「これならEVをマイカーにできるかも?」筆者に思わせたのが、韓国・ヒョンデの小型EV「INSTER(インスター)」です。EVというと、航続距離の短さや充電の使い勝手の悪さ、さらには価格が高めということもあって、マイカーにするには少々ハードルが高いとずっと思ってきました。ところが、インスターを1週間程度試乗してみると、そんな印象は一変。いったいどういった点が印象を覆したのか? くわしくレポートしていきましょう。
◾️今回紹介するクルマ
ヒョンデ/インスター
284万9000円〜(税込)
※試乗グレード:ラウンジ
この記事でわかること
航続距離はフル充電で458km! ロングドライブも余裕で楽しめそう
まずは、インスターの概要から紹介します。デビューは2024年6月に韓国・釜山で開催された「釜山モビリティショー」でした。韓国で「軽車」規格だった「キャスパー」をベースに、EV化に伴って全長とホイールベースを延長。グローバル名を新たにインスターとし、韓国をはじめ欧州でも販売を開始。そこから少し遅れて、2025年4月に日本市場への導入を果たしたというわけです。

日本仕様のラインナップは、上位グレードから順に「ラウンジ(税込車両価格:357万5000円)」「ヴォヤージュ(同:335万5000円)」「カジュアル(同:284万9000円)」の3グレード。すべて前輪駆動方式を採用しています。
インスターで特に嬉しいのが航続距離の長さ。コンパクトなEVながらWLTCモードで458km(ヴォヤージュ/ラウンジ)を実現している点です。仮にエアコンを使って、実距離が7割程度になったとしても320kmは走れる計算になり、これならちょっとしたロングドライブにも余裕をもって出掛けられそうです。
デザインは個性的です。前後には丸型のリングライトの中にLEDヘッドランプを組み込み、ヒョンデのEV共通となるピクセルグラフィックをフロントのウインカーとリアのテールランプに採用。特に後ろから見た姿は、一目でヒョンデのEVであることを認知できるデザインとなっています。

ボディサイズは全長3830mm×全幅1610mmというコンパクトさを実現した一方で、全高はルーフレールを装備したこともあって少し高めの1615mmとなりました。立体駐車場には入れない高さではありますが、フロントのアンダーガードやタイヤ周りのブラックパネルを施すことで、人気が高いSUVっぽいテイストに仕上げています。

多彩なシートアレンジ。クラスを超えた充実の装備に驚き!
車内はそれほど広くは感じないものの、大人4人がゆったりと座れるスペースを確保できています。実はこのインスター、登録車ながら定員は4名です。これはベース車が韓国の「軽車」であることに起因していますが、仮にこのサイズで5人乗りにすれば結構な窮屈感となるのは容易に推測できます。むしろ、定員4名としたことは最適な結論だったともいえるでしょう。
シートアレンジはとても多彩です。助手席のシートバックをパタンと前方に折りたたむと、その面はテーブルにもなり、さらに後席を折りたためば長尺モノの搭載も可能に。また、後席シートを完全に折りたためば、高さのある車室空間とも相まって相当な積載量が確保できることにもなります。
ただ、アンダーボックスをフロア下に用意したこともあり、4人乗車時のカーゴルームはそれほど広くはありません。そこで、左右別々にスライドさせることができる後席シートを上手に使いこなすことが求められそうです。


そして、インスターで特筆すべきはクラスを超えた充実の装備です。ダッシュボードやドアトリムは硬質な樹脂材とはなっているものの、見た目にもチープな感じをほとんど感じさせません。最廉価グレードのカジュアル以外は、マップランプやサンバイザーのランプにLEDが採用され、USBポートは前席と後席に用意(カジュアルはフロントのみ)。最上位のラウンジには、夜間での雰囲気を引き立てるアンビエントランプまで装備されます。



シートの快適性にも注目です。ボヤージにはシートヒーターのみが装備されますが、最上位グレードのラウンジには、なんとヒーターに加えてベンチレーション機能も備えられます。温度や風量をそれぞれ2段階としているのも気が利いています。

