ホームからの転落を防止するために設けられるホームドア。2016年8月に視覚障害のある男性が、東京都内の地下鉄駅のホームから転落して死亡するという痛ましい事件が起きた。このことが契機となり、国土交通省は2020年度までに、1日に10万人以上が利用する駅にホームドアを設置する数値目標を示した。
このホームドア、プラットホームの端に設置されていて、停車した電車のトビラと同時に開き、また電車のトビラが閉まればホームドアも一緒に閉まるもの、という程度の認識しか筆者は持ち合わせていなかった。
しかし、調べてみるとさまざまな形や、開閉方法が異なるホームドアがあった。設置方法の違いもある。さらに、設置が難しい駅があることもわかった。今回は、そんな奥深いホームドアの世界を見ていくことにしよう。
歴史は意外に古い!? 設置費用は数十億円!? ホームドアの豆知識
まずは、ホームドアが生まれてから現在に至るまでの流れについて、簡単に触れておこう。
国内のホームドアの歴史は意外に古い。1974(昭和49)年1月1日に東海道新幹線の熱海駅に設置されたのが初めてだった。東海道新幹線の熱海駅はホームの幅が狭い。さらに上り下りの線路のみで、停まらない列車がホームのすぐ目の前を高速で通過していく。通過時の風圧が強く、利用者が巻き込まれる恐れがあった。そのため、日本初の「可動式ホーム柵」が設置されたのだった。
その後、1977(昭和52)年に、山陽新幹線の新神戸駅に設置され、これが西日本初のホームドアとなった。1981(昭和56)年には神戸新交通ポートアイランド線の部分開業にあわせてホームドアが導入された。さらに1991(平成3)年の営団地下鉄(現在の東京メトロ)南北線が部分開業し、半密閉式のホームドアが全駅に取り付けられた。
現在、多くの駅で見かける通常の開閉式ホームドアは、2000(平成12)年に都営三田線で導入されている。これが新幹線以外で最初に設置されたホームドアでもあった(南北線の方式を除く)。
その後、導入が進んでいき、国土交通省の調べでは2006年度末に318駅だった設置駅が、2016年度末には686駅まで増えている。とはいえ、設置費用はかなり高額だ。1駅(上下2線分)あたり数億円から数十億円にも及ぶという。もちろん、設置後の維持費もかかる。国や地方自治体から一部補助金が出されるとはいっても、JR東日本やJR西日本、さらに大手私鉄といった経営に余裕があるところでないと、そう簡単に導入できるものではないというのが現実だろう。
ホームドアの開け閉めは誰が行っている?
次にホームドアの通常のスタイルと、開閉方法を見ていこう。
通常のホームドアの形だが、ご存知のように2枚の戸が横開きする形が一般的で、ドアが格納される戸袋が左右にある。開いたときの開口部の長さは、電車のドアよりも横幅1mほど大きく開くように造られている。これは電車の停車位置が前後にややずれることがあるためで、そのぶんの余裕を持たせているわけだ。
設置位置はプラットホームの端と平行に設置されるのが一般的で、戸袋裏にセンサーが装着されている。もし、センサーが感知したときにはホームドアが再び開くなど、危険を避けるように作動する。
ホームドアの開け閉めだが、多くは電車に乗車する車掌が後端部にあるスイッチで操作する。電車の進入と同時に自動的にホームドアが開くもの(閉めるのは車掌が操作)と、開け閉めすべて車掌が操作するホームドアがある。
一方で、東京メトロ丸ノ内線や都営三田線などではワンマン運転にも対応。あらかじめ車両に改良を施して、運転士がドアの開閉するボタン操作すれば、連動してホームドアが開閉する路線もある。
次に一般的なホームドアの形に改良を加えた“進化タイプ”の例を見てみよう。
まずは、東京メトロ丸ノ内線の中野富士見町駅の場合。上り線のホームがややカーブしているため、電車とホームの間にすき間が生まれる。そのため、ホーム内からプレートが出てきてすき間を埋めるように作動している。電車とホームのすき間から物が線路へ落ちないよう配慮しているわけだ。
より安全に乗り降りしてもらおうという配慮が感じられるのが、相模鉄道横浜駅のホームドアだ。電車が停車位置に近づくと左右のランプが点灯。まずは赤で、乗車可能になったら青いランプが付く。閉まるときは青→赤と色が変わる。車掌が扱うホームドアの開け閉めスイッチも大きく、誤った操作を防ぐための工夫が見られる。