「くらしのラボ」と月刊「ムー」のコラボ企画。6回目を迎えた今回は「猫様」をテーマにお送りする。「くらしのラボ」のムービーでは最新IoTデバイスからコミュニケーションの可能性まで触れられているが、まだまだ語り切れていない部分がある。本稿ではそういう部分について、「くらしのラボ」の監修を務める”家電王”中村剛さん、「ムー」三上編集長、そして、RABO代表取締役・伊豫愉芸子さんの鼎談形式で掘り下げていく。猫様についてはもちろん、そこから展開する壮大な話にご注目いただきたい。
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猫の一生を見守り続けるCatlog
過去に玩具として動物語の翻訳デバイスは存在したが、今回お話を聞く伊豫さんの開発したCatlogは、そういったものとは一線を画すものだ。バイオロギング(生物に小型のビデオカメラやセンサーを取り付けて画像やデータを記録し、行動や生態を調査する研究手法)をもとにしたCatlogのデバイスとサービスについて、まずは伊豫さんに聞いてみた。
伊豫:Catlogにはふたつのデバイスがあります。まずプロダクトの冠名が入った首輪型デバイスの『Catlog』、そしてトイレの下に置くボード型の『Catlog Board』の2種類です。首輪型は24時間365日猫様が日常のどんな行動をいつ何回したとか、月別・季節別の行動で変化がなかったかといったことから、異変があった時にお知らせして体調の変化を確かめ、体調管理に役立てていくことができます。
日本では、家の中にトイレを置いている猫様の割合が98%くらいです。ボード型の方はいつも使っているトイレの下に敷くだけで体重、うんちとおしっこの回数と量、頻度、滞在時間を取得できます。これによって体調の変化に気づきやすくなり、データを体調管理に役立てていくデバイスになります。ふたつのデバイスに記録された行動すべてを、Catlogのアプリでトータルな形の管理とサポートができるというサービスとプロダクトです。
中村:ペットとのコミュニケーションでは、本当に正しいかどうかはわからないけれども「こんなこと喋ってるよね」という感じで推し量ることができるようになりました。ただ、どんな装置を使っても、それが本当にペットの気持ちを表しているかどうかは誰にも分りません。言葉の翻訳はなかなか難しいと思います。
三上:猫に限らず、動物とのコミュニケーションは言葉だけではないと思います。今ネット上で猫の言葉をフレーズで作れるアプリがあるらしくて、それで「こっち来いよ」と話しかけたら本当に寄ってきたようです。
人が猫の真似をしたところで、多分人間の可聴領域と猫の可聴領域は違うでしょう。だからそこまで再現できる“猫語”−−人間の耳には聞こえないけれども、猫には聞こえているというところまでやれるのがいいと思うし、可能性はありますよね。そういう意味で、Catlogは言葉ではないけどデータを獣医さんのところに持って行って、直近1か月のデータとして見せることができるでしょう。
伊豫:基本的には毎日元気で楽しく可愛く生きているのですが、猫様は体調変化や体調不良を隠しやすい生き物であるといわれています。見ていると真顔ですし、犬のように自分からコミュニケーションを積極的にしていくわけでもないので、いつもとの違いがわかりにくいのです。極端な例で言えば血尿が出ているとか、おしっこをしなくなっているとか、あるいはトイレの回数が異常に増えるというような異変が起きた時になって初めて飼い主さんが動物病院に連れて行きます。
獣医さんからすると、すでにもう症状がかなり進んでいることもあります。体調がいつから悪くなったのかを尋ねられても、飼い主さんはパニック状態に陥っていて細かいことは思い出せません。普段の生活と何が違うのかということに関しても、定量的にうまく伝えられなかったりします。
動物医療の現場でも、普段と何が違うのか、普段はどういう行動をしているのかについての情報の入手法という課題がありました。Catlogによって、情報の間を埋めるというか、見えていなかった時間をデータで埋めるということをしています。
三上:Catlogは医療器ではないのだろうけれど、今後は獣医師さんが相談をされた時に、「これを付けておいて何かあったらデータを送ってください」とCatlogを渡すような使い方も今後考えられませんか?
伊豫:実際そういう風に使っていただいている方も非常に多くて、獣医さんにCatlogのデータを見せることができるということが動物病院に行くきっかけになったり、行った後の診断の助けになったりしています。
中村:人間も一緒ですね。病気で検査をする時に、24時間の心電図データを取る装置をつけたり、データとして日記のようなものを書いたりします。人が書くとあやふやな内容になってしまうものを残そうということなので、やろうとしていることは同じだと思います。
伊豫:Catlogの特徴はマイナスの部分を0にするだけではなく、0をプラスにすることです。私もそうですが、健康の不安を抱えながら猫と暮らしたいわけではありません。家族としてより多くの愛を注ぎたいという気持ちがあって一緒にいるので、0をプラスにするというところを大切にしているのも大きな特徴です。こうした姿勢を反映する方法として、アプリにアバターのようなアニメーションを使って、どなたもご自分の猫様を投影できるようにしてあります。
1度使っていただくと、ほとんどの方が使い続けてくださいます。Catlogと一緒に猫様の一生を見守っていただいているお客様が非常に多いです。
猫と人間のコミュニケーションはテレパシー!?
