文房具
2022/7/20 20:00

名品誕生の陰にドラマあり! 「ぺんてる」と「キングジム」の開発者が語るヒット文房具の舞台裏

画期的な機能が盛り込まれた文房具は、年間に数百点ほど発売されます。それらは誰がどのように考えて誕生したのでしょうか? 話題の新製品を生み出した「ぺんてる」と「キングジム」の開発者のこだわりと情熱に迫ります!

※こちらは「GetNavi」 2022年7月号に掲載された記事を再編集したものです。

 

【Episode.1:ぺんてる】人、そして空間に寄り添う静音設計の「静かなるペン」

 

ぺんてる

カルム 単色ボールペン/3色ボールペン

165円(単色)、440円(3色)

静かな空間で意外と耳障りな“カチカチ”というノック音を抑制した、静音設計の油性ボールペン。音によって周囲に迷惑をかけることなく、また持ち手への衝撃も和らげることで集中力を保ち、ストレスフリーな書き心地が楽しめます。

 

ボールペンは“音ハラ”になる!? “書く”行為を見直して着想

ここ10数年において、油性ボールペンは、主に書き味の良さを争点に開発競争が行われてきました。とはいえ、各メーカーのペンを実際に使用し、そこまで筆記感に大きな差があるか? と言えば、なかなか判断しがたいのも事実……。そこで、ぺんてる マーケティンググループの中沢英和次長は、そもそも書くという行為そのものを見直してはどうか、と考えたそうです。

 

「筆記感だけではなくて、書くことによる周囲への影響–例えばペンが発する音についても考えてみようと思ったんです」(中沢さん)

 

そこから開発が始まったのが、自分も周りも穏やかに心地良く過ごせるような、不快と感じるノック音を軽減する静音設計。ノック音を軽減する構造を考えた結果、手に感じる衝撃も和らげることに成功。筆記時の思考の負担を軽減することにつながりました。

 

「“静音”という特徴だけではすぐに離れられてしまう。握りやすさや書き味もきちんと担保したいという思いがありました」(中沢さん)

 

すべてに妥協せず、手触り良く摩擦感のあるグリップ、最適なチューニングの先端チップを揃えた「カルム」は、静かで書きやすく、使う人、周りの人に心地の良いペンとして結実したのです。

 

開発者

ぺんてる マーケティンググループ

中沢英和さん

企画初期から「カルム」に携わり、着想から3年を経て商品化。「3Dプリンタも活用しつつ、設計者と検討を重ねました。プロトタイプは資料としてすべて保管しています」

 

多色・多機能モデルも静音化

↑ペン軸後端の内部にクッション材を搭載することで、多色・多機能ペンのノックが元の位置に戻る際の「ガチン」という強い衝撃を抑制。従来比66%の静音化を果たしました(※1)
※1:※当社比、音圧パスカルでの比較

 

新開発の静音ノック機構

↑ノック時に動くパーツを上下から挟んで受け止めることで衝撃をしっかり吸収。新しいこの機構によって、単色ペンのノック音を従来品と比べて69%抑制することに成功しました(※1)
※1:※当社比、音圧パスカルでの比較

 

ユニークなカーキが注目色

↑単色の軸色は、インク色に基づいた黒・赤・青に加えて、白とカーキ(共に黒インク)をラインナップ。特にカーキはボールペンとしては珍しい軸色として、注目カラーとなっています

 

高級感のある革調グリップ

↑エラストマー素材に革シボ調の加工を施したロンググリップ。高級カメラの持ち手と同様の加工になっており、握るとサラリとした感触ながらしっかり馴染む手触りとなっています

 

改良リフィルはキレ味UP

↑ぺんてる独自の低粘度油性インク「ビクーニャ」の改良型リフィルを搭載。先端チップを最適化することでボテ(筆跡のインク汚れ)を軽減し、キレの良い書き味に進化しています

 

プロトタイプを特別公開!

