ドアというよりも「バー」!? 導入に向けてテストが続く新型ホームドアも
走る車両のドアの数、ドアの位置がすべて同じ路線の場合、ホームドアを導入しやすい。困難なのはドアの数、ドアの位置が異なる車両が走る路線だ。こうした駅向けに新型ホームドアの実証実験も行われている。
たとえば、JR拝島駅(東京都)の八高線ホームには、3本バーを支柱間にわたして、車両が到着するとバーを上げ下げするホームドアが使われている。「昇降バー式ホーム柵」と名付けられたこのシステム。ドアの位置が、車両ごとに異なっていても対応できるシステムだ。
バーをロープにしたホームドアも西日本で見ることができる。JR高槻駅(大阪府)で設置されたのは「昇降ロープ式ホーム柵(支柱伸縮型)」と呼ばれる装置。JR西日本はドアの数や位置が異なる車両が多々、走っている。そのため、この形のホームドアが試されているのだ。
鉄道会社間で異なる導入スピード――「2019年度に全駅設置」を掲げるところも
ホームドアの導入は鉄道各社によってかなり差がある。全国の地下鉄や新都市交通、そしてモノレールの路線では、当初からホームドアの導入が盛んで、導入率も高い。
JRでは新幹線の駅の導入率は高いものの、在来線はこれから本格的に、といった状況。大手私鉄では東高西低の印象が強い。また会社間での導入スピードも異なる。
そんななか、2019年度に早くも全駅にホームドア設置を目指しているのが東急電鉄だ。宮前平駅の例を前述したが、東急ではさまざまなスタイルを試してきた。そしていま、活発に各駅のホームドア設置を進めている。
東急のホームドアには2タイプがある。東横線、田園都市線などには通常のホームドアを導入する。一方で、池上線、東急多摩川線では「センサー付固定式ホーム柵」という形の“柵”を設置している。
これは後者の2路線の場合、電車が3両編成と短め、かつ駅間が短く、電車のスピードがほかの路線よりも遅いため有効だと考えられた対応策。ドアは無いものの、電車が発車しようとしたときに柵の内側に人が立つとセンサーが感知して、乗務員に知らせる。
高額な設置費用を、もう少し手軽なものにできないかという試みもJR東日本で始められている。JR横浜線の町田駅の下りホームに付けられたのが「スマートホームドア」という名のホームドア。開口部および戸袋部分が、通常のものにくらべて軽量、簡素化され、本体機器費用、および設置工事費用などの低減を図っている。
今後は、通常のものよりも簡素化されたスタイルのホームドアも普及していくのかもしれない。
あとは2ドア、3ドアなどドア数、およびドアの位置が異なる車両が走る路線。小田急電鉄や京浜急行電鉄などにより、すでに実証実験が行われている。両社では2020年度〜2022年度には主要駅には導入を予定している。果たしてどのようなスタイルのホームドアが導入されるのか興味深い。
ホームドア設置による抑止効果と今後の問題
最後に、ホームドア設置によってどの程度、事故が減るのかを見てみよう。
ちょっと古い数字だが国土交通省が2005(平成17)年にまとめた鉄道事故の統計によると、プラットホームでの死亡者数が196人。そのうち、「酔客」が10人(5.1%)、足を滑らせてなど「その他」での理由が24人(12.1%)。残りがすべて「自殺」164人(82.8%)という割合だった。プラットホームの死亡事故の原因は圧倒的に「自殺」が多かったわけだ。
この数字が、どのぐらいホームドアの設置駅で減っているのだろう。まだ設置駅の事故率を浮き彫りにした公式の統計は、残念ながら出されていない。とはいえ、ホームドア設置駅では誤ってホーム下に転落する事故は、ほぼ皆無となるだろう。時たま起こる、ホームドアを乗り越えて……というような事件がニュースになるものの、設置は確実に自殺をしようとする人たちへの抑止効果を生んでいると思われる。
とはいえ、ホームドア設置後の問題も出てきている。たとえば、つくばエクスプレスの例。2016年にホームドアがからむトラブルが22件も起こっている。ホームドアにはセンサーが付いているが、死角になる部分があるためだ。電車のドアに物が挟まったときに、ホームドアが逆に死角になって見えないことがある。ワンマン運転の電車の場合、こうした状況を運転士がすべて確認して電車を運行しなければならない。
これは、ホームドアもまだ完璧とは言えない技術であることを物語る話だ。今後、ホームドアの設置率向上を生かしていくため、さらなるハード面とソフト面の技術力のアップ、加えて利用者側もトラブルに出会わないために、ホームドアの仕組みをある程度、理解しておいたほうがいいのかもしれない。