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2020/4/6 6:00

日本も対岸の火事ではない。ロックダウン中のイタリアから「封鎖生活」リアルレポート

世界で猛威を振るう新型コロナウイルス。ヨーロッパで最初に感染者が急増し、民主国家でありながらどこよりも早く封鎖措置をとったのがイタリアです。現地から、感染拡大の真実と“封鎖生活“の中の様子をご紹介します。日々の暮らしで気をつけたい感染防止対策も!

↑ベーカリー店に並ぶ人の様子。一定の距離を保って並んでいる

 

迫る感染の不安−−家の目の前のホテルに感染者

イタリアで感染拡大が始まったのは、2月下旬。北イタリア・ロンバルディア州のコドーニョで、感染経路不明の陽性者が1名発覚した2月20日から。すべてが変わって行きました。

 

それまでのイタリアは、1月にローマで中国人観光客2名の感染が確認された後、1月末には中国路線便を運休。春節帰りの中国人も2週間の自主隔離をし、中国系商店も自主閉鎖するなど対策をとっており、感染者数は約3名のみだったこともあって、全国的に穏やかな日々が続いていました。

 

しかし、大量の検査を実施すると、思いのほか感染が広がっていることが判明。感染者数65名(うち半数は無症状)、2名の死亡者が出た2月23日に、コドーニョとその周辺地域はレッドゾーンに指定され、イタリア初の封鎖措置がとられました。

 

この際、ミラノ界隈で買い占めパニックが起きましたが一時的なもので、むしろ「経済を回そう」と普段通りの生活が続けられていました。いつも通りスキーバカンスや旅行に行く人も。私の住むシチリア州パレルモにも、北イタリアのベルガモから団体旅行者が来ていました(ベルガモは後に最大の被害地となり、火葬場が満杯で軍隊が棺桶を近郊の街へ移送する映像は、日本でも流れたかと思います)。

 

その団体旅行者が宿泊していたのは、我が家の目の前のホテル。ある日、そこからホテルで1名の感染者が見つかったことがありました。同じイタリアとはいえ、封鎖地域とは東京と鹿児島くらいの距離感。対岸の火事だったのに、とうとうシチリアでも初感染者が……。

 

しかし驚くより早く、感染者は病院に隔離され、ホテルは濃厚接触者を含む旅行者全員とスタッフ、約40名の検疫施設に早変わり。観光スポットも消毒され、市内の学校は一時休校。いつもののんびりしたイタリアとは到底思えない、素早く厳格な対応がとられたのです。

 

つまり、それだけ恐ろしいウィルスなのだと実感した体験でもありました。その後、検疫中に無症状者2名を特定。周囲への広がりはなく、機敏な対応による「守られてる感」も高かったせいか、近所はパニックになるどころか、検疫中の旅行者の食事を心配をしたり、しばしば訪れる防護服の保健所員を犬の散歩がてらに眺めたりする余裕さえもありました(この時の詳細はこちら)。

 

一方、ベルガモやミラノなど、封鎖地域周辺の北イタリアの街々では、感染が止まりません。3月4日の全国の感染者数は2505名(検査数トータル2万5856)、うち死亡79名(※対策本部発表時のデータ)。その88%が同エリアに集中。当時、日本ではイタリアは、検査しすぎで医療崩壊の噂が立ち始めた頃ですが、実際は医療崩壊しておらず、私立病院や他州への搬送が行われていました。それが、4日後3月7日には感染者数5883名(トータル検査数4万2062)、うち死亡233名と膨れ上がったのです。

 

次の対策として、3月8日にミラノを含む北部全域に“移動行動制限法令”が出されることになりましたが、正式発表前夜。曖昧な報道スクープによって不安にかられた人々が、ミラノから大脱出。感染の可能性の高い人々が、全国に散ってしまったのです…。

 

 

感染の全国拡大への懸念から3月10日には、休校、イベント中止のほか、飲食店の営業時間制限(6:00〜18:00)、高齢者の行動制限などを盛り込んだ同法令が、全土適用となりました。しかし、状況を不安視する声も上がり、その翌日3月11日にさらに厳しい内容を追加。3月12日から、すべての飲食店もクローズし、生活に必要最低限の機能を残して封鎖する、いわゆる“ロックダウン”が始まったのです。

 

