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2019/4/27 18:15

ホンダ「PCX125」シリーズってどこが違う? 3台同時乗りでわかったベストモデル

先日の記事でお伝えしたホンダ浜松工場の見学と同時に行われたのが、フルサイズの原付2種として人気の高いPCX125シリーズの試乗会だ。同モデルにはポピュラーなガソリンエンジンのほか、ハイブリッド、エレクトリック(EV)がラインナップされ、その異なる乗り味を比較試乗することができた。

 

本論に入る前に巷で話題の「原付2種」ってナニ?

近年、安定して人気があるのが原付2種。その魅力は機動力の高さと経済性の高さである。原付2種とはオートバイの区分のひとつである小型自動二輪車のことであり、「具体的には原動機が50ccを越え125cc以下、または定格出力が0.6kWを越え1kW以下のものを指す」とされている。要するに、原付(原動機付自転車)より大きいが、排気量が125cc以下、またはモーターの出力が0.6~1kW以下のバイクということだ。

 

以前までは「中途半端なバイク」というイメージがあった原付2種だが、最近はこの点が大きなメリットとしてバイク業界を賑わせている。その理由は「2人乗車が可能」なことと、「自動車保険の優遇」、そして「道路交通法」である。原付はパーソナルな乗り物としては便利だが、2人乗りができないというデメリットが存在する。対して、原付2種は2人乗りが可能となりタンデムツーリングも楽しめる。

 

自家用車を所有している場合、加入している任意の自動車保険に「ファミリーバイク特約」として安価な金額で付帯できるメリットも大きな魅力。そして、原付は道路交通法で2段階右折や30km/hの最高速度制限があるが、原付2種には2段階右折の必要がなく、一般的な法定最高速度である60km/hで走行することができる。唯一、原付2種のデメリットを語るのなら「高速道路を走ることができない」ということだが、この排気量&パワーではむしろ危険なので、高速を走りたい場合はもっと大きな排気量のモデルを選ぶべき。

 

最近は原付2種の免許が最短2日間で取得できるようになり、より身近な存在になっていることも人気に拍車を掛けている。世界中のバイクメーカーが同クラスに注目し、魅力的なモデルを数多くリリースし始めた点も大きい。その火付け役として存在するのがホンダPCXであり、人気モデルの頂点として君臨し続けている。

 

異なるエンジンを搭載したPCXの3兄弟を比較インプレ

PCX125は2009年に開催された東京モーターショーに出品され、近未来を感じさせる流線型のフォルムが大きな話題を呼んだ。翌2010年には日本国内での販売が開始され、現在は3世代目へと進化を遂げている。通常のガソリンエンジン車(写真左)は124ccの排気力を持つ4ストロークの水冷SOHC単気筒エンジンが搭載され、2018年にはPCXをベースにした「PCX ハイブリッド」(写真中央)が追加。

 

同年末には国内の法人・官公庁に向けたリース販売専用車として「PCX エレクトリック」(写真右)が登場した。これにより、同モデルはガソリンエンジン、ハイブリッド、EVの3種類となり、最強の布陣を構築したことになる。前置きが長くなってしまったが「ホンダ PCX125」の布陣がお分かり頂けたことと思う。

 

「ダブルクレードルフレーム」で安定した走りが楽しめるPCXの長兄!

まずは最もポピュラーなガソリンエンジンの「PCX」から試乗を開始。原付モデルの延長として生産されたモデルとは異なり、堂々とした体躯は迫力に満ち溢れている。小柄な女性では足付き性に不安を感じることもあるだろうが、フルサイズのモデルらしい重量感はお見事だ。

 

セルモーターを押しエンジンをスタートさせると軽快なエンジン音を響かせる。アクセルを開けば自分の予想した通りの走りが楽しめるのだが、そこはやはり原付2種の領域。12PS/8500rpmの最高出力に少々の物足りなさは感じてしまうが、必要にして十分のレベル。コース内に設定されたシケインではアクセルの開閉によってスムーズな切り返しが楽しめた。最大トルクは1.2kg-m/5000rpmとのことだが、欲を言えばもう少し低速時からのトルク感が欲しいところか…。

 

