文房具
万年筆
2020/3/10 19:00

万年筆を日常使いしたくなる!話題のノック式万年筆、プラチナ万年筆「キュリダス」を徹底解説!

インク補充から半年経ってもサラサラ書ける新作ノック式万年筆をレビュー

「万年筆とボールペン、どちらが気軽に使える?」と問われたら、誰だって「ボールペン」と答えるだろう。そもそも万年筆は、書くのに気を遣うとかケアが面倒くさいとか、使用にあたってのネガティブ要素が、ボールペンに比べると多い。さらには構造も繊細だし、その分価格も高くなる。日常的な筆記具として気軽に使う気にはなれないのも、もっともだと言える。

 

とはいえ、万年筆を使うメリットも確実にあるのだ。最も大きいのは、悪筆の人でも見た目の整った字が書きやすい、ということ。もしくは、味のある字が書ける、でもいい。

 

悪筆の原因のひとつに「強すぎる筆圧」が挙げられるのだが、万年筆はそもそも筆圧ゼロで書けるのがポイント。手に力を入れず、滑らせるように書くという万年筆の使い方を身に着ければ、ペン先のコントロールはかなりラクになる。これが、悪筆解消に意外と効いたりするのだ。

 

それでも、万年筆は日常筆記具として敷居が高い……という人には、オススメの一本がある。かなり気軽に使える、最新のノック式万年筆だ。

 

ついに登場! アンダー1万円のノック式万年筆「キュリダス」

プラチナ万年筆から発売されたばかりの「CURIDAS」(キュリダス)は、ボールペンのようにカチッと1ノックで書き出すことができる、特殊な万年筆である。

 

ノック式万年筆といえば、パイロットの「キャップレス」シリーズが現行品としては唯一の存在だったわけだが、最も安いモデルでも1万円オーバーで、金ペン(ペン先が18K)モデルなら1万5000円~と、気軽にノック機構を試してみるか、という価格とは言い難かった。

 

対してこの「キュリダス」は税抜7000円。そもそも万年筆ジャンルの中でも、比較的お安い部類に入る製品なのだ。

プラチナ万年筆
CURIDAS(キュリダス)
7000円(税別)

 

軸後端の長いノックボタンをカチッと押し込むと、クリップのついた先端側からスリムなニブが飛び出してくるので、あとはそのまま普通に書き出せるという仕組みだ。

 

もちろん「キャップレス」と比較すると、軸も透明樹脂製で、見た目がややチープなのは否めない。だが、その分だけ気軽に持ち歩きやすいとも言えるし、ノック構造が丸見えなのも、ガジェット好きにはグッとくる。

 

 

とにかく、キャップ開閉の手間がないだけで、万年筆で書くための心理的な障壁は大幅に下がる。急いでメモを取る必要がある場合も、ノック式ボールペンとほぼ変わらない使い勝手で書き出せて、終わったらまたノックでペン先収納。この手軽さは“日常筆記具”として重要なポイントと言えるだろう。

 

筆者も、これまで万年筆を使う際は「キャップレス」に手を伸ばすことが多かったが、つまりそれだけノック式はラクなのだ。

 

書き味は、ステンレス製の鉄ペンとしてはごく平均的といったところ。ニブが細いこともあってやや硬めな印象だが、これはボールペンの書き味に慣れている人なら、逆に違和感は少ないかも知れない。

↑わりと硬めでシャリッとした書き味。個人的には嫌いじゃない
↑わりと硬めでシャリッとした書き味。個人的には嫌いじゃない

 

また、ノック式万年筆としては意外なほどニブが長く出てくるので、軸先端が筆記視界を妨げず書きやすい。その分、ノックのストロークも長くなってしまっているが、そこはあえて割り切って書きやすさを優先しているのだろう。

 

ノックは長いが、押し込んでしまえば軸長・重心ともに程よいバランスで、違和感はない。

↑「キュリダス」(左)とパイロット「キャップレス・デシモ」(右)の比較。「キュリダス」はニブがしっかり露出しているのが分かる
↑「キュリダス」(左)とパイロット「キャップレス・デシモ」(右)の比較。「キュリダス」はニブがしっかり露出しているのが分かる

 