人との距離は1メートル!「私は家にいます」が合言葉

シャッターばかりが目立つ空っぽの街。街角のあちこちに固まって、立ち話に興じる人々が彩るいつものイタリアの風景は、もうどこにもありません。人懐っこく、集まるのが大好きで、挨拶にキスや抱擁、握手が欠かせないイタリア人の習慣が、感染を広げたとも言われています。外出禁止、人との距離は1メートル……。それは、なかなか難しい注文でした。

 

そんな国民に向け、コンテ首相はほぼ毎晩生会見。国民に熱く語りかけ続けました。「経済より国民の命が優先です。一人一人が責任ある行動をとり、私たちの両親や祖父母、大切な人を守りましょう。私は、家にいます。習慣を変えることが難しいのも、それぞれが犠牲を払うことも知っています。でも、もう猶予がありません。国民がひとつになれば、この戦いを勝ち抜けるはずです。今は、少しだけ離れますが、それは再び熱く抱擁するためです。」

 

人道精神溢れるコンテ首相の演説に感銘を受ける人は多く、名台詞「私は家にいます Io resto a casa」はハッシュタグ#iorestoacasaにもなり、家で過ごす様子や料理をSNS投稿でシェア。医療現場からは、「あなたは家にいて #turestaacasa 私は患者のそばにいます #iorestoincorsia」のメッセージカードを持った医師や看護師たちの写真が投稿され、イタリア中を駆け巡りました。

 

命がけで戦う医療関係者に、感謝と応援を込めて、全国で一斉に拍手を送るイベントや、楽器演奏やオペラの歌声を披露するなど、バルコニーを有効活用したバルコニー・フラッシュモブもしばしば開催。子ども達が始めた「きっとすべてうまく行く Andra’ tutto bene」のスローガンと虹を描いた旗を窓辺に飾るプロジェクトも、全国で広まっていきました。

↑シャッターに貼られたAndra’ tutto beneのイラスト

 

ロックダウン直後に起きた、これらの“互いに明るく励まし合う”ムーブメントは、いかにもイタリア人らしく、また「ひとつになって困難を乗り切ろう」としたコンテ首相の言葉を体現するようでもありました。

 

ロックダウン中の生活はどれくらい規制されているの?

↑薬局は封鎖中もオープンしている。プラスチック製パーテーションで感染を防止

そんなわけで封鎖された内側には、どこか助け合いのムードが流れています。一人暮らしの老人がいるマンションの共有スペースに、「買い物のお手伝いします。いつでも声をかけて」と貼り紙をする人がいたり、生活困窮者を支援するため無料の食料品コーナーが各地で自然発生したり。

 

戦後最悪と言われる緊急事態を前に、いがみ合う心の余裕なぞない!とも言えますが、実際のところ、市民同士で支え合わなければ乗り切れません。ご近所さんも会うたびに、見たこともないような笑顔で挨拶をしてくれます。

 

それぞれが責任を持った行動をとるなか、それでもまだ身勝手に外出し続ける人や稼働していた企業もあったため、3月22日からはさらに法令内容が厳格化。銀行、郵便局、食料品店、タバコ屋、スーパー、薬局……本当の本当に必要最低限のみ稼働が許可され、一般人の外出も通院、もしくは食料品ショッピングなど本当の本当に必要最低限のみ。その移動範囲も家の近所(約200m程度)と限定されました。

↑誰もが感染危機にさらされる中、営業を続ける店や対応してくれる店員には感謝しかない。貼り紙は「距離を保って」とある

 

↑犬の散歩は「必要最低限のこと」と認められている。初期には「犬だけずるい!」の声も多かった(笑)

 

とはいえ、 “必要最低限”は人それぞれケースバイケース。内務省のサイト内にあるFAQが便利で、「別居中だけど、子どおには会いに行ける?」「親戚の家に食事をしに行ってもOK?」など、具体的な事例が紹介されています。

 

ちなみに、どちらも基本はNG。「老齢の親戚の世話が目的の場合は、可。ただし、高感染リスクのため十分な配慮を」など、例外とアドバイスも見つかります。

 

自己申告型の外出許可書の携帯も義務化。フォーマットをダウンロードするか、警察に呼び止められた時にその場で記入します。許可されない理由での外出には、罰金(400〜3000ユーロ)もしくは禁固刑も。

 

入店制限はあるけど品物は豊富。あるものを除いて…

↑スーパーマーケットの入り口には「距離を保って!」の注意書きが

 

