一ノ瀬ワタルインタビュー「どんな人間でも変われると信じている。だから西は子どもたちを決して見捨てない」

ink_pen 2026/6/27
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一ノ瀬ワタルインタビュー「どんな人間でも変われると信じている。だから西は子どもたちを決して見捨てない」
GetNavi web編集部
げっとなびうぇぶへんしゅうぶ
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道を踏み外しそうになっている少年少女と、彼らを真正面から受け止め、“人は必ず変われる”と説く1人の男――。常に社会に一石を投じる作品を生み出し続けている𠮷田恵輔監督の最新作『四月の余白』。この作品で一ノ瀬ワタルさんは主人公・西健吾を演じている。何度裏切られても子どもたちを信じ、時には体罰も辞さないと考える西。正解がない問題に取り組んでいくこの役とどう向き合っていったのか。その心根をうかがった。

一ノ瀬ワタル●いちのせ・わたる…1985年7月30日生まれ、佐賀県出身。2009年映画『クローズZEROⅡ』で俳優デビュー。ドラマ「サンクチュアリ -聖域-」(23)で主演を務め注目を集める。近年の主な出演作に、ドラマ「対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜」(25)、「イクサガミ」(25)、「インフォーマ」(25)、映画『ヴィレッジ』(23)、『炎上』(26)など。

【一ノ瀬ワタルさん撮り下ろし写真】

撮影中から“これはものすごい映画を撮ってるぞ”と感じていました

──今回の『四月の余白』は、文字通り体当たりで挑んだ作品だったと思います。オファーがあったときはどのようなお気持ちでしたか?

 

一ノ瀬 お話を頂いたのが、ちょうどNetflixの『サンクチュアリ -聖域-』を撮影していたときだったと思います。ですから、二度目の主演ということもあり、やはり嬉しさがありましたね。ただ、『サンクチュアリ』が特殊な作品でしたし、この『四月の余白』も毛色がまるで違う内容で。その意味では、“ちゃんとやれるかな”という不安もありましたね。

 

──一番の不安要素はどういったものだったのでしょう?

 

一ノ瀬 扱っているテーマもそうですが、自分が座長としてしっかり作品を引っ張っていけるのかというのがありました。というのも、いつもどんな役であろうと、作品のなかで自分の存在がどんなスパイスになるのかを考えているんです。“一ノ瀬ワタル”としての役割を最大限に表現し、それが作品にとっていい味付けになればな、と。でも、今回は最初に𠮷田恵輔監督から、「この『四月の余白』に関しては一ノ瀬ワタルが受け手になってほしい」という思いがけない言葉を言われたんです。

 

──作品を引っ張るというよりも、支える感じですね。

 

一ノ瀬 そうです。だから、今回に限っては自分の味付けがうす味……っていう言い方をしたらちょっと誤解を招くかもしれませんが(笑)、自分の個性をあまり前に出すことはせず、そのかわり、周りの登場人物たちの言葉や行動を受け止める側に徹したんです。そこが挑戦であり、不安な部分でもありました。

 

──やはり難しさがあったのでしょうか?

 

一ノ瀬 ありました。ただ、最初こそ、慣れない“受け”の芝居に大変さを感じていましたけど、むしろ新鮮でもあって。それに、撮影を重ねていくうちに、不安はどんどんなくなっていきましたし、逆に、“これ、ものすごい映画を撮ってるぞ!”という思いのほうが強くなったんですよね。

 

── どういったところに、その“すごさ”を感じたのでしょう?

 

一ノ瀬 ひとつに、主人公の西健吾が抱えているものや目指しているものの大きさです。彼は、「みらいの里」という更生施設を運営し、問題があるとされている子どもたちと正面から向き合っている。でも、もともとは百戦錬磨のワルで、刑務所にも入っていた過去があるんです。悪いと言われることはひと通りやってきているし、監督からも「だからこそ、西は何が起きてもまったく心がブレない強さがあるんだ」という説明を受けていました。

その一方で、彼は今となっては改心してるし、子どもたちにとって頼れる大人が西しかいないように、西にとっても子どもたちしかいない。にも関わらず、あるとき、施設が運営できなくなるかもしれないという危機が訪れる。撮影をしながら、本当にどうしようもない感情になりましたし、“幸せとは一体何なのか”という疑問が自分のなかで大きく膨らんでいって。そうしたひとつひとつが、“自分は今、とんでもない映画に携わっているんだな”という気持ちに結びついていったんです。