ノック周りの設計に労あり

↑多色モデルは緩衝材を入れる後端部の形状に様々な制約が発生。クリップ部もノックとして機能するように設計し、動きを見ながら破損しない強度を確保するための試作を何度も行いました

 

透明パーツの初期型試作

↑開発のかなり初期段階に3Dプリンタで作られた、パーツの組み合わせを確認するための試作モデル(単色)。ノック部分などは実際には動きませんが、大まかな雰囲気はすでに完成バージョンに近いです

 

色の確認は実物と同じ筒で

↑塗装も様々に条件を変えて試作を重ねました。表面の凹凸やカーブした部分にできる陰などによって色味が違って見えてしまうため、色の確認は実物と同じサイズや質感の筒を用いています

 

ヒケが出ない形状の模索……

↑クリップノックの頭は指当たりを考慮して切り欠き形状に。ただ、削る面積が小さいと製造時にヒケ(樹脂表面のくぼみ)が出やすいので、頭を大きく削るなどして最適な形を検討しました

 

<このヒット文房具もCheck>静かに繰り出せるキャップレス・サインペン

 

ゼブラ

フィラーレ ディレクション

2200円

 

仕事でも使いやすい高級感ある金属軸の水性サインペン。軸をひねることで先端からペン先を繰り出すツイスト機構は、サインペンとしては極めて珍しいです。キャップ開閉などの音が発生しないため、スムーズかつ静かに書き出せるのがポイント。

 

↑新開発のモイストキープインクは、空気中の水分を吸収することで長期間に渡って潤いを保つ特殊なインク。キャップをはめなくても乾きにくいため、ツイスト式を実現できました

 

【Episode.2:キングジム】ペラペラめくって見られるクリアーホルダー収納「シン・綴じ具ファイル」

 

キングジム

ホルサック クリアーホルダーファイル

550円(6枚収納タイプ)、726円(12枚収納タイプ)

書類を入れたクリアーホルダーを挿し込むだけで冊子状にまとめておける収納ファイル。ページをめくるように閲覧できるので検索性が高く、書類の出し入れもスムーズに行えます。ホルダーをまとめてスッキリ持ち運ぶにも使いやすいです。

 

ビジネスから〝推し活〟まで万能ホルダーファイル

書類をサッと収納しておける、と言う気軽さにおいて、クリアーホルダーに勝るツールはないかもしれません。しかし、どのホルダーにどの書類が入っているかを探すのは意外と手間。閲覧性の悪さはストレスだ、と開発者の後藤さんは考えました。

 

「クリアーホルダーをポケットファイルのページみたいに綴じられたら、収納と閲覧が両立できそうだなと思ったんです」(後藤さん)

 

ただ、これまでにない商品で綴じ具の形状が独特なため「使い方がわからない」というクレームもあるのでは……と、発売当初は心配もあったそう。しかし、フタを開けてみれば懸念していたトラブルはほぼなし。問題なく、ユーザーが求める書類/クリアーホルダー管理のニーズにマッチしたようです。

 

「実はこちらが考えていたビジネス用途だけでなく、イラストの保管、アニメやアイドルグッズの図柄入りクリアーホルダーを保存するファイルとしてもお使いいただいていると聞いています」(後藤さん)

 

開発者も想定していなかった使い方も加わることで、さらに人気は高まっています。

 

開発者

キングジム電子文具開発部

後藤なつきさん

「購入者の声を聞くと、いろんな用途で愛用されているようでうれしいです」今後は推し活用にカラバリも増やせたら……と考え中。

 

挿し込んでカンタン収納

↑クチバシみたいなホルダーストッパーをクリアーホルダーの左上角に挟んで挿し込んだら、あとは下部を押し込むだけでホールド完了。簡単にクリアホルダーを冊子状にまとめられます

 

表紙を留めてラクに携帯

↑フラップの丸まったタブを表のスリットに挿せば、表紙をしっかり留めておくことも可能。これならカバンの中で勝手に開いて書類が散らばる心配もないので、持ち歩きやすいですね