ハイブリッドやEVを見越したモデルチェンジにより、フレーム形状をシングルクレードルフレームからダブルクレードルフレームへと変更された恩恵は制動時の剛性にもつながっている。急制動を掛けた時の安定感は大きく、シケインなどで車体を切り返した時の捻じれ剛性も格段に向上しているようだ。

 

4秒間のエクスタシーが魅力の次男坊「ハイブリッド」

↑原付2種の泣き所である非力さをモーターアシストがカバー。スタート時のモタ付き感もなくスムーズな加速が楽しめる。PCXハイブリッドは市販車としての完成度が高く、モーターサイクルが新たな時代へとシフトしたことを体感させてくれる

 

次に試乗したのは次男坊的存在の「PCX ハイブリッド」だ。量産二輪車として世界初のハイブリッドモデルとなり、ガソリンモデルとエレクトリックの中間を担う。基本的なデザインはガソリンモデルと共通だが、カウルの左右に取り付けられた「HYBRID」のエンブレムが存在感を主張していた。細かな部分ではヘッドライトのポジションやテールランプのインナーレンズがブルーに変更されていることだ。

 

↑ハイブリッドの車両重量はガソリンエンジンに対して5kg増。外観の違いはカウルに取り付けられた「HYBRID」のエンブレムと前後ライトのインナーレンズが青くなっていることくらいだ

 

その走り出しはガソリンエンジンとは異質なものだ。エンジンの始動と発電を担っていたAGCスターターを48Vのモーターに変更し、走りのアシストへと利用することでトルクフルなスタートダッシュが体感できる。ちなみにアシスト時間は約4秒間となり、最初の3秒は最大トルクの維持に、残りの1秒を除減に使用しているという。しかし、その加速感はナチュラルであり「モーターでアシストしております」的な違和感はない。

 

ガソリンモデルと比較してスロットルを開けてから車体が動き出すまでのリアクションタイムが短いことにも驚かされる。全体的な印象はひとクラス上の排気量モデルに乗っているような感覚だ。実際、搭載される48Vモーターの最高出力が1.9PS、最大トルクは0.44kg-mとなり、単純計算でガソリンエンジンのスペックに足してみるとアッパーモデルのPCX150よりもトルクが大きいことになる。

 

コース内の試乗すると、スタートダッシュのスムーズさ、シケインでの立ち上がりでのトルク感はガソリンエンジンを凌駕するのがわかる。リチウムイオンバッテリーの小型化に成功したとはいえ、車両重量ではガソリンモデルよりも5kgのビハインドを持ちながらも、重さを感じさせない走行性能は素晴らしいものであった。正直、最初にガソリンエンジンを試乗した時には何の不満を感じることはなかったが、ハイブリッドモデルを乗り終えた後には、ガソリンエンジンの加速感の不足が物足りなくなってしまうほど。あとはガソリンエンジンモデルと比較して“約9万円”の価格差をどう考えるかが悩みの種になることだろう。

 

成長過程の末っ子「エレクトリック」は底知れぬ可能性

最後に試乗したモデルが「PCXエレクトリック」。国内の法人や官公庁を対象にしたリース販売専用車両となり、一般に普及していないモデルだ。基本的なスタイルデザインは長男、次男と共通のものだが、近未来を意識させるブルーの差し色が随所に仕込まれている。ただし、EVユニットを搭載するため、車体にエキゾーストを見つけることはできない。

 

↑カウルの両サイドで主張するELECTRICのエンブレム。ヘッドライトやボディにアクセントを添えるブルーの差し色がエコなイメージを増幅させる

 

搭載されるコンパクトな電動パワーユニットにはIPM(Interior Permanent Magnet)構造を採用し、低回転からトルクのあるスムーズな発進性能を実現。動力用の電源として脱着式のホンダ・モバイルパワーパックをシート下に2つ(約10kg×2個)装備し、一充電で41kmの走行を可能とする。しかし、バッテリーを搭載した影響により、シート下にヘルメットを収納することができなくなったのは大きなデメリットだ。

 

↑シート下のスペースを独占する2つのモバイルパワーパック(バッテリー)は脱着式となり、家庭用の100Vで充電を行うことができる。しかし、バッテリー重量は1つ10kgとなり非力なユーザーにとって大きな負担になることは間違いない

 