子どもたちを信じ、大事に思うがゆえの暴力

──この作品で一貫して描かれているのは、西による“人は必ず変われる”という信念でした。

 

一ノ瀬 そうですね。彼自身は本当に変われたんだと思います。だから、子どもたちにどんなひどいことをされても、最後は笑顔なんですよね。ただ、変わったといっても、まったく暴力を振るわないというわけではなく、状況によっては子どもたちを力で押さえつけることも必要だと考えている。映画の中で西が本気で怒り、彼のかつての狂気性が垣間見えるシーンがあるんですが、それもほんの一瞬だけ。それぐらい西は変われたし、子どもたちを大事に思っているんです。

 

──ただ、西自身は変われたと思っているものの、過去に犯してきた過ちは消えず、西の暴力が原因で人生を台無しにさせられた相手からは、「あなたは被害者の気持ちには寄り添えない」と言われました。西にとってはショッキングな言葉だったのではないかと思います。

 

一ノ瀬 被害者側の気持ちはすごくわかりますよね。西にしても、たしかに心にグサッと刺さったかもしれないです。でも自分としては、言葉の全部の意味を西は理解できていなかったんじゃないかなという気もするんです。どこかしらに、「いや、お前、何言ってんの?」っていう気持ちがあったんじゃないかなって。だって、“変われない人間なんていない”と信じてるわけですし。その意味で、あのシーンを撮っているときは、自分のなかでなんとも言えない感情が渦巻いてましたね。

 

──たしかに感情としては複雑ですよね。今回の役作りについて、𠮷田監督と話し合うことも多かったのでしょうか?

 

一ノ瀬 たくさんありました。監督はこの西という人物について、以前『ザ・ノンフィクション』で放送されていた男性をイメージしていると話してくれたんです。その人はもともと半グレ集団のメンバーで、今は元受刑者や出所者を支援する活動をされている。自分も偶然同じ番組を見ていたんですけど、見た目はものすごく普通な方なんです。“本当に昔悪いことをしてたの?”って思ってしまうぐらい。ただ、たまに話す内容が怖かったり、鋭かったりする。その佇まいや、何事にも動じない雰囲気はすごく参考になりました。

 

──また、作品の中では施設にいる子どもたちが西を信頼し、慕う様子も描かれていました。撮影中はどのように接していたのでしょう?

 

一ノ瀬 カメラが回っていないところでもいつも仲良く……という感じではなかったです(笑)。でも、これには理由がありまして。『サンクチュアリ』で猿桜を演じていたときも、江口カン監督から「撮影中は誰とも口を聞くな」と言われていたんです。役柄的に態度の悪い男でしたから。あのドラマは準備期間と撮影期間で2年半ほどあったんですが、共演者ともスタッフさんとも一切しゃべらない時間を過ごして。これがもう、本っ当に辛かったんです(笑)。 

 

──初めての主演作でそれはたしかに辛いですね(笑)。

 

一ノ瀬 そうなんです。でも、その分、役や作品に深く潜っていけるような感覚がありました。なので、今回も子どもたちとはあえて距離を取って、一緒に御飯に行くようなこともしなくて。ただ、そうはいっても、西にとって心の拠りどころは子どもたちだけですからね。現場では最大の愛を持って見守っていたという感じでした。

オールアップの帰りの車の中で、なぜか突然涙が溢れてきたんです

──映画の中の西の言動を見ていると、彼が子どもたちを絶対に見捨てないという愛情の裏には、自分自身の過去を投影し、彼らに後悔する人生を送らせたくないといった思いがあるのかなと感じました。

 

一ノ瀬 それはあるかもしれないですね。あと、西って純粋に愛が深い人間なんだと思います。僕自身は子どもを育てたことがないですから、正直、親の気持ちというものがわからないです。ただ、ウサギを8羽飼っていて。今はそのウサギたちのためだけに自分は生きているんです。部屋の環境も、普段の生活スタイルも、全部ウサギたちに合わせてるし、8羽が幸せに暮らすためならなんでもやる。それを思うと、自分の人生すべてを子どもたちに捧げるという西の気持ちがわからなくもないんです。

 

──ただ、先ほどおっしゃったように、西は子どもたちに暴力を振るうこともありますよね。映画を観ながら、あらためて教育のための暴力の是非を考えさせられました。

 

