デジタル
2024/7/1 11:00

【西田宗千佳連載】大幅改善のiPad Proに見える「価格のジレンマ」

Vol.139-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは新たに登場したiPad Pro。性能が大幅に向上した一方、円安の影響もあり価格が上昇した。新モデルの価値はどこにあるのか。

 

今月の注目アイテム

アップル

iPad Pro

16万8800円~(11インチ) 21万8800円~(13インチ)(※)

※ いずれもWi-Fiモデル

↑13インチモデルは最薄部で5.1mmの驚異的な薄さを実現。次世代プロセッサーとなるM4プロセッサーと強力なGPUでM2プロセッサーよりも4倍の高性能なレンダリング性能、同様にCPUは約1.5倍高速化している

 

有機ELを用いることで軽さと薄さを実現

アップルが5月に発売した「iPad Pro」は、同社としては久々に大幅なハードウェア変更となった。

 

特に大きな変化があったのは13インチモデルだ。面積はほとんど変わっていないが、厚みは6.4mmから5.1mmと一気に薄くなり、重量も684gから582g(ともにWi-Fi+セルラーモデル)へと軽くなった。手にしてみると差は歴然としており、過去のモデルに戻るのが難しく感じるほどだ。

 

新しいiPad Proが薄く・軽くなったのは、ディスプレイが有機ELになったためだ。

 

一般論として、有機ELは液晶に比べ構造がシンプルで、薄くて軽い製品を作りやすい。スマホで有機ELが主軸になってきたのはそのためでもある。ただ、液晶に比べ輝度を上げづらい、という難点はある。

 

先代の12.9インチ版iPad Proは小さなLEDを並べてバックライトにする「ミニLED」を採用していた。ミニLEDは明るさとコントラストを向上させやすい一方、構造的に厚くなりやすい。有機EL採用によって最新の13インチモデルが劇的に薄く・軽くなったのは、「明るさをミニLED以上にしつつ、有機ELを採用する」ことができたからでもある。

 

この新型iPad Proでは一般的な有機ELではなく、「タンデムOLED」というディスプレイパネルが採用されている。これは通常1枚である発光層を2枚とし、組み合わせて光り方をコントロールすることで、平均的な輝度を上げつつ、軽くて薄い製品を作れたわけだ。

 

画質的にももちろん有利になる。なお11インチ版iPad Proも有機ELを採用しているが、こちらは過去のモデルでもミニLEDを使っていなかったので、そこまで薄く・軽くはなっていない。そのぶん画質については、13インチ版以上に進化を感じられる。

 

ハイエンド化と円安で価格もかなり上昇

一方で、ハイエンドかつ高価なパーツを使った製品になったこと、昨年以降続く円安の影響が重なり、もっとも安価な製品でも16万8800円から、と価格はかなり高くなった。

 

「タブレットにそこまでの費用は払えない」という声も聞こえてくる。

 

そこで大きなジレンマとなるのは、アップルの最新プロセッサーである「M4」が、Mac ではなくiPad Proから採用されたことにも表れている。タブレットはコンテンツ視聴が中心であり、そこまで高性能なプロセッサーは必要ないのでは……という意見も聞かれる。

 

アップルとしては異論のあるところだろう。イラストレーターや動画クリエイターの中には、iPadを日々使っている人々も多い。そうした「プロ」のための道具としては、性能はあればあっただけありがたいものだ。

 

一方、多くの消費者には性能の違いがわかりにくいのも事実。そこで効いてくるのが「AI」を処理するための性能となってくる。

 

いまはM4の持つ高いAI処理性能の価値がわかりにくい。しかし、これからはそこが重要になるのは間違いない。それはなぜなのか? いつからどう効いてくるのか? そこは次回以降で解説する。

 

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