省エネ・創エネ・快適性を同時に実現する「ZEB」に迫る~三菱電機株式会社
三菱電機といえば、GetNabi webでは家電のトップメーカーとして様々な製品を紹介しています。「霧ケ峰」でお馴染みのルームエアコン、本物の炭を内釜に使った「本炭釜」、最近では、美味しいパンが焼けるブレッドオーブンなど、挙げればキリがないほど。
我々にとっては家電製品が身近な三菱電機ですが、実は、未来の都市変化を先取りした取り組みを行っているなど、さまざまな価値創出による社会貢献にも積極的です。そのなかで近年、注目されているのが「ZEB」(ゼブ)というワードです。
年間のエネルギー収支ゼロを目指す「ZEB」とは
ZEBとは、「net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)」の略称で、快適な室内環境を保ちながら、設備の高効率化や建物の高断熱化による“省エネ”と、太陽光発電などの“創エネ”により、年間のエネルギー収支ゼロを目指した建築物のこと。国により定義は異なりますが、日本の場合、エネルギー低減率により、ZEB Oriented、ZEB Ready、Nearly ZEB、『ZEB』と4段階に分かれています。
・ZEB Oriented
延べ面積が1万㎡以上の建築物のうち、再生可能エネルギーを除き、基準一次エネルギーから30~40%の省エネとなるように設計され、未評価技術を導入する建築物。
・ZEB Ready
再生可能エネルギーを除き、基準一次エネルギー消費量から50%以上の省エネとなるように設計された建築物。
・Nearly ZEB
ZEB Readyの条件を満たしつつ、再生可能エネルギーを加えて、基準一次エネルギー消費量を75%以上低減させた建築物。
・『ZEB』
ZEB Readyの条件を満たしつつ、再生可能エネルギーを加えて、基準一次エネルギー消費量を正味100%以上低減させた建築物。
設計から運用管理までワンストップで提供
「ZEBが世界的に注目され始めたのは、2008年の洞爺湖サミットからです。日本では2014年に閣議決定された第4次エネルギー基本計画で、2020年までに新築公共建物など、2030年までに新築建築物の平均でZEBの実現を目指すとされました。さらに2015年のパリ協定で、日本は2030年までに温室効果ガス排出量を26%(2013年度比)削減すると宣言しています。昨年10月には、臨時国会の所信表明演説で菅首相が“2050年カーボンニュートラル宣言”にも言及していました。その目標の達成に向けて、ZEBはすごく重要な役割を担っています」と話すのは、同社ZEB事業推進課の南 知里さんです。
どうしてZEBが重要な役割を担っているのでしょうか。下は東京都環境局の資料ですが、実はCO₂排出量の約70%が建築物から出ているそうです。上記目標達成のためには建築物から出るCO₂を減らすことが不可欠なのがわかります。
「ZEBは、建築物から発生するエネルギーを減らしたうえで(省エネ)、再生可能エネルギー(創エネ)をうまく組み合わせることによって、年間のエネルギー収支をプラスマイナスゼロに近づけるという取り組みです。省エネ対象設備は、空調、換気、給湯、照明、昇降機の5設備。弊社はそのすべての設備を保有し、業界でもトップシェアを誇ります。お客様のニーズにあった機器やシステムを選定することで、ZEB化の支援ができる、つまり設計から運用管理までワンストップで提供できる強みを持っています」(南さん)
同社は2016年からZEBの専門部門を立ち上げ、経済産業省が設定した登録制度「ZEBプランナー」を電機メーカーとして初めて取得。提案活動だけでなく、社内外向けの説明会も全国で実施しています。ZEB起点での案件引き合いは多く、2016年~2020年度上期だけで累計約370件あり、右肩上がりで増えているそうです。
快適性と省エネを同時に実現
ZEBの導入はSDGsの目標達成に繋がるのはもちろん、施主にとってのメリットも大きいと言います。
