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2020/3/25 19:15

【途上国で働く日本人に聞きました】世界の知られざる“とっておきスポット”を厳選!

現在の情報化社会では、世界中の観光地や絶景スポットの情報もインターネットなどを通して知ることができます。それでも日本人に馴染みの薄い国の中には、知られざる“とっておきスポット”がまだまだ数多くあります。

 

そこで今回は、世界の開発途上国で活躍しているJICA(独立行政法人 国際協力機構)関係者の方々が、自ら足を運んで魅力を実感したとっておきスポットの情報を集めてみました。その中から選りすぐったイラン、マラウイ、東ティモールの見どころを紹介します。

↑イラン・ゲシュム島の景勝地のひとつ「チャークー・ヴァレー」

 

イラン・ゲシュム島

「風の塔」が絶景の主役

 

イラン・イスラム共和国は、国土の大部分が砂漠気候あるいはステップ気候で、日本では「砂漠が多い国」というイメージがあります。ただ、北部のカスピ海に面する地域には森林地帯が広がり、南部にはペルシャ湾やオマーン湾に面する長い沿岸部もあります。とくにホルムズ海峡(ペルシャ湾とオマーン湾を分ける海峡)に浮かぶゲシュム島は、イラン最大の島であり、多様な自然と伝統文化に恵まれているため近年は観光地としての開発も進んでいます。

↑ラフト村から中東最大のマングローブ林である「ハラ・マングローブ」を周遊するボートから見られる景色。エキゾチックな伝統建築が来訪者を迎えてくれる

 

そんなゲシュム島のことを教えてくれたのは、ゲシュム島の開発も含めたJICAの事業を委託された(株)レックス・インターナショナルの河村陽二さん。「ゲシュム島は、島全体がユネスコの世界ジオパークに認定されています。その自然が生み出した絶景を堪能するとともに、地形の形成や侵食の過程を体感しようと多くの愛好家が国内外から訪れています」。そんな河村さんの一押しは、ゲシュム島の玄関口とも言える「ラフト村」です。

 

「ゲシュム島はかつてラフト島と呼ばれていたことからもわかるように、ラフトは最も重要かつ繁栄した港でした。2001年にはイランで初めてエコミュージアムとして指定され、美しい街並みや建築物の優美さを活かした観光業が盛んです。とくに『バードギール』と呼ばれる集風塔(風の塔)が、風光明媚なラフト村の景色を一層引き立てています。バードギールは空中の涼しい風を室内に取り込む自然の空調装置として大事な機能を持っています」(河村さん)

↑ラフト村の伝統的な家には、このような四角い塔=「バードギール」が備えられていることが多く、真夏には40度を超えるこの地域でも、吸気口から涼しい風が取り込まれている

 

「ラフト村の観光ではなんといっても街の散策がお勧めです。「レンジ」と呼ばれる伝統的な貿易船や古井戸を見学したり、地元の人たちと触れ合ったりすることにより、とても心地よい時間を過ごすことができます。エコミュージアムとしては、季節限定ですが観光体験ツアーも行なっているため、ゲシュム島の伝統的な料理やスパイス作りなどを体験できます。私も初めてラフト村を訪問したときは、丘から見渡せる壮大な街並みに圧倒されました」

 

その他では、下の写真の「ソルトケーブ(塩の洞窟)」も非常に美しい場所です。「ここは世界一長い塩の洞窟として有名です。ゲシュム島の南西端に位置しているのでアクセスは良くないですが、『塩の川』なども見ることができて、インスタ映えはかなりすると思いますよ」と河村さんは教えてくれました。

↑ゲシュムジオパークの中でも重要なスポットのひとつ「ソルトケーブ(塩の洞窟)」。雨水などで溶け出した岩塩が固まり、洞窟の壁が真っ白な結晶で覆われている。この種の洞窟としては世界一の長さを誇る

 

アクセスの課題については「元々ゲシュム島は広い島ではないので、道路がもう少し整備されればアクセス性も改善されると思います」とのこと。近年ではバードギール(風の塔)も電気の空調にとって代わられつつありますが、そうした文化遺産の保護・保全も、エコアイランド構想の中では重視されています。JICAでは、ゲシュム島をより豊かで魅力的な地域にするために「エコアイランド構想」による島全体のマスタープランの策定を支援しました。今後、イラン側がそのマスタープランに沿って開発を進めることが期待されます。

