オーストラリア北部のダーウィンからアデレードまでの直線移動距離3020キロメートルを、5日間かけ太陽の力だけで縦断する「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ(以下、BWSC)」。東海大学は、この世界最高峰のソーラーカーの大会で、過去に総合優勝2回、準優勝2回、第3位1回と好成績をおさめてきた世界的な強豪チームです。2年ごとに開催されているBWSCですが、2021年は新型コロナウイルスの影響により世界大会が中止に。現在、チームは2023年大会に向け、国内でのレースや試走を重ねながら準備しています。
今回は、世界レベルで戦うチームに所属する女子メンバーを中心に、ソーラーカーへの各自の思いを取材。そこから、東海大学ソーラーカーチームが強豪であり続けられる理由が見えてきました。
ほとんどが “ソーラーカー初心者” からのスタート
「ソーラーカー」と聞くと、機械・工学系の男性が活躍している様子を想像する人が多いかもしれません。ところが、実のところ女性ドライバーが小柄な体型を活かして活躍しているチームもあるそう。東海大学でも、現在部員60名のうち5名の女性メンバーが活躍しています。
チームメンバーの多くは、もともとソーラーカーにまつわる専攻を選んでいたわけではなく、ソーラーカー初心者だったといいます。なぜこの活動に参加しようと思ったのでしょうか? きっかけから聞きました。
「再生可能エネルギーの技術に興味があり、将来のステップに繋がると思って参加したのがきっかけです。ソーラーカーについては何も知らないまま参加しましたが、たくさんの学びを得ることができました。もちろん授業が最優先ですが、ソーラーカーが大好きなので、家にいるよりもチームがある『ものつくり館』で過ごす時間の方が長くなることもあります(笑)」(ギセラさん)
「入学式の展示でソーラーカーに一目惚れして、参加しました。そもそもソーラーカーチームがあることも知らなかったので、驚きで。この見た目で時速100キロ以上出ると聞いて、興味を持ったのがきっかけでした。世界一を目指せる場所に自分がいるっていうのが不思議な感覚でしたが、今まで感じたことのない期待感を味わえるのも好きなところです」(小平さん)
「入学式でソーラーカーを初めて見て、夢があると思ったのがきっかけです。せっかく工学部に入ったし、授業以外でも勉強できることがあると思って入部しました。今は機械班に所属し、先輩たちから図面起こしなどを教えてもらって取り組んでいます。少しずつでも、できなかったことができるようになってきて、うれしいです」(岩瀬さん)
「ソーラーカーチームの存在は入学してから知ったのですが、親がクルマ関係の仕事をしていたので、興味があり入部しました。今は広報班として活動しています。ソーラーカーチームでは、設計・構築以外にも、イベントのチラシを作ったり、車体デザインを考えたりする広報の仕事もあるので、私のような工学部以外でも活動できるんです」(早川さん)
「自分たちで設計したソーラーカーを、学生だけで走らせていると聞いて『マジかっこいい』と心から感動してしまい……。気がついたら先輩たちに導かれるように入部していました(笑)。わからないことも教えてくれるし、どんどんチャレンジさせてもらえます。ソーラーカーも先輩も、この環境も大好きです」(猶木さん)
携わる年数に差はあれど、誰もがすっかりソーラーカーの魅力にハマっている様子。活動自体にルールはなく、個人が好きな時に来て、やるべきことをやるのだとか。大学院で学びながら、ソーラーカーチームの学生代表を務める宇都一朗さんも「毎日来る人もいれば、授業やバイトの合間に来る人もいるので、自由度が高いですね」と教えてくれました。
「ワールド・グリーン・チャレンジ」2連覇を支えたチーム力
2022年の夏に秋田県で行われた「ワールド・グリーン・チャレンジ」で、見事2連覇を達成した東海大学。国内から高校・大学・社会人ら20近いチームが参加して行われた大会でしたが、当日は太陽光を遮る悪天候や走行を妨げる風など、条件は最悪。しかも、接触事故により車体が激しくクラッシュするというアクシデントに見舞われます。車体を修復するために、1時間もレースを中断。それでもコースに復帰すると粘り強く挽回し、優勝を成し遂げたのです。
実はここまでの緊急事態は、学生たちにとって初めての経験だったとか。4年生のギセラさんにとっても、この2022年の「ワールド・グリーン・チャレンジ」が在学中で一番の思い出になったと教えてくれました。
「クラッシュした時は驚きましたが、それ以上にみんなのチームワークに助けられたと思います。1秒でも早くコースに戻そうと必死に取り組む姿は、今思い出しただけでも鳥肌が立ってしまうほど。優勝できたのでホッとしています」(ギセラさん)
1年生は、レースに初めて参加してみて、どのような感想を抱いたのでしょうか?
