本・書籍
2023/10/1 6:00

「日本左利き協会」発起人が語る左利きのすべて! 左利きの苦悩と未来~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。私は物心ついたときから右利きで、特に何も考えずに生きてきました。ある日、右ばかり使っているとバランスが悪いという話を聞き、左手で歯を磨こうとしましたが力加減がわからず、歯ブラシがほっぺたを突き破りそうになったことも(笑)。

 

左利きの友人も何人かいますが、「左利きって、なんかかっこいいよね」と言うと大概怒られます。「かっこいいとかどうでもいいの、結構大変なのよ」と。右利きが主流の世界で、左利きの苦労に気づき、まずは知ることが大事なのでしょう。

日本左利き協会の発起人が解説する左利き

今回紹介する新書は『左利きの言い分』(大路直哉・著/PHP新書)。著者の大路直哉さんは「日本左利き協会」発起人。英国滞在中に左利き専門店と出会い、利き手への探究心が開花。帰国後、関連記事や文献の発掘にいそしみ、左利きに関する著書を出版してきました。著書に『見えざる左手』(三五館)、『左ききでいこう!』(フェリシモ出版)などがあります。

自動改札機にATM、続く左利きの苦難

世界各国の左利き事情や、左利きの脳と体、左利き受難の歴史などが詰め込まれた一冊。序章「左利きはどのくらい存在し、なぜ生まれるのか」では、人類における左利きの割合が紹介されています。研究者が過去5000年の芸術的表現を調べた結果、左手を使って創作された作品は約8%だとか。

 

ただし、文字を左手で書く人の割合は地域差があり、大学生を対象にした研究では、カナダで文字を左手で書く人の割合は男性9.8%、女性7.7%に対し、日本では男性1.9%、女性0.9%。教育の影響が大きいのでしょうか。日本の特異性が見てとれます。

 

では、左利きの人はどのようなことにストレスを感じているのでしょうか? 第1章は「左利きの苦労」。「左利きは9年寿命が短い」という説が1990年代に一斉を風靡しましたが、左利きを巡る生活環境は20世紀末と比べて改善されたのでしょうか?

 

最初に例が挙がっているのは自動改札機。20世紀末は磁気切符の挿入口が進行方向右側にあったため、左利きは腕をクロスして切符を通していました。それがICカードのタッチになっても、かざすのは右側。利き手の矯正を経験せずに育つ左利きが増える一方で、鬼門ともいえる自動改札機への不満が絶えることはない、と大路さん。

 

銀行のATMも右側にボタンがある場合が多く、さらに指静脈の認証読み取り装置も大概右手側。これほど技術は進化しているのに……アンバランスさを感じますね。

 

2章以降は、俳句からわかる江戸時代の左利きに対する見方、左手を使えば右脳が発達するのかの検証、正岡子規やレオナルド・ダ・ヴィンチなど左利き・両手利きの偉人たちのエピソードなど、左利きに関するトピックが満載。左利きのあなたは「そうそう!」と共感しながら、右利きのあなたは友達や知り合いで左利きの人を思い出しながら読み進めるとより身近に感じられるはず。

 

左利きというひとつのテーマに特化しながら、ボリュームもあり、しかも読みやすく構成されているというのが本書のポイント。左利きひいては利き手への関心を高めるだけでも、右利きは「意識することすらないマジョリティ」であることを「実感」する機会が増える、と大路さん。“左利きの言い分”を知ることは、多様性社会を実現する身近な一歩かもしれません。

 

【書籍紹介】

左利きの言い分

著:大路直哉
発行:PHP研究所

「自動改札機を通過するとき、腕をクロスさせなければならない」「ハサミや定規、スープをすくうレードルが扱いにくい」など、左利きならではの不便は多々存在する。さらに、かつては左利きだと結婚に差し障りが生じたことすらあったという。中国の古典『礼記』に「食事をする手は右手」と記されているため、日本では長らく左手で箸を持つのは不作法と見なされ、左手で箸を持つ女性は「親の躾がなってない」と判断されることがあったのだ。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。