「省エネによる光熱費の削減はもちろん、快適なオフィス空間が作られる点もZEBのメリットになります。近年は、BCP(Business Continuity Plan/災害時の事業継承)対策の強化や、あるいは環境リーディングカンパニーである点を訴求するなど企業PRの一環として導入するお客様も増えています。社会貢献、環境保全活動推進、そして資産価値向上も期待できます」(南さん)
ちなみにZEBを達成した建築物が日本国内に何件あるか、正確な数値はわかっていません。しかしBELS(建築物省エネルギー性能表示制度)を取得した件数をZEBの竣工案件と読み替えることができるという前提だと、2020年8月末時点で、449件がZEB(ZEB4ランクすべて)を達成していると分析できるそうです。
建築物の条件によりエネルギーの低減率を算出
では、どうやってエネルギーの低減率を算出するのでしょうか。「基本的には、設計時点で『エネルギー消費性能計算プログラム』を用いて低減率を計算しています」と話すのは、実際にZEB導入を手掛けている、ソリューション技術第一課の柿迫良輔さんです。
「新築だけでなく、既存の建築物のリニューアルや改修時でのZEB達成も可能です。というのもZEBは、図面のデータをもとに算出される“基準値”と、設計をした設備や躯体の性能から算出する“設計値”の差によって低減率を出します。例えば、東京都内に2020年に竣工したサンシステム株式会社様の新社屋は、地上6階建てのオフィスビルですが高効率空調や複層ガラスの導入、窓にブラインドを設置して日射の抑制をすることにより基準値から53%の省エネを達成しています。その他設備についても様々な工夫による省エネ化を図り、結果、建物全体の消費エネルギーは基準比56%減となり、ZEB Readyを達成することができたのです」
「この社屋の場合は都心部ということもあり、太陽光発電を設置できなかったのですが、設備や建築躯体の工夫により50%以上の省エネを達成し、ZEB Readyを実現しています。建築物全体でどれだけエネルギー消費量を低減できるかによってZEBのランクが決定しますが建築物の規模はもちろん、部屋の配置、用途、所在地により基準値は大きく異なります。例えば用途一つとっても、人の出入りが多い会議室なのかそうでないのかにより違いますし、北海道と沖縄では気候が全く違うことからもわかるように、所在地による地域区分が細かく設定されています」(柿迫さん)
例えばオフィスの場合は、建築物全体のエネルギー消費量における空調と照明が占める割合が大きいですが一方、病院なら給湯の割合が高くなるなど、建築物の用途や目的により数値は全く異なります。つまり手掛ける案件に、同じものは1つとしてないことがわかります。
「建築物の規模により、設置できる機器の目星は付きますが、そこにお客様の予算や要望が加わってきます。設計段階で、いかに数値を低減するか試行錯誤しなければなりません。本来は、お客様も『ZEB』、Nearly ZEBと上のランクを目指したいのでしょうが、予算などの要因はもちろん、敷地面積の関係で太陽光発電を設置できないなど、設備の設置条件が障壁になることもあります。まずは自分たちができるところを目指されるお客様が多いようです」(柿迫さん)
ZEB関連技術実証棟が完成
社内外からZEBが注目を集めるなか、2020年10月には、三菱電機情報技術総合研究所内(神奈川県鎌倉市)に、ZEB関連技術実証棟「SUSTIE(サスティエ)」が完成しました。
「サスティナブルでエネルギーの明るい未来へということで、SUSTIEと名付けられた本施設は、省エネと創エネにより、基準値から106%の低減を達成し、『ZEB』を取得しました。6000㎡以上の中規模オフィスビル単体でBELS(建築物省エネ性能表示制度)の5スターと『ZEB』の両立達成は日本初。CASBEEウェルネスオフィス(建物利用者の健康性、快適性の維持・増進を支援する建物の使用、性能、取り組みを評価するツール)で最高のSランク認証もいただいています。これまで、省エネと快適性は相反するというイメージが強かったかと思いますが、SUSTIEでは『ZEB』認証とCASBEEウェルネスオフィスSランクの同時取得により、それを両立できることを実証しています」(南さん)
