ゲーム&ホビー
2016/7/4 21:27

あの森永製菓が「おっとっトランプ」なるトランプを出していた! 森永流の新規事業の作り方

森永製菓から発売されたカードゲーム「おっとっトランプ」がゲームマニアのあいだで話題になっている。今年5月にテーブルゲームの祭典・ゲームマーケット2016で発売されると、同社の“スナック菓子の「おっとっと」を使って遊ぶゲーム”として注目が集まった。ではなぜ、お菓子メーカーがカードゲームを製作するとこになったのだろうか? 森永製菓株式会社・新領域創造事業部チーフマネージャー・金丸美樹氏に開発秘話をうかがった。また、同社の新規事業のアプローチもユニークなので、併せて掘り下げていきたい。

 

新規事業開発に取り組むべく部署で開発がスタート

↑おっとっトランプ(2106円)。あそびかた50、なかま図鑑、・なかまたち表&スコア表が付属する
↑こちらがおっとっトランプ(2106円※税込み)。あそびかた50(ギョジュウ)、なかま図鑑、なかまたち表&スコア表が付属する

 

「まったく新しい新規事業開発に取り組むべく2014年に設立されたのが、私の所属する新領域創造事業部です。社内の各部署から人材が集まって『作るものは物でもサービスでも何でもいい』というスタンスで新しい事業を模索していくことになり、これまでオープンイノベーションやゲームアプリの開発・販売などを行ってきました。

 

お菓子で楽しく学ぶことをコンセプトにした自由研究キット『おかしな自由研究』や、服薬用チョコレート『にがいのにがいのとんでいけ』など、ちょっと違った視点の新しい商品も開発しています。『おっとっトランプ』は『おかしな自由研究』に次ぐ、お菓子を使って学ぶシリーズの第2弾という位置づけですね」

↑お話しを聞いた森永製菓新領域創造事業部 リーダーの金丸美樹さん。森永製菓にて外部とのオープンイノベーションを含む菓子食品事業に捉われない新事業開拓を担当する部署「新領域創造事業部」のリーダー。同社の新事業開拓業務に早期から携わりアンテナショップ「おかしなお菓子屋さん」の出店等を実現した
↑お話しを聞いた金丸美樹さん。森永製菓にて外部とのオープンイノベーションを含む、菓子食品事業に捉われない新事業開拓を担当する部署「新領域創造事業部」のリーダーを務める。同社の新事業開拓業務に早期から携わりアンテナショップ「おかしなお菓子屋さん」の出店などを実現した

 

「おかしな自由研究」ではチョコボールを地球に見立て、その縮尺で太陽系の大きさを体感するなどの、宇宙をテーマにした自由研究用のキットが入った商品。JAXAの協力を得て、お菓子を食べながら宇宙の仕組みを学べる教材として限定発売されていた。

↑↑「おかしな自由研究」シリーズ
↑「おかしな自由研究」シリーズ

 

「『おっとっトランプ』は最初、動物で何かできないかと考えていたんですが、制作全般を統括してもらった電通の古谷 萌さんのチームメンバーと話すうちに、深海が面白いという話になってきた。最初は人生ゲームのようなボードゲームを作ろうと始まったのですが、専門家の方々と意見を交換するうちに逆にコレくらいのサイズのカードゲームが人気があるとか、海の生物だったら、おっとっとを使ったら面白いんじゃないかという意見が出てきたんです」(金丸さん)

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↑魚介類をかたどったスナック菓子で、同社のロングセラー商品「おっとっと」(27g×2袋入り141円)

 

新企画を考えるときは一度お菓子から離れる

つまり“おっとっとの関連商品”という縛りが先にあったわけではなく、製作の流れでたまたまおっとっとのゲームが生まれたのだという。

 