人との距離は1m以上開ける必要があるため、スーパーや店舗では入場制限が行われています。番号チケットや行列を作り、順番待ちしてから入店。でも、中に入れば品揃えはいつも通り。セールもしているし、入り口でもらう手袋をしていなければ、いつもよりちょっと空いてるかな?と言ったところ。

↑スーパーマーケット入店用の順番待ちチケット。時間帯によっても異なるが、待ち時間は平均で20〜30分程度か

 

生鮮食品もトイレットペーパーなどの紙類も不足はありませんが、常に品薄なのが、小麦粉、イースト菌、卵。そう、外出禁止の暇な時間を有意義に過ごすべく、お菓子やパン作りをする人が激増しているから! 考えることは皆一緒のようです。

 

ところで、封鎖中の経済活動には「イタリアケア法令」が発令され、育児休業補償、ベビーシッター補償(医療関係者は1000ユーロ)、免許や滞在許可書などの期限延長、リモートスクールへの援助、解雇禁止、ローンの一時停止、個人事業主600ユーロ支給、光熱費の値上げ禁止、生活困窮者へのお買い物券発行など、細かく設定されています。

 

ワンコの足も洗って。気をつけている防疫対策

現在、生活範囲の自宅から200m圏内に感染者見つかっていないこと、人と会っても誰もが“距離感”を気遣っているため、我が家のメインの外出である犬の散歩で感染の危険を感じることはほぼありませんが、それでも防疫対策は徹底的に行っています。

 

例えば、マンションのエレベーターボタンや入り口のドア。できるだけ直接触らない、もしくはアルコール除菌ティッシュで、すぐに消毒。食料品も牛乳パックや卵パック、缶詰などの表面は洗剤で洗い、野菜・果物も念入りに洗ってから冷蔵庫へ。小銭も石鹸で洗ってから、お財布へ。プラスチックやメタルなど、ウイルスの生存期間が長いとされるものへの接触を徹底的に避けるイメージです。

 

家の中では、土足がデフォルトのイタリアですが、玄関先で脱ぐ習慣が推奨され、靴裏にも、時々アルコールスプレー。犬も散歩後は、脚は低刺激性のソープと水で丁寧に洗い、ブラッシングをしてから絞ったタオルで全身を拭くように、イタリア保健省からアドバイスがありました(我が家ではコロナ騒動以前から、散歩のたびに無香料のベビーソープで洗ってきましたが、8年続けてトラブルなしの実証済み。オススメです)。

 

また、免疫力が下がらないように、日々穏やかに過ごすのもコツ。パニックや鬱症状を訴える人も多く、イタリアの各地で心理相談コールセンターもできましたが、どこも人手も足りないでしょうから、自分で解決できることはするようにしています。

 

普段はできない掃除を徹底的にやったり、読みたかった本を読んだり。美味しい料理を楽しく食べる。できるだけコロナ関連のニュースから離れる時間を作る。手の込んだ料理も、集中できて気が紛れます(ゆえに、小麦粉が爆売れしているのでしょう)。

 

毎日18時に対策本部の会見があり、感染者数の推移、対策状況などの詳細が丁寧に伝えられます。当事者意識が高まると同時に、信頼できる情報を常に得られることは、日々の安心感にもつながりますが、死者数のあまりの多さや、近郊の町で北イタリア帰りの一人が感染源となり100人以上の老人が感染した……など、ときおり闇落ちすることも。


でも、アルマーニが全工場で保護服を作るとか、幼児が救急隊にお礼の電話をかけたとか、心が和むニュースも多いのが、救いです。悪いこともあれば、良いこともある。それが世の常というもの。衝撃的なニュースばかりを追わないようにするのも、心の平穏を保つためには必要です。

 

空っぽの街が意味するもの

イタリア(に限らず世界中)の空っぽの街の映像に、ショックを受けた人も多いかもしれませんが、“中の人”にとっては、むしろホッとする映像でもあったりします。街に人がいないなら、それは誰かが感染する危険もない。これ以上苦しむ人や、悲しむ人を見たくはないから、今、一人一人ができることは、感染しない/させないこと。それが医療への負担を減らすことにもなる。空っぽに見える街には、希望を捨てず静かに戦う人々の気持ちが溢れているのです。

 

4月に入り、新規感染者数の増加割合が減少してきたイタリア。暗く長いトンネルの先に、ちょっとだけ光が見えたかもしれません。あと少し、もう少し。トンネルの先に向かって、さあ、今日も頑張って家にいますよ!

 

テキスト/写真 岩田デノーラ砂和子

 

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