総合電機メーカーの強みを生かし、各種高効率設備を設置。在室人数情報による換気や、照明の明るさ制御、昇降機の速度制御などの省エネ制御を導入。加えて自然換気による環境調整や太陽光発電など、SUSTIEには同社の技術が集約されています。
「SUSTIEでは、設計時点の計画値を上回るさらなる省エネでの運用を目指しながら、新たな設備制御技術の導入や、省エネの実証実験も行われます。さまざまな効果を実証しながら運用化を目指していければと思います」(南さん)
CSRの4つの重要課題
ZEBに限らず、三菱電機グループは他にもさまざまな価値創出への取り組みにおいて、SDGsの達成に貢献していこうとしています。
「当社は、『企業理念』と『私たちの価値観』(信頼、品質、技術、倫理・遵法、人、環境、社会)に従って経営方針を立て、すべての企業活動を通じてSDGsの達成に貢献していきます。価値創出への取り組みを推進することによってより具体的な行動を起こし、自社の成長とともにSDGsの達成に向けて貢献していきたいとの考えです」とはCSR推進センターの田中大輔さん。同社の企業理念は「私たち三菱電機グループは、たゆまぬ技術革新と限りない創造力により、活力とゆとりある社会の実現に貢献します」というものです。
CSRについて、下記の4つの重要課題を掲げています。他が重要ではないということではなく、当社の特徴を生かせるものは何かと考えた上で特定しました。
“持続可能な社会の実現”“安心・安全・快適性の提供”は、環境問題や資源、エネルギー問題、インフラなど、事業を通じて世の中に貢献できるという分野です。残りの2つは企業の基盤として厳守する分野です」(田中さん)
CSRの重要課題の検討が始まったのは、折しもSDGsが国連サミットで採択される直前でした。その後、SDGsの17の目標と照らし合わせ、基本的に相違がないと確認するとともに、三菱電機グループの特長をいかしてSDGsにどう貢献できるか、社内外でアンケートを実施。その結果、事業を通じた活動への期待が高いということがわかったそうです。
「まずは、SDGsに貢献できる分野は何か? 自社の取り組みを整理することから始まりました。エネルギー、インフラ、環境は、それまでも社会に貢献できていましたし、今後もさらに注力して貢献できる分野だと考えたのです。そして “重点的に取り組むSDGs”として、目標7(エネルギーをみんなに、そしてクリーンに)、目標11(住み続けられるまちづくりを)、目標13(気候変動に具体的な対策を)に注力することを2018年度に特定し、価値を創出していくことでSDGsの目標の達成に貢献していきたいと考えました。わかりやすい事例のひとつが、今回紹介させていただいたZEBです。SDGsという世界共通の社会課題が示されたことで、社会への貢献について具体的に説明しやすくなりました」
今後は変化する社会課題にも対応
2000年代前半以降、社会課題に対する意識は、世界的にどんどん高まっています。同社も環境面について2021年を目標とした「環境ビジョン2021」に沿って、低炭素社会の実現、循環型社会の形成、自然共生社会の実現に取り組んできましたが、さらに長期的に継続するために、昨年『環境ビジョン2050』を新たに策定したそうです。
「今年は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、新たな生活スタイル、ビジネススタイルに適応しなければなりません。新たな社会課題が顕在化しているなかで、社内外の連携をより強化し、取り組んでいかなければならないと感じています。場合によっては、重点的に取り組むと定めたSDGsの目標7、11、13についても、今後は見直すべきかもしれません」(田中さん)
多岐にわたる事業分野で活躍する同社だからこそ、グループ内外の力を結集して、変化する社会課題の対応に取り組んでいくことが求められているのだといえるでしょう。