「うちの部署ではプロジェクトを始めるにあたって、一度、お菓子のことは忘れてもいいって言われてるんです。そうしないとどうしても考えが狭まってしまいますからね。自社製品に関して社員はなかなかフラットに見えない部分がある。でも、外部の方とお話ししているとこんなに使える!っていう新しい価値に気づくことが多いんです。そういった場合はもちろん自社の商品ですから使ってもいい。今回も、企画を進めてから『おっとっとでできるね!』って、気づかされた感じですね」(金丸さん)

↑ゲームのひとつを教える金丸さん
↑ゲームの一例を挙げる金丸さん

 

データは専門の先生が細かくチェック

カード構成はトランプと同じ、1~13までの数字とジョーカー。各数字が「おっとっと」の形にある海洋生物に対応している。さらに4枚の同じ数字のカードには同じ種族の生物が描かれている。たとえばイカなら、ダイオウイカ、トビイカ、ホタルイカ、ヒメイカといった具合だ。イラストのほかに簡単な解説と、全長、卵数、寿命、水深の4項目の生物のデータ説明が入る。

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↑10番のカードにはイカの仲間をプリント

 

「カードに入る生き物のデータは専門分野の先生に監修をお願いしました。東京大学の農学博士・佐野光彦先生に魚の監修をお願いしたんですけど、海洋生物に興味を持つ子どもを増やしたいという考えに共感をしてくださってボランティアでご協力いただくことになって。そこから無脊椎動物に詳しい東京大学の岡本 研先生、亀はまた別の先生を紹介していただきました。みなさん専門家なので、監修するからにはそれぞれのデータは裏づけをとらなきゃいけない、ということになって結果的にとても細かくチェックしていただくことになりました」(金丸さん)

 

「不明」はどうしても「不明」である必要があった

確かにデータを見てみるとそのこだわりが随所に感じられる。たとえばヤリマンボウの寿命の項目には、“♂82年、♀105年”と性別ごとにやたら細かい数字が表記されているなど、何でこうなった? と、知的好奇心を刺激するような表記も多い。“不明”という表記も散見するがこちらにもしっかりと理由がある。

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↑ヤリマンボウのカード

 

「“不明”は一見、調べてないの? と思われるかもしれませんが、じつはコレ“不明でないといけない”んです。まだ、はっきりとは解明されていない部分ですね。かと思えば今度は卵の数が“数億粒”っていうざっくりした表記があって、そこは絶対に“数億粒”でなければならない理由があるんです。電通の古谷さんのチームからは、『そこは“不明”に統一してほしい!』という意見も出たんですが、ここはご専門の先生たちだからこそのこだわりが詰まったデータを尊重しています。関わった方々が本気になってくれて、完成するまでに本当にいろんなやりとりがありました。みなさんの熱い思いがこもっているトランプなんです」(金丸さん)

 

リアルだけどカワイイ、絶妙にデフォルメされた生き物のイラストにもこだわりが隠されているという。

 

「生き物の形状が伝わり、興味を抱くけど、気持ち悪くないギリギリのラインを目指して、デザイナーさんにはかなり頑張ってもらいました。そんな描きおろしのイラストをまた先生に見ていただいたうえで、エビのヒゲの位置やクラゲの足の角度など、細かい指摘をいただいて。またそれをすべて反映してもらったんです」(金丸さん)

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↑イラストが描かれた「なかまたち表」

 

ゲームの種類は3タイプに大別できる

パッケージに同梱される生態図鑑は、多くの図鑑を手がける肉食爬虫類研究所代表の富田京一氏が担当。登場する生き物が子供たちにもわかりやすく解説されている。図鑑と同じ冊子に掲載されている50個のゲームルールは、日本屈指のアナログゲームデザイン会社・タンサンファブリークが監修した。①『おっとっトランプ』のみを使用するもの。②スナック菓子『おっとっと』と『おっとっトランプ』を使用するもの。③『おっとっと』のみを使用するもの。と大きく分けて3タイプのゲームが収録されている。

 