三上編集長:海外にも同じような器具はあるのですか?
伊豫:海外にも似たような装置は多いのですが、ほとんどが犬向けです。家の外での散歩の経路を取得して運動量を知るための二次元トラッカーとして使うものは結構種類があります 。犬と猫は動物として全く種類が違って、飼い主さんの飼い方も全然違います。
外に出ることが多いワンちゃんに室内向きセンサーは無理で、多くの電力が必要なGPSを入れなければいけません。バッテリーを考えると装置がかなり大きくなります。私も開発中に海外からいくつか購入して猫様につけたら、明確に嫌がりました。
見たい情報も違いますし、ちゃんと動物の種ごとに、飼い主さんのユースケースごとに特化したプロダクトが必要であるということで、猫様専用の装置を世界で初めてCatlogを開発しました。いろいろな国の方々が知ってくださっています。
中村:猫様とのコミュニケーションについて、たとえば実家で猫を飼っていた人が上京して、遠くにいながら様子を知りたいというニーズはありますよね。
伊豫:実際、コロナ禍の中でそういうケースは多かったのです。実家に帰れなくなってしまい、実家の猫様にCatlogをプレゼントして、共同飼い主という機能を使って、遠くの猫様をみんなで一緒に見守るということをされていた方もいらっしゃいます。
われわれはCatlogをライフログ・ベースド・メディスンと呼んでいます。日常の生活データを医療に活かすエビデンス・ベースド・メディスンの派生で、ライフログをベースにした医療という意味です。
中村:見守るとか可愛がるといっても、家にいる間ずっと撫でているわけではありません。猫がそばに来ても「ちょっと後でね」ということもあります。でもある程度の時間離れたままだと、どうしているかすごく気になってしまいます。Catlogは猫の体調管理装置であると同時に、おそらくは人間の体調管理装置でもあると思います。
コミュニケーションについての話に戻りますが、言葉で語りかけるよりもボディーランゲージで働きかけたほうが効果的なのでしょうか?
伊豫:私はブリ丸とおでんという猫様2匹と暮らしていますが、全然性格が違うので、接し方も違います。うちの2匹は、共通して抱っこはあまり好きではありません。ただ、近寄って撫でてもらうのは好きです。撫でてほしくない時は、すっとどこかへ行ってしまいます。
これは人間も一緒だと思うのですが、性格の差のようなものがあるので、この子にはこういう接し方、この子にはこういうコミュニケーションというふうにしています。ブリちゃんに関しては私の言葉を理解していると感じられることが多いので、言葉で伝える機会も増えます。多分わかっているだろうと思うので、何か悪いことをしたときは、なぜダメなのかということを言葉で切々と訴えます。
中村:私も話しかけます。うちの猫は、たとえばブラッシングしてほしい時は自分から近づいてきますが、何かを嫌だと感じた時は逃げていきます。それほど嫌ではない時は、ちょっと逃げてまた戻ってくるというのが猫なんです。足にすりすりしてくることもあるので、ボディーランゲージというよりは、体と体の物理的距離が大きな要素だと思います。近くに来る時は心の状態がいいのだろうと思います。
三上:まあ、ひとことで言うとテレパシーでしょう。動物はそういう力があります。言語で語りかけるのではなく、思念で語りかけるのがいいでしょう。動物側も、こちら側の脳をひそかにスキャンしていると思います。
伊豫:わかっているのだろうと思うことがありますね。言葉で話しかけている時も、ちゃんとこちらの顔を見て、多分今解釈しようとしているんだろうなと感じます。今は早口だったからわからなかったかもしれないと思って、もう1度ゆっくり話したら、今度はわかったねという瞬間があります。
三上:もともと野生動物だから、周囲の空気を読むといった能力がないと生きていけないのだと思いますね。
伊豫:頭がいいと思いますね。何をやったら人間が動くかということを理解していると思います。それに、猫様は押し引きをわかっているんですよ。
Catlogのデバイスとサービス、そして「猫様と人間は会話できるか?」という疑問をメインテーマにしてお送りした今回の鼎談。次回はさらに、動物と話す超能力者や植物同士のコミュニケーション、そしてガイア理論まで範囲を広げて話を展開していきたいと思う。
(構成・執筆:宇佐和通/撮影:我妻慶一)
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