 

ホッチキス留め感覚で書類がめくれるファイル

キングジム

ナナメクリファイル

418円

左上のクリップで書類の角を固定することで最大約20枚までファイリングしつつ、ホッチキス留めしたように書類を斜めにめくって閲覧できる。書類がバラつかないよう右下で固定もできるため、持ち運びファイルとしても活躍。

 

一点綴じで書類がめくれる

↑左上に備えたスライド式のクリップの一点だけで書類を綴じておく構造。これによって、まるで角をホッチキス留めしたようにストレスなく、ペラペラとめくって閲覧できます

 

折れるクリップで快適さを追求

↑クリップの根元が二重ヒンジになっているのがポイント。書類を斜めにめくる際にクリップごと裏側に折り返せるので、書類が紙の弾力で戻る心配がなく、スムーズにめくれます

 

地味に効果的な指掛けもあり

↑右下にある半円の切り欠き(指掛け)は表紙をサッと開くきっかけに使えるほか、収納ポケットから書類の角を指で押し出すのにも便利。地味にありがたい“気遣い装備”です

 

プロトタイプを特別公開!

折り紙のような綴じ具構造

↑綴じ具は表裏で質感が違っており、見た目を揃えるために折り方を工夫。最終版(右端)は、クチバシの先端を上下に振り分けて折り合わせることで表裏の向きを揃えました

 

開発者

キングジムステーショナリー開発部

戸上みず紀さん

「試験や試作を何百回と繰り返して商品化に至りました。A3サイズを希望する声もあり、今後色々な方向で展開したいと思っています」

 

面倒臭がりが開発したラクにめくれるファイル

複数枚に渡る書類をまとめて閲覧する際、最も取り扱いが簡単なのがホッチキス留め。直感的にペラペラめくれるし、書類に直接書き込めるのも便利です。

 

ただ、ことあるごとにガチャガチャと綴じる作業が必要になるのはやっぱり面倒でしょう、と自称“面倒臭がり”の戸上さんは言います。

 

「書類のファイリングと、ホッチキス留めの斜めめくりを合わせたらラクかも……、というのが開発のきっかけです」(戸上さん)

 

試作を繰り返すなかで、斜めめくりをスムーズに行うには、書類をしっかり固定するのはもちろん、クリップが後側に折れる(倒れる)ような柔軟性も重要だとわかったそう。

 

「ヒンジはとてもこだわりました。紙の反発力で手前に戻ってこないよう、クリップや書類の厚みも計算して作っています」(戸上さん)

 

ポリプロピレンに筋を入れたヒンジは、自社製品で多く使われている手法。しかし紙1枚の重量でも戻らない柔らかなヒンジを作るためには、何度もテストを行う必要があったそうです。使用する際はぜひ、この部分に注目を。

 

プロトタイプを特別公開!

書類留めクリップが進化

↑最初は帯に書類の角を挿すだけの簡単構造だったが、保持力が弱すぎました。以降はクリップ化、素材の変更で保持力を強めつつ、サイズもコンパクトにするなどの工夫が盛り込まれました

 

約1世紀で劇的に進化! キングジムファイルヒストリー

1927年

人名簿

創業者である宮本英太郎が作った、キングジム最初の製品。ハガキの差出人欄を切り抜いて貼ることで名簿ができるアイデアがポイント。ハガキ切り抜き用のテンプレートも付属。

 

1954年

キングパイプファイル

大量の書類をまとめて保管できる、日本初のパイプ式ファイル。それまで書類は厚紙表紙と紐で綴じるのが定番でしたが、以降は抜き差しが簡単なパイプ式ファイルが定着していきます。

 

1964年

キングファイルG

パイプファイルの綴じ具を改良し軽量化した現在のファイルの原型モデル。これが大ヒットし、黒枠に青窓のキングファイルはオフィスにおけるスタンダードツールとしてその後定着していきました。