エンタメ
2020/7/13 17:30

最新技術と古典芸能の融合により、新たな「攻殻機動隊」が動き出す――「VR能 攻殻機動隊」の魅力を担当者に訊く

 

次にVRゴーグルを使わずにVRを実現する技術、「ゴーストグラム」を開発した稲見氏と福地氏に、VR能とはどんな映像技術を使い、どんな演出が可能なのかを聞きました。

 

 

最初の5秒間だけ、技術的なことを見て欲しい

↑稲見昌彦氏(左)、福地健太郎氏(右)

 

――一般的にVRと言うとVRゴーグルを使用し、仮想空間を体験するものですが、それとは意味合いが違うのでしょうか。

 

福地健太郎氏(以下福地):一般的なVRはゴーグルを装着しているひとりひとりの視点が違いますよね。今回はVRゴーグルなしの裸眼で映像体験をする映像演出として使われています。なので、観客席のどの位置から見ても、基本的に同じものが見えるようになっています。もともとVR(ヴァーチャルリアリティ)は演劇用語でして、舞台装置としての言葉でした。

 

――では、VRやARなど、現在使われている映像技術としてのVRとはちょっと意味合いが違うのですね。実際の役者に3D演出を加えることは難しかったのでしょうか。

 

 

稲見昌彦氏(以下稲見):3Dの演出自体はそれほど難しいことはしてません。感覚的には特別な映像ではなく、いつも目で見ているものが3Dですよね。VRの演出としては、その見えているものが消えてしまうと脳が勝手に解釈することを利用しています。普段ありえない動きや映像を見せることで、最初は驚き、そのうちリアルか映像かの差がわからなくなってしまうのです。そこがVRになるんです。例えば、壁に手をかざすと壁が手に遮られて、壁の一部が見えなくなってしまいます。その手に壁の映像を映し出すことで、手と壁が同化して、奥にあるはずの壁が見えるような気がするんです。つまり手が消えたように脳が解釈するわけです。このあたりが、「攻殻機動隊」でもお馴染みの光学迷彩に繋がってきたりします。

 

福地:能は舞台道具などがなく、何もない空間で役者が演じ、役者の動きも小さいんです。舞台も暗めなので、すべてがVRで演出するのに適していると言えます。舞台のどこに映像を投影しているなど3D映像に関しては一応企業秘密と言うことで(笑)。

 

――VRと能と「攻殻機動隊」と言うと、接点がなさそうですが、意外と相性がよさそうですね。

 

稲見:「攻殻機動隊」の世界では、現実と虚構(ネットの世界)の区別がつかなくなっていますよね。それが今回のVR能にマッチングしていると思います。現実世界も「攻殻機動隊」の世界に近づきつつありますし、フィジカルとデジタルが融合したVR能は、映像を画面で見た時とは違った体験になります。

 

――VR能では役者の動きにあわせてリアルタイムで映像演出が行われるとのことですが、どうやって役者の動きを判断しているのでしょうか。

 

 

福地:今回はサーモグラフィーカメラを使用しています。先ほども言いましたが、能は役者以外に何もないので、サーモグラフィーで役者の動きを捉えやすいんです。何か他に熱源があったりすると、役者ひとりに合わせるのは難しいので、そこも相性が良かったですね。

 

――VR能を技術的な観点として注目して欲しい点はありますでしょうか。

 

稲見:最初の5秒間だけで良いので、技術的なことを観て欲しいです。どんなことをやっているのか、あの映像はどうやって映しているのか、など。あとは能と攻殻機動隊の世界観を感じて欲しいですね。技術はあくまでも能や攻殻機動隊の世界を彩る手段なので、意識下から抜けていって欲しいんです。観ているときは能や話に集中し、凄かったと思って貰えれば良いですね。個人的には舞台照明は注目して欲しいところです。

 

 

■プロフィール
稲見昌彦(いなみ・まさひこ)

1972年東京都生まれ。東京大学総長補佐・大学院情報理工学系研究科教授。専門はインタラクティブ技術、複合現実感、ロボット工学、リアルメディア。漫画『攻殻機動隊』に登場する技術「熱光学迷彩」をモチーフとした、再帰性反射を利用した光学迷彩を実際に開発した研究者として世界的に有名。米国『TIME』誌 Coolest Inventions of the yearに選定。著書に『スーパーヒューマン誕生!』がある。

 

福地健太郎(ふくち・けんたろう)

1975年東京都生まれ。東京工業大学理学部卒。明治大学総合数理学部教授として、インタラクティブメディアの研究に従事。インタラクティブ広告や舞台演出のためのソフトウェア開発を手がける。担当科目は「アカデミック・リテラシー」「メディア基礎実験」「映像・アニメーション表現」など。著書に『図解でわかる! 理工系のためのよい文章の書き方 論文・レポートを自力で書けるようになる方法』がある。

 

VR能 攻殻機動隊 – VR Noh ‘THE GHOST IN THE SHELL’

■スタッフ・キャスト

原作:士郎正宗(講談社)
出演:坂口貴信 川口晃平 谷本健吾(観世流能楽師)
大島輝久 (喜多流能楽師) ほか
演出:奥秀太郎
脚本:藤咲淳一
3D技術:福地健太郎(明治大学教授)
VR技術:稲見昌彦(東京大学教授)
製作:VR能攻殻機動隊製作委員会

 

■公演日

2020年8月22日 (土)
・13時30分開場 14時開演
・18時30分開場 19時開演

2020年8月23日 (日)
・10時30分開場 11時開演

 

■会場

世田谷パブリックシアター

公式サイトはコチラ

 

撮影/我妻慶一

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