関係者のこだわりを詰め込み、細部まで作り込まれた『おっとっトランプ』は、子供のみならず、大人のゲームファンの評価を得て売れ行きも好調だ。

 

「実際、森永製菓がこんなことやるんだと言ってもらえることが多いのはうれしいですね。今後もじわじわ売れていってくれたらなと思ってます」(金丸さん)

 

実際に遊んで5段階でオススメ度をつけてみた

と、そんな開発秘話をうかがったことで、ゲームマニアである筆者の血が騒いだ。実際に遊んでみたら、どれくらい面白いのか? 早速知り合いを集めて、「おっとっと」を使用するゲームを中心に「おっとっトランプ」で遊んでみた。以下では、なかでも面白かったゲームを厳選して紹介する。

 

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FISH HEAD オススメ度:☆☆☆☆☆

カードだけで遊ぶゲーム。自分以外の人が見えるように額にカードをかざす。手番では誰かを指名して、4つ項目の1つの数字で勝負を挑む。数字が大きいほうが勝利するため、おのずとお互いのカードのデータをじっくり確認することになり、初見の海洋生物に対する知識がガンガン入ってくるのもポイント。相手が“不明”の項目では勝負を挑めないというルールが効いている。爆笑しながら遊んだベストゲーム。

 

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もぐもぐチョイス オススメ度:☆☆☆☆

目を閉じたまま、口に入れられたスナック菓子の形を舌で確認して当てるゲーム。他の人がカードを見ながら、生物のデータについて情報を伝えて、それが本当か嘘かを見抜くというルール。だが全員、生物の知識がないため、いまいち盛り上がらず。しかしその後、カードを使わずに、口に入れたおっとっとを当てるという遊びに30分以上夢中になった。

 

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おっとっとったど~ オススメ度:☆☆

与えられた時間は1分。カードを1枚めくり、そこに描かれたおっとっとを、袋のなかからひたすら探して捕獲する。結構夢中になる。袋のなかの菓子を触りまくることになるので、各自1袋ずつあるときにしかできない。

 

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50(ギョジュッ)点 オススメ度:☆☆☆☆

おっとっとを袋から出していき、対応したカードを場から取って合計が50点になるのを目指す。同じ種類のおっとっとが出たらアウト。今まで出た生物は無効になり、手番は終了する。意外に同じ形のものが多く盛り上がる。

 

お菓子を食べながらの禁断プレイが想像以上に面白い!

総評として、おっとっとを使用するタイプのゲームはどれも新鮮だった。カードを使わずに「おっとっと」だけで遊ぶゲームには「おっとっとを好きなようにデコレーションしてSNSに投稿したりしましょう」というネタっぽいルールのものも多いが、スナック菓子を使ってプレイするだけで面白さは5割増し! 遊びながらパリパリつまむという、カードの汚れを異様に気にするボードゲーマーたちにとっては“禁断”といえる“ながらプレイ”は、想像以上に場がなごみ、自然と小学生のようなノリになってくる。子どもと遊んでも確実にウケそうだ。

 

気をつけたいのがおっとっとの消費量。今回、おっとっとなんて食べること自体が十数年ぶりという大人ばかりが集まったのだが、食べ始めるとおいしいので、ついついルール説明中もつまむ者が続出。ゲームを始める前に一瞬で足りなくなってしまった。取ったものを食べるタイプのゲームも多いので、プレイヤー1人に対して小袋を2袋以上は用意するべき。また、食べながら遊ぶため、ウェットティッシュは必須!

 

と、想像以上にアツくなれた「おっとっトランプ」は、森永の公式サイトやアンテナショップなどで購入可能だ。「海の生物の学習のため」という大義名分もあることだし、大人も子どもと一緒になって楽しんでみては。

 

【URL】

おっとっトランプ製品紹介 http://www.tenshi-kenko.com/products/list2.php?category_id=60

販売サイト http://www.morinaga.co.jp/ototrump/

森永製菓 http://www.morinaga.co.jp/