 

【教えてくれた人】

河村陽二さん

(株)レックス・インターナショナル シニアコンサルタント。専門分野は、インフラ開発計画、地域開発、コミュニティ開発、SDGs推進などで、ゲシュム島ではJICAのモデル事業の実施管理を担当。その他にもモンゴルやスーダンでも国家プロジェクトに携わっており、居住地は静岡県だが年に4~5カ月は海外に出張している。ゲシュム島にも延べ7カ月以上滞在し、「地元の料理や海岸の美しい風景を見ながら散歩することが楽しみです!」

関連リンク:ゲシュム島の「エコアイランド」構想による地域のための持続可能な開発計画策定プロジェクト

 

マラウイ

穴場感・秘境感たっぷりの奇岩たち

 

マラウイ共和国は、アフリカ南東部の内陸国で、南北に細長い形をしています。国土面積が北海道と九州を合わせたくらい(=本州の半分ちょっと)の大きさで、国土のほとんどが高原地帯。そのうちの大きな面積をアフリカで3番目に大きいマラウイ湖が占めており、漁業資源や観光資源としても重要な役割を果たしています。

↑国の象徴であるマラウイ湖には遊泳できるビーチもあってリゾート施設も多い。木をくり抜いて作ったカヌーは、漁船として古くから使われている

 

そんなマラウイのとっておきスポットを教えてくれたのは、JICAマラウイ事務所長の木藤耕一さん。一押しは「チカラの柱」と呼ばれる奇岩群です。

↑風雨で柱状に削られた奇岩群が立ち並ぶ「チカラの柱」。力の柱ではなく、チカラという地名からきた名前

 

「私がチカラの柱に行ったときはきちんとした案内地図がなく、自分たちだけで行くのは難しいとのことで、マラウイ人のガイドに案内してもらいながら自動車で行きました。渡るのにとても度胸を要する仮設の木橋を渡り、村の脇道を抜け、車を降りてしばらく畑道を歩くと、井戸のある集会所に出ました。

 

すると村長がゲストブックを持って現れ、名前を書いて拝観料を支払うと、別の案内人が出てきて『ついて来い』と藪の中に入っていく。アップダウンのある細い道を歩いていくと、チカラの柱が目の前に現れました! トルコのカッパドキアほど大規模ではないものの、人的な加工は一切なく、自然の風雨の力だけで造形された土(岩ほど固まっていない状態)の柱は圧巻です。マラウイでもここだけでしか見られません」(木藤さん)

 

チカラの柱は観光地としての知名度はまだ低く、開発が進んだ観光地でもないので、マラウイに住む外国人でも知らない人が多いそうです。「その分穴場感があり、『秘境探検』で世紀の奇岩を発見した気分を味わえます」とのこと。

 

地質的には火成岩のような硬い岩ではなく、だからこそこのような形ができたわけですが、逆に保存が難しく、年月とともに風化が進んでいるそうです。つまり、いつか溶けてなくなってしまう恐れもあり、眼の前にある柱状の景観は今このときしかないと言えます。

 

また、チカラの柱から北上すると、リウォンデの「ゲーム・ウオッチ」(いわゆるサファリ・ドライブで、ライオン、カバ、象などが見られる)や、マラウイ湖畔のリゾート地(湖を船で遊覧できる)といった観光地もあります。

 

南に下れば、旧首都のゾンバや周辺の山間のコテージで山歩きや乗馬を楽しむことができ、「ゾンバ周辺はイチゴやベリーなどの果物も美味しいです」と木藤さんは教えてくれました。

↑リウォンデ国立公園のサファリ・ドライブで見られるゾウたちの姿

 

【教えてくれた人】

木藤耕一さん

JICAマラウイ事務所長。専門分野はインフラ、水、環境で、2017年4月に首都リロングウェの現事務所に着任。マラウイ政府に協力するJICA事業の全体を管理している。チカラの柱から南に15㎞ほど下ったドマシという街では、JICAの協力によって教員養成大学の拡張工事が行なわれているため(今年の完成予定)、木藤さんも現地を訪れる機会があるそう(マラウイでは中等学校の教員養成大学は2校しかなく、どちらもJICAの協力により設立されいる)。現地の生活についてたずねると「毎朝庭でさまざまな鳥のさえずりを聞きながらマラウイ産コーヒーを飲むのが憩いのひとときです」と語ってくれた。また、マラウイではJICAの協力により「UNDOKAI」が開催され、順調に根付いているとのこと。

