1万円以下で使いやすさと書き心地を両立!老舗メーカーが手掛ける万年筆文化を伝え継ぐ一本

ink_pen 2026/3/31
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1万円以下で使いやすさと書き心地を両立!老舗メーカーが手掛ける万年筆文化を伝え継ぐ一本
古川耕
ふるかわこう
古川耕

放送作家、ライター。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」「ジェーン・スー 生活は踊る」などを担当。

文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険

文房具愛好家の古川 耕さんが、筆記具について解説しながら考察する人気連載。今回は、持ち方に合わせてペン先の向きを調節できる新機構を搭載した一本の万年筆を通して、老舗メーカーならではのモノづくりの矜持を掘り下げる。

セーラー万年筆
TUZU アジャストフォージ 万年筆
9900円

自分に合った書きやすさが見つかる万年筆「TUZU アジャスト万年筆」のハイエンドモデル。マットで上品な光沢を生み出す加工を施している。写真のゴールドのほか、力強く重厚感のあるガンメタル、鮮やかで深みのあるメタルブルーの3色展開だ。

「金ペン」と「カジュアル」に大別される万年筆


万年筆は今、ふたつの筆記具に分裂しかけているのではないか、と思うことがあります。

もともと万年筆のペン先は、「金(14金、18金、21金)」製(=通称「金ペン」)と「スチール(主にステンレス合金)」製があり、それぞれ書き心地と価格に差がありました。

金のペン先は弾力性があってしなるため、書き心地は柔らか。そして、高い。2〜3年前なら1万円台でなんとか国産の金ペンが買えていたのに、今は最低2万円は必要。そしてこの動きは今後も続いていくでしょう。

かたやスチールでできたペン先は、しならず、それゆえ書き味も硬め。ただし万年筆に慣れていない人ならさほど違和感がないはずで(筆者もそうでした)、何より安価。下は500円台から、ボリュームゾーンは1000円から5000円で、万年筆らしからぬカジュアルでカラフルなデザインも多い。ゆえにこちらは初心者向けの万年筆と位置付けられてきました。

そもそもあったこうした違いに加え、最近の金相場の高騰により、前述のとおり金ペン万年筆の価格も上昇。かつての「本格万年筆」は、いまや初心者がおいそれと手を出しにくい「高級筆記具」となってしまいました。

一方、入門用のカジュアルな万年筆は、これまた近年の「インク沼」ブームで次々と新製品が登場。こちらはこちらでまた、初心者向けというより、それ自体がすでに独立した魅力をもつ一ジャンルとなりつつあるのです。

こうした万年筆界の分断が進んだ結果、その影響が個々の製品にも顕れてくる。

セーラー万年筆の「TUZU アジャスト 万年筆」は、こうした背景を踏まえるとその意図がよりクリアに見えてきます。

↑グリップに対し握りやすい角度にペン先を回転させられる。写真はペン先の位置を固定して撮影。グリップの見える面が変化している。

カジュアルながらも万年筆初心者をしっかりガイド

「TUZU アジャスト 万年筆」の発売は2024年4月。胴軸は光沢のある樹脂製で、デザインはシンプルでスタイリッシュ。パステルグリーンがメインに打ち出されており、まさに「カジュアル万年筆」の王道。

↑高真空の釜でアルミニウムを加熱して気化させ、その蒸気を製品表面に付着させる「真空蒸着」で、金属のような光沢感を出している。右がガンメタル。

キャップはねじ込み式ではなく手軽なはめ込み式、インクの乾燥を防ぐスライド式シール機構付き、好きなインクを使えるコンバーター内蔵と、かゆいところに手が届く機能がてんこ盛り。さらに太めの外見からは想像できないほど軽量(20g)で、実用性も抜かりなし。なるほど、これは至れり尽くせりの初心者ファーストな万年筆ですね……と思いきや。

本品は、「アジャスト 万年筆」の名を冠するとおり、ねじ込み式のグリップを外して回転させることで、ペン先を10度単位で自分好みの角度に調節できるという珍しい機構を持っています。実際、一段階回すだけでも使い勝手が劇的に変わり、自分なりのスイートスポットを探すのも楽しい。この機構について、セーラー万年筆はこう説明しています。「万年筆をうまく使うには、正しい向きで正しく持つことが必要。しかし、ペンの握り方・書き方は千差万別。それぞれの書き方に万年筆側が合わせて解決してくれるから、万年筆を初めて使う方や使ったことはあるけれどしっくりこず、使用をやめてしまった方に最適なアイテムです」(公式サイトより)。

ここで改めて言えば、TUZUを送り出したセーラー万年筆は、「プロフィット21」などの傑作を擁する国産万年筆界の雄。

となれば、つまり本品は、万年筆初心者に笑顔で寄り添いながら、正しい持ち方やそれで得られる快適さを知ってもらい、あわよくばいずれ金ペンに手を伸ばしてほしい……という、言わば「ゲート(入り口)万年筆」のような密命を背負っているとも考えられるのです。

↑グリップの2つのなだらかな面が指にフィット。グリップは、金属を高配合した樹脂製で、通常モデルよりも重量があり、筆記時に高い安定感を得られる。

国産万年筆の老舗が示した文化を守るモノづくり


ユーザーの万年筆のリテラシーを高めるための、啓蒙的な万年筆。筆者がそう考えるに至ったのは、2025年11月1日に発売された「TUZU アジャスト フォージ 万年筆」を触ったときから。

こちらは、端的に言えばTUZUシリーズの高級モデル。ボールペンでも高級化は流行っていますが、その多くは胴軸の材質を鉄にするなど、本体重量を増すことで高級感を演出しています。

ところがこのフォージ、めっちゃ軽い。

ベースの樹脂素材はそのままに、胴軸は真空蒸着、グリップ部は金属粉末配合樹脂と、あえて手間のかかる加工で金属風の光沢感や肌触りを出し、軽さはそのままに高級感を出そうとしているのです。

軽く、それゆえに快適に長く書き続けられるのが、万年筆の利点のひとつ。それを高級化のために捨てる、などという(安易な?)選択肢は最初からなかったのでしょう。オリジナルから4000円ほど上がった価格をどう見るかはユーザー次第ですが、少なくとも筆者は、創意工夫を凝らして万年筆本来の良さを伝えようとするその姿勢に、感じるものがありました。

↑よりカジュアルに使える通常モデルの「TUZU アジャスト 万年筆」(4950円)。「ペン先回転機構」やグリップの形状は「フォージ」と同じだ。 モノ作りの歴史をたぐり、未来を垣間見る。

初心者に寄り添いつつ、万年筆の良さを守り、そしていつか奥深い世界に目覚めてほしい。そこには、利益云々を超えた老舗としての切実な思いがあったのでしょう。筆者はそれを買いたいと思います。

ちなみにTUZUシリーズには、ペン先調整機能のないボールペンモデルもあり。これはこれで「太軸+エナージェル芯」の組み合わせが良く、隠れたファンも多いそうですよ。

※「GetNavi」2025年12月号に掲載された記事を再編集したものです。
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