ダッシュボード中央のインフォテイメントシステムには10.25インチのディスプレイを採用しました。カーナビゲーションはもちろん、Apple CarPlayやAndroid Autoにも対応しているので、スマートフォンの機能をそのまま反映させることも可能です。また、カーナビ機能は音声でも認識できるので、施設名や住所などを読み上げるだけで簡単に目的地設定ができます。ちなみにナビゲーションのデータは5年間にわたって通信による更新が無料でできるそうです。360度のサラウンドビューモニターの装備も見逃せません。


走りや乗り心地を、日本人ユーザー向けにファインチューン
そして、最も魅力を感じたのがインスターの走りです。パワーユニットであるモーターは最高出力85kw(115PS)、最大トルク147N・mを発生。アクセルを踏むとモーターが即座に反応して速度をグングンと上げていきます。しかし、高出力型EVにありがちな暴力的なパワーを発揮するのではなく、踏み込んだらその分だけをスムーズに、しかもリニアに加速していく感じ。これをすべての領域で反応してくれるので、ストレスを感じることはまったくありません。

ヒョンデ・ジャパンは、日本仕様について単に右ハンドルにしただけではなく、細部にわたってチューニングを施したことを明らかにしています。この加速の仕方も内燃機関に慣れ親しんでいる日本人ユーザー向けに合わせて設定したとのこと。さらに都市高速での継ぎ目に対しても、そのショックをマイルドにしてその際の入力音も気にならないレベルにまで抑え込んでいるということでした。

確かに、乗り心地は低速域でこそ少し硬めに感じましたが、高速域に入ればそれもほぼなくなり、快適なドライブが楽しめました。なかでも感心したのが、高速域でのフラットな乗り心地でした。都市高速にありがちな継ぎ目も実によく吸収し、その際の入力音も気にならないレベルにまで抑え込まれていました。ただ、ホイールベースが短いこともあり、波打つような路面ではひょこひょことした挙動を感じることも。


狭い路地でも取り回しは楽ちん。日本の道路事情にジャストフィット!
とはいえ、運転席に座ると車幅感覚は日本の軽自動車に近く、スクエアなボディデザインにより車両の四隅をしっかりと把握できます。そのため狭い路地に入っても取り回しはとても楽ちん(最小回転半径は5.3m)。EVならではのスムーズさも手伝ってクイクイッと小気味よく路地をクリアしていけます。これは運転のしやすさにつながる重要な要素であって、インスターが日本の道路事情にジャストフィットしたEVに仕上がっている証しといえるのではないでしょうか。
運転アシスト機能の充実ぶりも光ります。高速道路走行で今や欠かせなくなっているのがACCで、インスターではこの機能をナビゲーションと連動させています。これはナビゲーションでルート案内中にカーブに差しかかると、一定速度にまで自動減速するというもの。これは日本車でもすでにお馴染みの機能で、都市高速などでのスムーズなコーナリング通過に役立ちます。また、先行車への追従では、その制御のアルゴリズムが秀逸で不自然さはほとんど感じさせません。この安心感はとても大きいと思いました。

最後に補助金の情報です。2025年度のCEV(クリーンエネルギービークル)補助金が5月に入ってようやく決定し、インスターは全グレードが56万2000円となりました。東京都での購入ならさらに25万円の補助金が加わります。つまり、カジュアルなら200万円ちょっと。最上位のラウンジでも280万円弱で購入できることになるわけです。

こうしてみると、インスターはこれまでEV購入にあたって躊躇させていた要素をことごとくクリア。EV初心者にとっても、新世代のEVに乗りたいと思っていた人にとっても、魅力的な一台になることは間違いないでしょう。日本メーカーのがんばりにも期待したいところです。
SPEC【インスター(ラウジン)】●全長×全幅×全高:3830×1610×1615mm●車両重量:1400kg●パワーユニット:交流同期電動機●最高出力:115PS/5600〜13000rpm●最大トルク:147N・m/0〜5400rpm●一充電走行距離(WLTCモード):458km
【フォトギャラリー(画像をタップすると拡大されます)】
写真/宮越孝政、ヒョンデジャパン