関連リンク:マラウイの小中学生が日本の「運動会」競技に挑戦 —協力隊が広げる“UNDOKAI”−

 

東ティモール

知られざる歴史遺構

 

東ティモール民主共和国は、東南アジア最南端の地域で、赤道を越えてオーストラリアに近いティモール海に浮かぶ島国です。2002年に独立した21世紀最初の独立国としても知られています。

 

独立から間もないゆえ、日本を含め世界的な認知度はまだ低く、観光地としての注目度も高くないようですが(『地球の歩き方』の東ティモール版は未発行)、豊かな自然や美しい海、さまざまな国の影響を受けた歴史や文化があり、とても魅力的な国であることは間違いありません。

↑東ティモールの首都ディリは国内最大の都市で、景観の面でも見どころが多い

 

そんな東ティモールの情報を教えてくれたのは、JICA東ティモール事務所・次長の後藤 光さん。とっておきスポットは、絶景とはいえないものの、まさに“知られざる”という言葉にふさわしい「7つの洞窟」です。

↑内陸の街ベニラレにある「7つの洞窟」。入り口が7つあるため現地の人が“Fatuk Kuak Hitu(7つの洞窟)”と呼んでいるが、写真のように洞窟内部で全てがつながっている。大きさは縦穴が約10m、縦穴同士をつなぐ横穴が約15mで、高さは入り口周辺で約160cm、中に入ると約170cm

 

この洞窟は、第二次世界大戦中に東ティモールを占領した日本軍が地元の人たちに掘らせたものだそうです。大戦当初に東ティモールを植民地としていたポルトガルは中立国でしたが、1941年にはオランダとオーストラリアが日本軍から守るという名目で保護占領。しかし1942年には日本軍が占領し、1945年までの3年半、全島を支配しました。この洞窟のあるベニラレは、日本軍が内陸に進出するための拠点としたそうです。

 

「地元の人はあまり来ず、とくに案内や看板もありませんが、7つの入り口は大きいのですぐにわかります。実際に行ってみると、想像していたより洞窟の中は広く、壁にはいたるところに手作業で掘った跡がありました。第二次世界大戦時にこのような洞窟を掘った現地の人たちの労力は相当なものであったと感じました」(後藤さん)

↑7つある入り口のひとつ。このように道路のすぐ側の入り口もあるので、出入りには注意が必要だ

 

また首都のディリには、ブラジルに次いで世界で2番目に大きいキリスト像「クリスト・レイ」が立っていて、目玉観光地のひとつ。「市内の『レジスタンス博物館』も、ぜひ訪れて東ティモールの独立の軌跡を知ってほしいです」(後藤さん)というあたりも押さえつつ、美しい海や山の景色をのんびりと楽しむのが東ティモールでのお勧めの過ごし方のようです。

↑ディリの市街を見下ろす丘の上に建造された「クリスト・レイ」。高さ27mの巨大なキリスト像で、世界で2番目に大きいと言われている

 

【教えてくれた人】

後藤 光さん

JICA東ティモール事務所・次長。専門分野は国際協力(とくに土木、防災)で、首都ディリの事務所に昨年9月から赴任中。総務や経理、広報、安全、企画業務を統括している。東ティモールの歴史や文化を大切にしながら現地の仕事に取り組み、さまざまなプロジェクトで関わる東ティモール政府機関との会合も多い。洞窟のあるベニラレでもJICA海外協力隊員が活動しており、「今のところ洞窟はとくに活用されていませんが、シイタケ栽培など地元経済に資する活用を検討しても良いのではと思っています」とつねに現地の人のためになることを考えている。

関連リンク:

無事故で完工!ディリ港フェリーターミナル緊急移設計画

東ティモールの都市給水支援

 

以上3カ国の“とっておきスポット”、いかがでしたか? こうして現地の生の声をじっくり聞くと、絶景を主目的とした観光でも、やはりその土地の歴史や地理、文化といった背景を知ったうえで楽しむのが醍醐味だと感じますね。

 

JICA(独立行政法人国際協力機構)のHPはコチラ

 

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