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2022/11/29 21:30

全世界を席巻した経済学の名著がざっくりわかる!『1分間ピケティ「21世紀の資本」を理解する77の理論』

『不確実性の時代』『貧乏父さん金持ち父さん』『ヤバい経済学』。何年かに一度、世界的ベストセラーとなる経済学書がある。

 

経済学関連本:次の1冊

トマ・ピケティの『21世紀の資本』もそういう種類の本だ。ダン・アリエリー著の『予想どおりに不合理』を読んで行動経済学に興味を持ち始めた筆者は、もう少しスコープを広げて経済学の知識を深めたいと思っていた。そして『21世紀の資本』を買って読み始めたのだが、基礎を学んだのは40年も前だし、それほど得意ではない分野だったので、読むスピードが遅すぎることに気づいた。

 

これではいけないと思って関連書を調べたところ、『1分間ピケティ「21世紀の資本」を理解する77の理論』(西村克己・著/SBクリエイティブ株式会社・刊)という本を見つけた。『21世紀の資本』のコンパニオンブック、もっとかみ砕いて言うならトリセツという趣の一冊だ。

 

圧を感じない学び直し

「はじめに」に次のような文章がある。

 

かつて、カール・マルクスは『資本論』で歴史を変えるほどの反響を得ました。ピケティの『21世紀の資本』もそうなるのでしょうか。世界中の多くの学者が、賛成、批判、反対、展開をしています。あなた自身はどう思うでしょう。そのヒントになるように、難しい経済用語や数式をほとんど使わずにピケティの主張の根幹を解き明かしたのが、本書です。

『1分間ピケティ「21世紀の資本」を理解する77の理論』より引用

 

確かに、難しい経済用語や数式が目立つことはない。ピケティ理論の要点が、かみ砕いた言葉でテンポよく綴られていく。筆者の個人的体験から言わせてもらえば、「学び直し」的な体の本は、すべての読者が専門用語を知っていることを大前提としている感が否めない。最初は用語の意味を確認しながら読み進めるのだが、半分を過ぎたころで確認作業自体がおっくうになってしまう。ある程度の専門用語の知識があってこそ学び直しも意味がある、と言われてしまえばそれまでなのだが。

 

この本はそういう行間の圧みたいなものがまったくなく、エッセンスの部分だけが抽出されて示されるので、自分の知識のインベントリーを行いながら新しい情報を入れるという作業が効率よくできることが感じられる。

 

知識の蓄積の度合い

章立てを見てみよう。

 

第1章 働けば豊かになれるか[所得]
第2章 税金がおかしくないか[格差]
第3章 公平さは取り戻せるか[富の集中]
第4章 敗者は復活できるか[r>g]
第5章 日本への助言は何か[金融政策]
第6章 欧米をどう再建するか[富の世襲]
第7章 富に法則はあるか[資本収益率]
第8章 経済学はなぜ間違うのか[トリクルダウン]

 

8章に分けられた77の項目はどれも1ページ半程度の分量でまとめられている。確かに1分間で十分に反芻できる分量だ。項目についても詳しく見てみよう。「技能が技術革新を上回れば所得は増える」「世襲資本主義が格差を広げている」「投資の自由度は、資本所得を増大させる」「富の集中のメカニズムはr>gで解明できる」「日本は移民を受け入れ難いだろう」「アメリカンドリームはもはや妄想だ」「貯蓄率が高まれば、格差が拡大する」「1人ひとりが知識化された市民として行動すべきだ」

 

どの程度の知識まで吸収するべきか。それには個人差があるだろう。知らなくても日常生活に不便はないかもしれないが、知っていれば絶対的な違いが生まれる知識もある。この本を読み進めるうちに、そんなことを考えた。

 

r>gが意味するもの

大学時代に使っていた専門書が手元にないので詳細は示すことができないが、現在の経済学的概念が著しくアップデートされていることは実感している。ピケティ経済学のトレードマーク的な概念であるr>g理論もそのうちのひとつだ。ピケティは、現代資本主義の問題点として資本所得が労働所得を上回り続けているだけでなく、資本収益率(r)も経済成長率(g)を上回り続けている事実を指摘している。これがピケティ経済学を包括的に理解する出発点となる。

 

ピケティは歴史的データを分析し、世界的に100年以上、資本収益率の平均は4~5%、経済成長率の平均は1~1.5%だという数値を導き出しています。「r>g」が世界中で1世紀以上続いているのです。富の格差が拡大し、金持ちと貧乏人が紛争状態になるのも当然でしょう。

『1分間ピケティ「21世紀の資本」を理解する77の理論』より引用

 

知っていれば絶対的な違いが生まれる知識

日用品であれ食料品であれ、何でも値上がりするのがごく普通の世の中になってしまった。消費者は、徐々に温度が上がっていくお湯の中に入れられているゆでガエルそのものなのかもしれない。そして本書で大きく取り上げられている富の格差だけではなく、さまざまな種類の格差が広がっていく。

 

こうしたものをつまびらかにして、一つひとつを根本的に解決していく過程の核となり鍵となるものは、アップデートされた経済学なのかもしれない。ならばピケティ経済学は、絶対的な違いが生まれる知識にほかならないと思うのだ。

 

 

【書籍紹介】

1分間ピケティ「21世紀の資本」を理解する77の理論

著者:西村克己
発行:SBクリエイティブ

本書は、ビジネス界の巨人のメッセージを紹介する「語録集」シリーズです。世界のカリスマたちのメッセージを通して、一流の働き方や生き方、考え方のノウハウを学ぶことができます。ほんの1分で、1つのメッセージとその解説を読み終えることができ、毎日の仕事に活かせるようまとめられています。本書では、ピケティのやや難解な言葉を抽出し、噛み砕いてわかりやすく解説していきます。通勤電車の中や待ち合わせのときなど、いわゆるスキマ時間の1分を活用して、ビジネスや人生に気付きをくれるピケティの資本論をザックリとマスターすることができます。

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