですね。また、誰かに酒場巡りをしてもらう企画はやりたいと思っていますよ。
――楽しみにしています。ちなみに、MCを務められていた東野(幸治)さんとは、何か話されましたか?
プジョルジョ 実は今回レギュラーが終わることになり、改めて東野さんの楽屋に挨拶に行ったんです。その時に「不夜城巡りは、趣味で引き続きやっていったほうがいい」とアドバイスをもらいました。また、僕は取材先で出会った人たちとLINEを交換していて、よく連絡を取るんですが「今まで出会った人たちのことを絶対大切にしろよ」ともお話し頂いて。「不夜城じゃなくても、きっと何か新しいことに繋がるから、連絡を取り続けて大切にするんだぞ」と。
――素敵なアドバイスですね。では、もしまた今後『不夜城はなぜ回る』が復活した場合は何か新たにやりたいことはありますか?
プジョルジョ 海外の不夜城を巡る旅はいつかやってみたいと思っています。この番組の裏コンセプトが「日本のことを改めていい国だな」と感じてもらうことだったので、逆に海外の不夜城での出会いや発見から、日本の良さも再認識してもらえればいいなと思っています。
プジョルジョ 音声メディアやポッドキャストでも不夜城巡りについて発信していけたらいいなと思っていますね。いろいろと考えていますので、ぜひ楽しみにしていてもらえたらと思います。
――期待しています。本日はありがとうございました。