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2019/3/4 17:30

iPad Proで変わる仕事論ーーテクノロジーの進歩はクリエイターにどんな仕事をもたらしたか?

iPad ProとApple Pencilでペーパーレス化した

デザイン事務所に所属していた時代は、まだ紙を使った業務がメインだったそうだ。五十嵐さんは「それがすごくフラストレーションでした」と話す。「当時はiPhoneで撮影した写真をわざわざ印刷して図面に貼り付けて、クライアントやデザイナーに見せていました。でもそれがデザインとして上がってきたときに意図した通りになっているかというと、そう上手くはいきません。書類のやりとりもFAXでした」とも言う。

 

一方、フリーランスになってからはiPad Proを導入し、業務をペーパーレス化した。現在は自宅兼事務所で、プリンターやFAXは置いていなく、どうしても印刷が必要なときだけコンビニでプリントする程度になった。また、iPad Proだけでできる作業が増えたことで、仕事をする場所も選ばなくなったそうだ。

 

↑iPad Proで仕事をするようになった。写真は五十嵐さんが最近挑戦しているCADアプリ「Mopholio Trace -スケッチCAD」の画面

 

「iPadは初代からずっと親しんでいましたが、初代iPad ProとApple Pencilが出てきたときに衝撃を受けました。これだよこれ!って思って即日購入しましたね。それからずっとProシリーズを愛用していて、今は2018年モデルの11インチiPad Proを使っています」、と五十嵐さんは語る。「昔だったら机の上にノートパソコンと定規と書類が並んでいたんですけれど、いまはiPad Proだけ。スッキリしているので、アイデアが浮かびやすいですよ。人によっては雑多な部屋の方がよいと言いますが、僕は散らかっているとつい片付けたくなってしまうので(笑)」

 

反対にペーパーレス化によって困ったことはなかったか?——という筆者の質問に対しては「何もなかった」と五十嵐さんは答えた。彼が大学時代から長くApple製品に親しんできたという背景も大きいだろうが、「紙がない方が働きやすい」と感じる人が実際にいる。これは時代が一つの節目を迎えていることを象徴しているかもしれない。

 

アイデアを具体化し、98%を伝えるために

さて、五十嵐さんがiPad Proで最も活用するのが「PaperーFiftyThree」というアプリだ。ノートのように左右のスワイプでプロジェクトを切り替えられ、基本的な描画機能を一式備える。紙面に写真を貼り付けることも可能。まるでモレスキンの手帳を使っているかのような、質感の良いUIが魅力である。有料プランもあるが、無料でも利用できる。

 

↑「Paper」では、左右のスワイプでページをめくるようにしてプロジェクトを管理する

 

「クリエイティブディレクターとしての業務では、まずベースのデザインを決めて、そこから細かく具体化していく過程があります。例えば、デザイナーさんが送ってくれた図面の写真をPaperに取り込んで、もっとこのエリアを広くしたいなどと指示を書き込む。それをPDFに出力して『明日までに修正おねがい』とLINEで送り返す。で、次の日には、修正したものが上がってくる。昔だったらFAXと電話で1日以上かけていたものが、下手したら30分でできるようになったわけです。コミュニケーションを速いテンポで密に行えるようになりました」

 

↑デザイナーが作成した立体的な図面に、iPad Proから修正の指示を書き入れた様子

 

「いまではもう珍しくないかもしれませんが——」、と五十嵐さんは続ける。「当時はまだこんなやり方は主流ではありませんでした。五十嵐さんに頼むと仕事が早い、ってクライアントさんから評価してもらっていたんです。まさにテクノロジーのおかげで仕事をもらえていました」

 

つまり、iPad Proは五十嵐さんにとってアイデアを編集するための机であり、頭の中にあるものを具体化するためのツールなのだ。そしてこれがコミュニケーションのためにも使われている。

 

これは「先ほども言いましたが、デザイナーに指示を出しても100%思い通りのデザインが上がってくるわけではありません。しかし、iPad Proを使うようになってからは、自分の思っていることの98%くらいを、相手に伝えられれるようになりました」という彼の言葉にも表れている。

 

誰もがクリエイターになれる時代に大切なこと

好きなものと、嫌いなものをiPhoneのカメラで撮って残しておく——。これは五十嵐さんの習慣だ。

 

「世の中にあまりにも膨大なデザインがあるので、たまに脳がエラーを起こすんです。なぜかふとした拍子に全然好きじゃないデザインを取り入れちゃったりする」と五十嵐さんは語る。「だからそれをなくすために、好きなデザインと、苦手なデザインを記録しておく。たまに見返して、自分が好きだったものはどんなんだっけ?と確認するんです。もちろん好き嫌いが変わることもあるので、自分のアップデートにも使います」

 

↑五十嵐さんの好きなテーマは「木」だという。本人曰く、福井の生まれ故に、日本家屋に親しんできたため、どこかに木を採用すると落ち着くらしい。一方、反対にラグジュアリーな、過度に装飾されたデザインは苦手な傾向があるとのこと

 

こうして写真アプリの中にアーカイブされた画像は、出番になると五十嵐さんの脳に再び拾い上げられ、Paperの紙面上に貼り付けられる。そして、デザイナーやスタイリスト、クライアントに視覚的情報としてダイレクトに伝えられる。「こんなイメージがいい」、「こんなモデルを使いたい」。自分の頭にあるぼんやりした概念を視覚化して伝えることで、言語は共通化され、お互いの齟齬はなくなる。

 

五十嵐さんはこう説明する。「例えば、電話で説明すると、素人の僕が言ったことが、専門のデザイナーからすると『訳がわからない』と思われてしまうことがあります。iPad ProとApple Pencilをつかって写真や図にペンを入れることで、よりわかりやすく具現化できているのかもしれません」

 

↑服飾時代のメンターが勧めていた「二足のわらじ」を実現する鍵はコレだったのかもしれない、と五十嵐さんは言う

 

五十嵐さんは、iPad Proについて以下のように語る。「頭にはあるけど、アウトプットする技術がない。頭にはあるけど、上手く表に出せない。そういう人はiPad Proみたいに直接的に思考を反映できるツールを使うことで、夢を叶えられるかもしれないな、と思いますね。言い換えると、デザインというのは、テクノロジーの進歩で均一化されていくとも言える。誰もがある一定のレベルまで到達すると思います。しかし、そこからさらに一段階高いクリエイティビティを発揮しようとすると、発案者とそれを受け取るデザイナーとのコミュニケーションが重要になってくるのでしょう。僕にとってiPad Proはそれに一役かっているのかな、と思います」

 

デザインや建築を専門に学んだわけではなくとも、数年間の実務を通じてクリエイティブディレクターという生き方を実現した五十嵐さん。生まれ持ったものや、服飾業界で培った感性、そして何より積み重ねた努力があっての賜物であることは間違いない。しかし、そのアウトプットにはテクノロジーの発展が重要な役割を担っていると言えるだろう。

 

iPad Proを使えば、自分にもこんなことができるかもしれない——。もしそんなインスピレーションを得られたのなら、嬉しい限りである。

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