現代社会のキーワードの1つ「サステナビリティ」。国連の開発目標の「SDGs(持続可能な開発目標)」はビジネスシーンでもよく見かけるようになりました。本稿では、筆者が2019年に取り上げた欧米のサステナビリティ関連の記事を、私たちに身近な話題である食・住まい・観光・スポーツの分野ごとにまとめて、その動向を振り返ります。
【食】人気急上昇中のクールなビーガン食
健康や環境を重視したサステナブルな食材店やレストランは、これまでニッチな存在でした。長年にわたる嗜好や習慣を変えることは難しく、見た目や味についても物足りなさがあったのかもしれません。けれどもメニューや味、販売形式、プロモーション、価格など顧客視点で創意工夫をすることにより、持続可能なビジネスとして成立しつつあります。
2年前にミラノでオープンした「グリーンステーション」は、豆や雑穀類が中心のヘルシーメニューを提供するファストフードレストラン。多くの銀行や金融機関が集まるエリアにあるため、連日地元のビジネスパーソンなどで賑わっています。
トレーとお皿を持って配膳してもらうカフェテリア形式で、ランチタイムセットはサラダ3種・穀類が3〜4種の中から最大4品のメニューとデザートを選べ、水も付いて14.9ユーロ(約1800円)。このエリアにある多くのレストランはパスタ一皿に水を付けると15ユーロを超えてしまうため、比べるとお得感があります。
味も伝統的なイタリア料理店と同じくらい美味しく、「健康や環境のため味気ないけど我慢」と思わせません。肉類の代わりに豆類を使用したり、パスタに全粒粉を使ったりしていることは、地球環境の持続性を考慮した「プラネタリー・ヘルス・ダイエット」の考え方に基づくもの。また、水や洗剤の使用を抑える意図から、お皿やフォーク、ナイフなどの食器類はすべて100%土に還る生分解性の製品となっています。
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ロンドンでは、ビーガンシェフのギャズ・オークリーさんをはじめヘルシー志向のインフルエンサーや有名人が火付け役となり、InstagramやFacebook、YouTubeなどのSNSを通じてビーガンブームが巻き起こっています。カラフルな画像や映像を届けることで、「ビーガン食品は単調で味気ない」という概念を打ち破ったのです。
また、ほんの数年前までビーガン食品は購入場所が限られていたのですが、現在は多くの大手食品メーカーや大手スーパーが参入しています。そのため植物由来の代替肉はもちろん、シーフード、パン、ピザ、アイスクリーム、ヨーグルト、お菓子、調味料など、バラエティに富んだビーガン用の食品や総菜を手軽に入手できるようになりました。
これら商品にはスタイリッシュなパッケージやポップなロゴ、食欲をそそる写真などが使われていて、ビーガン食に興味がなかった人でも思わず手に取りたくなるとか。SNSを起点に広がった“おしゃれなビーガン食”は、今後イギリスでますます人気が出そうです。
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【住居】環境にやさしい新時代の緑化住まいはセレブもお気に入り
サステナビリティ社会にふさわしいデザインは、住まいでも見られます。イタリアやヨーロッパの富裕層が住むミラノでは、5年前に建設されたちょっと風変わりな高級マンションが、環境にやさしい住まいとして話題になりました。
その名も「垂直の森」と名付けられた2棟の建物は、空中庭園さながらに樹木や植物が建物の壁面などに植えられ、その量はなんと東京ドーム1個分にもなるそう。年間50トンもの二酸化炭素を吸収し、緑地伐採を5万平方メートル抑制できると試算されています。
最高価格の部屋は日本円で2億円以上ですが、世界各国の富裕層がこぞって購入。同エリアでは「垂直の森」を含む見学ツアーが行なわれ、料金はひとり約1万6000円からとやや高めなものの、建築家ガイドによる詳しい説明が聞けるそうです。
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【観光】地域でお金を循環させるホテル
エコ意識の高いニュージーランドでは、「サステナブル・ツーリズム」の意識がより高まっています。その成功例として注目されているのが、旅行サイトExpediaのエコホテル部門でも世界ベスト10にも選ばれたホテル「シャーウッド」です。
まずは食材の地産地消を実践し、レストランで使う食材の99%はニュージーランド産、野菜の40%はオーガニックの敷地内産、飲み物の60%は家族経営のワイナリー産となります。地産地消は食材の輸送で生じる二酸化炭素を削減する狙いもあるそうです。
地元のヨガインストラクターやアーティストを講師とした宿泊者向けのイベントを定期開催するなど、地域の収入源を生み出しお金が循環する仕組みを整えています。
家具や調度品にはリサイクル廃材を再利用し、キッチンや風呂場の床はタイヤの廃材、カーテンは軍隊の羊毛ブランケット、カーペットは漁で使った網というような徹底ぶり。電力はソーラーパネルで賄い、余ったら送電網に返す仕組みで無駄が生じません。
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【スポーツ】サステナビリティが欧州選手権の隠れた主役
照明や冷暖房による大規模な電力消費や観客が出す大量のゴミなど、スポーツイベントは環境への負荷が課題です。そのため2020年6月に開かれる「サッカー欧州選手権(EURO2020)」では、新たな環境ガイドラインに沿った運営を行うことになりました。
2018年に新プロジェクト「ライフタックル」を設立し、イタリアの研究機関や企業・団体、各国サッカー協会が参画して環境ガイドラインを作成。欧州サッカー連盟のバックアップを通じ、「EURO2020」開催地の10会場以上でガイドラインに沿った運営を目指します。これを踏まえ、環境への負荷軽減に革新的な工夫が施されているセリエAの強豪ユベントスのアリアンツ・スタジアムで調査が行なわれました。
同スタジアムは建築材料の多くにリサイクル品を使い、太陽光発電や地域熱供給システムなどを導入してエネルギー消費を抑制。芝への散水には溜めた雨水を使用し、ゴミを分別するための大規模な専用ブースを整え、関係者の食事には紙皿や木製のフォーク、ナイフを使うなど細かい配慮をしています。
調査チームはここで得た有益な知見をもとに2020年初頭までにガイドラインを作成し、消費エネルギーの抑制やゴミの削減など各分野での指針を定めていく予定です。「EURO2020」開催の際には、サステナビリティ視点からも注目してみてください。
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本稿では、欧米の事例を取り上げたサステナビリティの記事をまとめてみました。このテーマ自体はすごく大きくて複雑な問題ですが、自分にとって身近な分野でどんな動きがあるのかを知ると、自分事化するのが幾分か楽になるはず。それが小さいけれど大事な一歩となるかもしれません。