イグニッションのスイッチを押すと…静寂の世界。日常的にバイクに乗る筆者には味わったことのない違和感が押し寄せる。このままスロットルを開けて良いのだろうか? このまま足を離すと“立ちゴケ”するんじゃなかろうか…と不安感が胸をよぎる。

 

しかし、心配御無用とばかり無音のまま走り始めるPCXエレクトリック。軽いモーター音を発しながら加速する姿はまさに未来の乗り物である。スロットルを捻る右手首の角度とエンジンの回転音で状況を判断するライダーにとって「無音」で走る姿は、バイクとは別の乗り物に感じることだろう。

 

↑自然環境に優しいゼロエミッションが魅力のモデルだが、趣味性を重視するユーザーにはまだまだ発展途上といえそうだ。バッテリーの性能向上と共に、EVならではリアルな加速感、スロットルに対するレスポンスを改善すれば、趣味性を打ち出したモーターサイクルとして主軸になる可能性が高い

 

スロットルに対してリニアに反応するモーターは非常に素直であり、144kgという決して軽量ではない車体を加速させて行くのだが、最高出力が5.7PS/rpm、最大トルクが1.8kgmという値は正直“パワー不足”だ。特にシケインではスロットルを開きながら車体を切り返すことができなかった。同モデルはアクセルワークで車体を切り返すのではなく、しっかりと減速をしてから体重で車体を切り返す…どちらかと言えば自転車に近い感覚が必要になりそうだ。今後はスロットルの開閉とパワーの関係を司るPCUの性能をアップデートして行けばより楽しさが増すに違いない。

 

新たな時代への挑戦として誕生したPCXエレクトリック。ゼロエミッションの魅力は大きく、排気ガスを出さないスクーターはこれからの世界を大きく変えてくれる可能性を秘めている。現在はフル充電で41kmの走行だが、これが100km、200kmと距離を伸ばすことができれば十分にガソリンエンジンやハイブリッドに対抗することができるはず。同モデルの市販化はバッテリーの進化待ち…と言えそうだ。

 

↑写真はメインのリチウムイオン電池とモバイルパワーパック。原付やe-bikeとは異なり航続距離が求められる原付2種では、電池の小型化、高性能化が今後の運命を左右することは間違いない

 

【まとめ】

正直な話、個人的な意見として「3兄弟の中でどのモデルを選ぶ?」と聞かれれば素直にハイブリッドを選ぶことになるだろう。ガソリンモデルの「素直なバイクらしさ」も捨てがたいが、やはりパワフルさと先進性は見逃せない。両モデルを比較すると燃費の差はほとんどないのだが、約9万円の価格差も考慮しても走りの良さが光るハイブリッドの存在は捨てがたい。エレクトリックは一充電で41kmという走行距離の短さと、充電の手間を考えると現在のレベルではベストチョイスイスになることはないだろう。

↑3兄弟でのイチオシはハイブリッドだ。ガソリンモデルと比べて燃費の差はないものの、走りの良さは大きな魅力だ

 

【スペック】

<PCX>

全長×全幅×全高:1925×745×1105mm 車両重量:130kg エンジン形式:水冷単気筒SOHC 排気量:124cc 最高出力:12PS/8500rpm 最大トルク:1.2kgf-m/5000rpm 乗車定員:2名 WMTCモード値:50.7km/L

 

<PCX HYBRID>

全長×全幅×全高:1925×745×1105mm 車両重量:135kg エンジン形式:水冷単気筒SOHC 排気量:124cc モーター形式:交流同期電動機 最高出力:12PS/8500rpm(エンジン) 1.9PS/3000rpm(モーター) 最大トルク:1.2kgf-m/5000rpm(エンジン) 0.44kgf-m/3000rpm(モーター) 乗車定員:2名 WMTCモード値:51.9km/L

 

<PCX ELECTRIC>

全長×全幅×全高:1960×740×1095mm 車両重量:144kg モーター形式:交流同期電動機 最高出力:5.7PS/5500rpm 最大トルク:1.8kgf-m/500rpm メインバッテリー種類:リチウムイオン電池 メインバッテリー電圧・容量:50.4V・20.8Ah×2個 バッテリー充電電源:AC100V 乗車定員:2名 一充電走行距離:41km(60km/h定地走行テスト値)