目指すは再生可能エネルギー自給率約80%&ゼロカーボンシティ~長崎県五島市
2018年にユネスコ世界文化遺産に登録。最近では、NHKの連続テレビ小説「舞いあがれ!」(2022年後期放送予定)の舞台の一つとして注目を浴びている長崎県の五島列島。東シナ海に浮かぶ自然豊かなこの島は、再生可能エネルギー事業に積極的に取り組み、脱炭素の先駆者的存在として期待が寄せられています。
日本初の浮体式洋上風力発電機を設置
太陽光や風力、潮流、地熱など、温室効果ガスを排出しない自然の力を利用する再生可能エネルギー。五島市では、海に浮かぶ発電所ともいえる「浮体式洋上風力発電設備」が日本で初めて設置され、2016年3月からすでに実用化されています。
「きっかけは、再生可能エネルギーの導入を促進する環境省の実証事業への参加です。2012年に五島列島の椛島(かばしま)沖に100kw小規模実証機設置を経て、2013年に2000kw実証機1基が設置されたのですが、この辺りは波が穏やかで、かつ年平均風速が毎秒7.45mと風が強く、風速の変動も少ないため、風車を設置するには非常に適した環境でした。その後、野口市太郎現市長が就任した2012年に、4大プロジェクトが策定され、そのうちの1つに再生可能エネルギーの推進が掲げられました」(五島市 総務企画部 未来創造課 ゼロカーボンシティ推進班 佐々野一成さん)
フル出力で2000kW、一般家庭の約1800世帯分を送電
水深約50mまでの浅い海域には着床式の洋上風力発電が適していますが、洋上の風が強く、効果的な発電ができる水深の深い海域では浮体式でなければなりません。浮体式は世界でも実用化がそれほど多くありませんが、排他的経済水域の面積が世界第6位の日本の場合、こうした地の利を生かした浮体式洋上風力発電に大きな期待が寄せられています。
「実証事業は2015年度に終了。2016年3月から福江島の崎山沖に設備を移設し、現在は実際に商用運転されています。浮体式洋上風力発電は船舶扱いで船舶名は“はえんかぜ”(方言で「南東の風」という意味。幸せを運ぶという伝えがある)。海中部分を含め全長172mで、40mの回転翼が3枚付いています。椛島での実証事業の時は海底ケーブルが細く、約600kWしか送電することができませんでしたが、福江島の崎山沖へ移設後は海底ケーブルを新たに敷設し、発電量はフル出力で2000kW、一般家庭の約1800世帯分の電力を送ることが可能となっています。2024年までにさらに8基を増設し、計9基で商用稼働させることを目指しています」
再生可能エネルギー自給率約80%に
五島市の再生可能エネルギーの取り組みは浮体式洋上風力発電だけではありません。
「陸上の風力発電機は現在大型が11基、小型が18基、水力発電が1基。太陽光パネルにいたっては、家庭用も含めると1600基ほど設置されています。また、奈留瀬戸で潮の満ち引きを利用した潮流発電の実証事業がスタート。昨年までは500kWの発電機でしたが、今後は1000kW程度と規模を拡大し、4年後の実用化を目指しています。五島市の再生可能エネルギー自給率は、2020年時点の推計値で約56%ですが、こうした取り組みにより、浮体式洋上風力発電を増設した2024年には自給率約80%になる見込みです。
再生可能エネルギー事業は、商用化しても電気料金が安くならないなど、市民が直接的な恩恵を感じられにくい部分があります。ですが、広報誌や勉強会などで啓発活動を積極的に行っていることもあり、市民アンケートではポジティブな意見を多くいただいていますし、意義のあることだと捉えている方は少なくありません。また、浮体式洋上風力発電設備の海中部分に藻やサンゴが付着し、そこを隠れ家とした小魚を狙う魚が集まるなどの好影響も。これまでは魚が少なかったため、漁が盛んでない海域でしたが、今後の検証次第では、漁獲量の向上につながるのではないかと期待されています」
ゼロカーボンシティを宣言
再生可能エネルギー事業に積極的な五島市は、2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにすることを目指す「ゼロカーボンシティ」を2020年12月に宣言しました。具体的には、「再生可能エネルギーの地産地消の推進」「電気自動車の推進」「市役所における省エネルギーの取り組み」「一般廃棄物焼却量減少に関する取り組み」です。
「実はゼロカーボンシティを宣言する前から、電気自動車に関しても2011年に国の実証事業により、五島市と新上五島町に合わせて100台が導入されました。充電設備も整備したため、その後も普及が続き、現在は島内に155台の電気自動車が走っています。うち43台はレンタカー、残りは企業や市民が利用していますが、今後も増え続けるようにさらなる推進を行っています。
地球温暖化の影響が深刻化されている近年、ふるさと五島を守り、持続可能な島にするためにゼロカーボンシティへの取り組みは必要です。その実現には、再生可能エネルギーの地産地消はもちろん、電気自動車普及の推進など市民の皆様のご理解とご協力が欠かせません。そこで、『サステナブルな暮らし10の習慣』という誰にでもできる身近な取り組みを提案したり、環境学習の題材として子どもたちに風力発電を見学してもらったり、省エネや節電を学ぶためのシンポジウムを開催したりと、いろいろなアプローチを展開しています」
再生可能エネルギー活用の先駆者に
ただ、現実的にはまだやれることが多いと佐々野さん。
「例えば余った電力を水素化して燃料電池船に利用したり、水素を運びやすくするために気体から液体に変えて貯蔵し、船で本土へ運ぶなどの実証事業も行いました。今後もさまざまな構想が練られていますが、こうした取り組みは、次世代産業の創出にもつながりますし、人にも環境にもやさしい島であり続けたいという想いも込められています」
経済産業省の資料によると、2019年度の日本のエネルギーの自給率は12.1%。先進国が加盟するOECD(経済協力開発機構)36カ国中35位と非常に低い水準です。安定したエネルギー源の確保は大きな課題。それだけに、いち早く再生可能エネルギー事業に取り組んだ五島市へと寄せられる期待はとても大きいと言えるでしょう。