一ノ瀬 そこは本当に難しいところですよね。きっと正解を出せないものだと思います。ただ、西が「時には体罰も必要だ」と強く言い切れるのは、おそらく彼が暴力のさじ加減をわかっているからだと思うんです。自分もキックボクシングをしてたからわかるんですが、“この線は超えちゃいけない”っていうのがある。もちろん、痛みの度合いは人によって違うものですから、そこも考えないといけないんですけど。

 

──逆に、未成熟の段階にいる子どもたちは、そのさじ加減がわかってないことが多いですよね。

 

一ノ瀬 そうなんです。作品の中でも、西が特に手を焼いていたのが、もう一人の主人公とも言える澤海斗という少年で。彼はその加減をバンバンと超えてくる。つまり、人としてヤバい。ただ、だからといって西には海斗のことを見捨てるという選択肢はまったくなくって。彼にどれだけ酷いことをされても、“絶対に変えてやる”っていう愛情だけは忘れないようにして演じてましたね。

 

──海斗を演じた上阪隼人さんとの共演はいかがでしたか?

 

一ノ瀬 自分の気持ちが入りすぎていたのか、なんだか不思議な感覚がずっとありました。印象的だったのがラストシーン。彼の家の玄関を出たあとに、パッと振り返って「大丈夫、お前は変われるよ」って言葉を残すんです。そのシーンでオールアップだったので、撮影が終わったあとにスタッフさんや共演者の方々から「お疲れ様でした」と労ってもらったんですが、その帰りの車の中で、なぜか一人で号泣したんですよね。もちろん、撮影中もお芝居をしていて悲しい感情はあったんですが、あとになって涙が溢れてきて、それが全然止まらなくって。

 

──涙の理由がご自身でもわからなかったんですか?

 

一ノ瀬 そうなんです。でも、たぶんですが、上阪さんに涙を見せられなかったからじゃないかなって気がします。𠮷田監督から最初に言われた、「西はすべてを受け止める人だから」という言葉が自分のなかにずっとあって。だから撮影中はずっと、“海斗の前で泣くわけにはいかない”という西としての思いが芝居にも表れていたんだろうし、すべての撮影が終わった瞬間にいろんな感情が一気に出てきてしまったんじゃないかなって思うんですよね。 

 

──なるほど。なお、西の存在は少しずつ海斗に変化をもたらしていきました。一ノ瀬さんにとっても、西と同じようにご自身の人生に大きな影響を与えてくれた大人はいましたか?

 

一ノ瀬 人生のターニングポイントで自分を組み立ててくれた方は何人か頭に浮かびますが、そのなかでも大きかったのは沖縄の真樹ジムオキナワの先生ですね。自分は小学生のころからずっとキックボクサーになりたくて、その夢が諦めきれず、高校を中退して上京したんです。でも、なかなか仕事との両立がうまくできず、沖縄のジムに行くことにしました。そこは、朝から夜まで練習漬けで、ケータイすら持つことを許されない厳しい環境で。砂鉄の入った麻の袋を毎朝1000発殴って、皮膚がめくれてきたら、先生が塩をすり込んでくるんです。「この痛みがお前を強くする」とか言って(笑)。それぐらい厳しい先生でしたが、それ以上に優しさがあって。挨拶の仕方や目上の人を立てる礼儀なども教えていただきましたし、あの時間は自分にとって本当に大切なものだったなと、今でも強く思いますね。

 

映画『四月の余白』

2026年6月26日より公開中

【映画『四月の余白』よりシーン場面】

(STAFF&CAST)
監督・脚本:𠮷田恵輔
音楽:世武裕子
配給・制作プロダクション:アークエンタテインメント

出演:一ノ瀬ワタル
夏帆、上阪隼人、篠原 篤、占部房子ほか

(STORY)
元半グレで元受刑者の過去を持つ西(一ノ瀬)は、“人は変われる”という信念をもとに更生施設を運営している。ある日、中学教師から相談を受けた西は問題児とされる海斗に会うと、彼の狂気をすぐに見抜く。そして両親との話し合いの上、彼を施設に招き入れるのだが……。

https://shigatsu-yohaku.com

(C)2026 N.R.E.

撮影/干川修 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/星野加奈子 スタイリング/皆川bon美絵

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