乗り物
2016/8/6 16:30

山手線を連想させる環状線化から早8か月! 「札幌市電」の日本ほぼ初の試みの評判は?

全国を走る路面電車の旅 第3回 札幌市交通局

 

赤やピンク、白黒モノトーン……。華やかな色の電車が北の街中を走る。日本最北の路面電車「札幌市電」だ。雪にも強く、北国の人たちにとっては心強い交通機関。2015年12月にはループ(環状線)化され、札幌一の繁華な通りを走るようになった。そんな札幌市電の魅力と最新情報をお届けしよう。

↑やや角張ったスタイルの8500形。1985年に登場した。札幌市電オリジナルの緑色車体で走る
↑やや角張ったスタイルの8500形。1985年に登場した。札幌市電オリジナルの緑色車体で走る

 

【歴史】路面電車ならぬ路面ディーゼルカーも走った

札幌の町にはかつて、25kmにもおよぶ路面電車の路線網があった。歴史は札幌電気軌道が馬車鉄道を電化し、1918(大正7)年8月12日に開業したことから始まる。それを1927(昭和2)年に札幌市が買収。以来、市電として親しまれてきた。

 

最盛期には輸送力増強のため、親子電車、連接車を投入。また非電化路線を開業し、路面ディーゼルカーを走らせた。その後、地下鉄路線の開通で路面電車の必要性が薄れ、相次いで廃止。いつの間にか、すすきのから市街南西部を走る8.41kmのみの路線となっていた。

 

長らく変化がなかった路面電車だが、2015(平成27)年12月に、それまでの始発電停だった西4丁目とすすきのの間がつながれ、JR山手線のような一回りできる環状線となった。

 

【沿線】街の美化にも役立つセンターポール区間

沿線の様子を見てみよう。すすきのから外回り方面に乗り、藻岩山方面を目指す。歓楽街すすきのから次の資生館小学校前へ。ここでは、架線をはったセンターポールに注目したい。

↑センターポール区間を走る札幌市電210形(写真はラッピング当時のもの)
↑センターポール区間を走る札幌市電210形(写真はラッピング当時のもの)

 

道路上を走る路面電車は、架線をどのように張っているのだろうか。多くが道路脇に立つ電柱と電柱の間にワイヤーを渡して架線を吊り、そこから電気を集電する方式をとる。ただこの場合は、下を走るクルマの地上高が限定される。さらに電柱が建ち並ぶ様子は、決してきれいではない。センターポールは道の真ん中にポールを立て、架線をはる。クルマの通行の邪魔にならず、電柱をなくすことで街の美化に一役かっていたわけだ。

 

資生館小学校前からは南下。この先の路線の大半は住宅街で、通勤・通学・買い物の足として利用する人が目立つ。一方、週末は市民のオアシス「中島公園」や「もいわ山ロープウェイ」へのアクセスも担う。

 

その先で北上して走り、「すすきの」電停の約500m北側にある「西4丁目」に戻る。ここは札幌最大の繁華街。デパートやファッションビルが立ち並び、地下には商店街が広がる。JR札幌駅まで地下遊歩道が続き、地下鉄南北線・東西線・東豊線がクロスするポイントでもある。

↑丸っこい愛嬌ある顔立ちが特徴の240形。1960年生まれの古参電車だ
↑丸っこい愛嬌ある顔立ちが特徴の240形。1960年生まれの古参電車だ

 

【車両】50年以上も丸っこい愛嬌のある顔立ちの電車が走る

車両は形も色もさまざま。丸っこいヨーロピアンデザインがお洒落な210形、220形、240形、250形。これらの形式は生まれが古く1958年から1961年までの間、昭和の高度成長期に生まれた電車たちだ。50年以上も黙々と北の都を走り続けてきたわけだ。

 

その後、1985年以降に造られた8500形、8510形、8520形。こちらの車両はやや角張ったスタイルだ。210形らの丸っこい姿と異なるので、一見してすぐ分かる。

↑札幌市電で最も新しいA1200形。愛称はポラリスだ
↑札幌市電で最も新しいA1200形。愛称はポラリスだ

 

さらに2012年に導入されたA1200形。2台車、3車体連接の構造で、低床車両。愛称はポラリス。北の空の中心で輝く北極星のようにという意味が込められている。

↑冬には除雪用のささら電車も登場。札幌の冬の風物詩となっている
↑冬には除雪用のささら電車も登場。札幌の冬の風物詩となっている

 

【最新情報】新線が札幌で一番繁華な札幌駅前通を走る

さて、2015年12月に環状線として再生された“新札幌市電”。新しく路線がつながった区間は、どのような街の風景を作り出しているのだろうか。実際に見に行ってみた。

 

新区間は、西4丁目からすすきの間の約500m。途中に「狸小路(たぬきこうじ)」電停が設けられた。電車はこの区間、札幌市内で最も華やかな通りである、札幌駅前通を走る。

↑新しく設けられた狸小路電停の建物。ベンチが置かれお洒落な雰囲気だ
↑新しく設けられた狸小路電停の建物。ベンチが置かれお洒落な雰囲気だ

 

線路は道路の両端に敷かれており、外回り・内回りの電車はそれぞれ歩道沿いを走る。狸小路電停は歩道上に作られ、道路を渡ることなく電車に乗ることができて便利だ。この歩道側に線路を設ける方式は「サイドリザベーション」と呼ばれ、ヨーロッパでは良く見かける光景。だが、日本の路面電車ではほぼ初の試みと言っていい。

 

一見するとお洒落に感じた。路面電車が街の風景に上手く溶け込んでいた。

↑道路上には路面電車専用と書かれる。タクシーの乗降もこのラインを避けて行われる
↑道路上には路面電車専用と書かれる。タクシーの乗降もこのラインを避けて行われる

 

とはいえ、導入されて間もないだけにとまどいも感じられた。路面電車が走る線路上は駐停車禁止。タクシーの乗降も線路上をさけて道路上となる。ただ、路線上で乗降させるタクシーの姿もないわけではなかった。電車が近づいてくればタクシーの乗り降りはできない。タクシーの運転手、乗客も判断に迷うことがありそうだ。

 

新区間には、もちろん横断歩道もあるわけで、青信号の時に渡れば問題はない。だが、しばしば信号無視をして渡る歩行者も現れる。さらに見ていてはらはらさせられたのは、車道を走る自転車の走行。路線内には入り込む自転車もあり、線路のすき間にタイヤを落とせば当然転倒することもあり、ちょっと怖く感じた。

 

地元商店への商品の搬入も路線上に駐停車してできないわけで、地元の評価は決して芳しくないという声も聞かれた。

 ↑新区間でピンク車体の250形とピンク色のスーパーカーが並ぶ姿がちょうど見られた
↑新区間でピンク車体の250形とピンク色のスーパーカーが並ぶ姿がちょうど見られた

 

路面電車と街の新しい姿。路面電車の利用者目線で見れば便利で、歩道上にある電停から安心して乗り降りできる。札幌市電が今後、どのように変転していくか注目したいところだ。

 

【TRAIN DATA】

路線名:都心線(すすきの〜西4丁目)、一条線(西4丁目〜西15丁目)、山鼻西線(西15丁目〜中央図書館前)、山鼻線(中央図書館前〜すすきの) ※運行は路線ごとではなく内回り・外回り電車として走る

運行事業体:札幌市交通局

営業距離:8.905km

軌間:1067mm

料金:170円(全線均一)

開業年:1913(大正2)年 ※現存路線のうち、西4丁目〜西15丁目が開業

 

 

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文・星川功一/撮影・稲野政男