年々盛り上がるキャンプブームですが、ハマッていくなかで出合うキャンプギアが「ガレージブランド」です。これは基本的に個人や少人数のクラフトマンが手掛けるブランドを指し、小規模メイドならではの人間味あふれるモノづくりや、個性の光るプロダクト、フェイス・トゥ・フェイスな販売手法でファンを増やしています。
本稿で紹介するのは、そんなガレージブランドのひとつ「HikU(ハイク)」。5人のつくり手が中心となって活動するクリエイティブチームで、そのアイテムは即完売するほどの人気です。各クリエイターにインタビューし、オススメの作品についても伺いました。
個々のクリエイターがHikUというチームを結成したワケ
まずはHikUの成り立ちから紹介。代表を務める中村友洋さんが教えてくれました。
「もともと僕は働きながらDIYで作品をつくっていました。その後自身のブランド『omadesign』を立ち上げましたが、個人的な目標を達成したときに振り返って気付いたんです。『これは自分の力じゃなかった』って。お客さんや仲間、家族などへの感謝の気持ちが沸き上がるとともに、もっとたくさんの人に貢献したいとも思いました。それが18年働いた前職を辞めたタイミングでして、同時に出会いや縁も重なり、2022年2月にHikUを設立。それから約半年後、繋がりがあったモノづくりキャンパーにも声をかけていまに至ります」(中村さん)
出会いと縁の舞台となったのが、中村さんが前職でもたびたび訪れていた滋賀県の長浜市。この地で3人の若きクリエイターと出会い、一緒にアウトドアの創作活動をして彼らの才能を世に広めると同時に、地域を盛り上げたいと思ったのがきっかけでした。
「最初は、長浜で続く仏壇店の五代目塗師・箔押し師の中川君(中川喜裕さん)という職人から連絡をもらい、そこからデザイナー兼イラストレーターのユキちゃん(前川有季さん)と、写真家の辻田君(辻田新也さん)が合流して結成。中川君は『GNU(ヌー)』というブランドも手掛けているのですが、家業もやっていかなければならないということでHikUからはいったん離れたのですが、一方で旧知のモノづくりキャンパーであるよねじ(柴﨑祐樹さん)とシュンちゃん(畠中俊介さん)が加わり、現メンバーとなりました」(中村さん)
柴﨑さんと畠中さんはそれぞれ自身のガレージブランドを持ちながらも、HikUの理念に賛同。中村さんは兵庫、柴﨑さんは埼玉、畠中さんは愛知と住まいは異なるものの、ときには長浜に集結してイベントなどの活動を行っています。また、サポートメンバーとして広報の稲見敦さん(神奈川)とブランディング担当の田村亮輔さん(東京)も在籍。
即完売。完成を待つファンが多い珠玉のギアを一部紹介
ここからは、各クリエイターとオススメの作品を紹介。柴﨑さんから教えてくれました。
「僕はもともとミュージシャンで、メジャーデビューも経験しました。そのバンドは約2年で解散してしまったのですが、クリエイターとしての活動は音楽以外にもあるってことをギアのDIYで見出しまして、いまは会社員をしながらモノづくりをしています」(柴﨑さん)
そんな柴﨑さんのイチオシが、クーラーボックススタンド「01-STAND」。個人での生産が追い付かず、100人以上のファンが完成を待っている人気アイテムです。
「初級~中級に上がる段階でよくぶち当たる問題が、車への積載。僕自身苦しみまして、それなら作っちゃおうということで開発しました。折りたたむことで厚みが約4cmになる収納性と、僕自身がDIYで身につけた鉄、木、革の技術を全部取り入れた、ビンテージ感、ワイルドさ、ナチュラルな風合いが好評です」(柴﨑さん)
このアイテムは、購入者自身が蜜蝋ワックスを塗ることで完成するというのも特徴。ワックスは別売り「よねじのミツロウ」としても毎回即完売・予約待ちの人気商品でもあるとか。
次に紹介する畠中さんは、17年勤めたアパレル企業を辞めてクリエイターとして独立。「PURIBASE」の代表として活動しながらHikUにジョインし、アウトドアに限らないギア開発や、コーヒーを中心とした飲食展開も視野に活躍の場を広げています。
「僕からはふたつ紹介させてください。ひとつが、ダイヤカットグリップ『利休 Rikyou』です。キャンパーに人気のマルチグリドルという鉄板のような調理器具があるのですが、取っ手の部分が熱くなるんですね。それをカバーするための木製グリップです」(畠中さん)
製品名は、自害する最後の瞬間までも見送り人に対しお茶を振る舞ったとされるブレない職人・千利休のセンスとやり抜く心から。なお、こちらもミニ蜜蝋付きで、最後は「あなた(you)の手で完成させてください」という想いから「Rikyuu」ではなく「Rikyou」に。そしてもうひとつのオススメギアは、2023年夏ごろに販売開始予定のランタンシェード。
「木材を2mmの厚さにスライスし、絶妙なバランスで配置することで木材の隙間から光が漏れ、神秘的な灯りを演出。持ち運びを容易にするため、収納時は3cm厚にたたむことができ、使用時は上部を持ち上げるだけでお互いのパーツが支え合い、一瞬で広げることができる提灯のような構造です。市販されている様々なLEDランタンに合うよう工夫もしました」(畠中さん)
製品名は仮ですが、これから発売とのことでHikUのなかでも注目アイテムといっていいでしょう。そして3人目は代表の中村さんが渾身の作品を紹介してくれました。
「僕が会社員時代、ふたりの娘のためにつくったレザーのボトルカバーをHikU用に仕立てた『bottle cover 470ml 「ayano to saki」』です。姫路を拠点に100年以上の歴史を誇る日本トップクラスの高品質レザーをつくるタンナー『株式会社 山陽』と、1951年に大阪で創業したレザーファクトリー『株式会社 曽我部』との協業により製作しました」(中村さん)
「キャンプギアって、一生モノが多いですよね。使うほどに愛着が沸き、どんな高価な商品よりもその人にとっては価値がある、僕もそんなプロダクトをつくりたいと願うひとりです。そのうえで、キャンプだけじゃなく日常生活でも使えるアイテムをつくりたい、それを子どもにプレゼントして宝物にしてほしいなと。その代表作が『ayano to saki』です」(中村さん)