ケアに関しては、ノック式万年筆で気になるのが気密性の部分だ。プラチナ万年筆の製品は、キャップに「スリップシール機構」という気密性を高める工夫があり、1年以上放置してもインクが乾かないことで知られている。だが、ノック式ではもちろんスリップシール機構は使えない。

 

そこで「キュリダス」には、ニブを収納するカプセルに軟質素材を使用。このフチがフタ部と密着することで、高い気密性を確保しているのだ。スリップシールにはどうしても劣るが、それでもメーカー測定によれば、半年程度はインクをサラサラに保つことができるとのこと。その分だけケアがラクなのは嬉しい点だ。

↑ノックにより、フタが開いてニブが出てくる様子。気密性を高める工夫で、ノック式万年筆としては画期的な長期保管が可能となった
↑ノックにより、フタが開いてニブが出てくる様子。気密性を高める工夫で、ノック式万年筆としては画期的な長期保管が可能となった

 

インクの補充とメンテナンスの方法は?

ただ、そういった機構を盛り込むためか、インク補充およびメンテナンスを行うには、ちょっとだけややこしい構造になっている。

 

分解するには、まずボディをねじって後軸を取り外す。次に、ノックを少しだけ押し下げつつ、U字の溝に沿ってグレーのツメを動かして引き抜く。……すると、これで先軸から中心のユニットが引き抜けるようになった。

↑後軸をねじって外したら、このようにしてユニットを引き抜く。力ずくで抜こうとすると確実に破損するので、要注意
↑後軸をねじって外したら、このようにしてユニットを引き抜く。力ずくで抜こうとすると確実に破損するので、要注意

 

最後に、ユニット中央のL字溝に沿ってねじってやると、これでようやくノック部とペン先が分離して、インクカートリッジやコンバーターの取り外し・インク補充ができる、という手順である。

 

慣れればまったく簡単ではあるが、手順を知らずに無理にユニットを引き抜こうとすると、ツメが破損して二度と元に戻せなくなる。ここはとにかく注意して行うべきところだろう。

↑中心のユニットも、ツメをスライドさせて分離。いちいち手順が多いのが、面倒と言えば面倒かもしれない
↑中心のユニットも、ツメをスライドさせて分離。いちいち手順が多いのが、面倒と言えば面倒かもしれない

 

↑これでようやくインクカートリッジ/コンバーターをセットできる状態になる
↑これでようやくインクカートリッジ/コンバーターをセットできる状態になる

 

もうひとつ、使い方によっては注意すべきなのが、金属クリップの取り外しだ。ノック式万年筆は構造的にクリップ側からニブが出るため、握り方によってはこのクリップが邪魔に感じる人もいるだろう。

 

「キュリダス」はそういう場合に備えて、クリップを取り外せる構造になっているのだ。

↑ツールを使って、クリップのホールドが両側ともにきちんと浮き上がっているかを確認すること
↑ツールを使って、クリップのホールドが両側ともにきちんと浮き上がっているかを確認すること

 

手順は、付属の専用ツールをクリップの下に噛み合うように当てて、グッと強く押すとクリップが少しだけ軸から浮き上がる。そこでツールを後軸側にスライドさせると、取り外せるというわけだ。

 

コツは、ツールを強く押し当てたときに、クリップのホールドが左右ともに浮いているのを確認すること。また、ツールなしでこの作業を行うと、ほぼ確実に軸にダメージを与えるはずなので、必ずツールを使うこと。

 

ちなみにツール自体は別売りの予定なしだそうで、使わなくても紛失しないように保管しておくことをおすすめする。

↑筆者もどちらかというとクリップがない方が握りやすいので、これでしばらく使ってみるつもりだ
↑筆者もどちらかというとクリップがない方が握りやすいので、これでしばらく使ってみるつもりだ

 

以上、こまごまと説明したが、日常的に書く分にはカチッとノックするだけでラクなことこの上なし。普段使いに耐える、かなり優秀な万年筆だと感じた。

 

近年は、ビギナーにもおすすめできる良い万年筆が各社から発売されているが、「キュリダス」もその候補として選んでもらって間違いないと思う。

 

 

「きだてたく文房具レビュー」 バックナンバー
https://getnavi.jp/tag/kidate-review/