「自分たちのチーム以外にも、いろんなチームがあることに驚きました。私たちよりも年下の高校生、年上の社会人チーム、女性だけのチームもあって規模の大きさを実感できました」(早川さん)
「学外で走行する姿を見るのも初めて。素直に『本当に走っている!』と感動したのが一番大きかったですね。今まで他のチームと比較することもなかったので、東海大学ソーラーカーチームの強み・弱みを把握できたと思います」(猶木さん)
みんなでつかみ取った優勝は、東海大学ソーラーカーチームをさらに強くしたようです。
国内ではトップクラスの実績を誇る東海大学ですが、目指すは世界一。どんな目標で、2023年のBWSCに挑もうとしているのでしょうか?
大切な仲間と一緒に “世界一” をつかみ取る!
BWSCは2年に一度の開催。コロナ禍で2021年大会が延期になった分、現在在籍しているメンバーで世界大会を知るのは2019年大会に参加したメンバーのみ。残念ながら、現在の4年生は世界大会を経験せずに卒業することとなってしまいました。学生代表の宇都さんは、2019年大会も参加したため、やっと参加できる世界大会へ向けて思いも強くあるそう。
「2023年は必ず、優勝したい。ライバルとなるヨーロッパ勢は、コロナ禍でも世界大会に参加しペースをつかんでいます。世界レベルを経験できていないからとネガティブになるのではなく、挑戦者の気持ちで挑むしかないと思っています。個人的には、2019年のリベンジもかけているので、しっかり優勝を勝ち取りたいと思っています」(宇都さん)
また、世界大会を経験できないまま卒業を迎える4年生のギセラさんも、後輩に向けてこんなメッセージを送ってくれました。
「私は入部してから挫けそうになることが何度もありました。自信もなくしたし、難しいこと、どうにもならないことも、たくさん経験できたと思います。その時は “できない自分” が嫌だったけれど、先輩たちが優しくサポートしてくれたおかげで、チャレンジできる気持ちを忘れずに取り組むことができました。チャレンジはけっして無駄じゃない。世界大会に挑むみんなには、授業では得られない貴重な経験をたくさんして欲しいですね」(ギセラさん)
ちなみに東海大学のソーラーカーチームに、 “卒業” はないのだとか。大会前になるとOBやOGが手伝いに来ることもあるとのことで、卒業しても強い絆で結ばれているところにも、強さの秘訣があるのかもしれません。
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最後に、2023年に向け、そしてこれからソーラーカーチームを知る人たちに向けて、メッセージをもらいました。
「初心者も大歓迎! 何も知らなかった私でもたった4年で、制御プログラムが書けるように成長できました。クルマが好きな父とも、ソーラーカーの話題で以前よりも仲良くなることができました。入ってよかったなと思うことがたくさんありますよ」(ギセラさん)
「ゼロからのスタートでも、知識や経験を吸収してどんどん成長できるのは、ほかの部活にはないところかもしれません。新しい発見が多くできるので、探究心がある方や世界を舞台に活躍してみたい人にはおすすめです」(小平さん)
「クルマのことなんて全然知らないまま入部しましたが、ゼロからでも受け入れてくれる先輩がたがいっぱいいるので、安心してください。ここにいると、目標が明確なので自分のやる気も高まります。何をしようか悩んでいるならおすすめしたいです」(岩瀬さん)
「ソーラーカーというと、どうしても機械的な部分だけフィーチャーされてしまいますが、理系じゃなくても関われる部分はたくさんあります。授業とはまったく違うジャンルなので、刺激的で楽しいですよ」(早川さん)
「1年生の私が『仲良しです』っていうのはおこがましいかもしれないけれど、先輩後輩関わらず仲良しなんです(笑)。和気あいあいと楽しんでいるので、女の子にもいっぱい入部して欲しいですね」(猶木さん)
「ソーラーカー」という最先端技術を学び、実践していきながら世界を目指す……さぞストイックな部活と思いきや、仲間を大切にする人たちが揃った和やかな雰囲気を感じる取材となりました。性別も学年も関係なく、一人ひとりが目標を持ち邁進する姿に、東海大学ソーラーカーチームの強さの秘密がありそうです。
学生だけで世界一を目指すのは、そう簡単なことではないはず。しかしこの一人ひとりが束になった時、その夢が叶えられるのかもしれません。2023年夏、オーストラリアの地でどんな走りを見せてくれるのでしょうか。日本から、応援の声を届けていきましょう。
プロフィール
東海大学ソーラーカーチーム
大きなスケールを誇るチャレンジプロジェクトの一つである「東海大学ソーラーカーチーム」。東海大学に所属する大学生・院生の約60名のメンバーで構成されており、学生自らが組織運営するプロジェクトチーム。省エネルギー技術を駆使した電気自動車やソーラーカーの研究に力を入れながら、ソーラーカーの世界大会でもある「ブリヂストン・ワールド・ソーラー・チャレンジ」への参加、企業とのソーラーカー共同開発、学内外への広報活動にも取り組んでいる。また近隣の小学校を対象にしたエコカー教室を開くなど、地域貢献活動にも積極的。
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