大阪工場を取材…サントリージンが世界で評価されるワケは“和食”にあった!【2026年春工場見学開始】

ink_pen 2025/8/9
  • X
  • Facebook
  • LINE
大阪工場を取材…サントリージンが世界で評価されるワケは“和食”にあった!【2026年春工場見学開始】
中山秀明
なかやまひであき
中山秀明

GetNaviお酒・グルメアドバイザー。GetNavi内食・外食のトレンドに精通した、食情報の専門家。現場取材をモットーとし、全国各地へ赴いて、大手メーカーや大手小売りから小規模事業者まで、幅広く取材している。酒類に関する知識量の多さでは、大手ビールメーカーでも一目置かれる存在。GetNavi・GetNavi webのほかに、テレビや大手企業サイトのコメンテーターなど幅広く活躍。

「ROKU〈六〉」「翠(SUI)」などのジンをはじめ、さまざまな“洋酒”を製造している「サントリー大阪工場」が、2026年の春から一般見学ツアーを開始すると発表。GetNaviお酒・グルメアドバイザーの中山秀明氏が先立って行われた取材会に参加し、その一部を体験してきた。工場の内部やサントリーの戦略、さらにジンの最前線をお伝えする。

↑サントリーがつくるジンの代表的銘柄が、サントリージャパニーズクラフトジン「ROKU〈六〉」。2017年の発売から8年で、世界第2位のプレミアムジンへと成長した(2024年販売数量/IWSR2025データより)。

ジンの歴史と概要。ジュニパーベリーとは?

ジンは、ラム、テキーラ、ウォッカと並び「世界四大スピリッツ(蒸溜酒)」に数えられる酒。諸説あるものの、一般論ではオランダの医学博士が1660年に薬用酒として研究開発した、ジュニパーベリー(西洋ねずの実)を主体とする薬用酒がルーツとされています。

↑ジュニパーベリー。ウッディーでビターな甘みのある香りが特徴で、熟した果実を乾燥させスパイスとして利用する。工場見学ツアーでは他のボタニカルを含め、実物を見たり嗅いだりできる。

ジンの語源も、ジュニパーベリーにあり。オランダやフランス語圏でジュニエーブル、イェネーフェルなどと呼ばれていたものが、イギリスに渡りジュネヴァと呼ばれ、やがて「ジン」の愛称に短縮され広まっていきました。

定義としても、ジュニパーベリーはジンに欠かせません。そのほか穀物由来のスピリッツであること(例:ラムなどで重用されるサトウキビなどの糖蜜由来の場合、他の要素を満たしていても一般的にジンとはいわない)、アルコール度数が37.5%以上であることなどが条件です。

↑ジンの製造工程一例。「サントリー大阪工場」取材時の動画モニターを撮ったもので、一般見学でも動画でわかりやすく解説してもらえる。

トレンドの背景に欧州で生まれた“クラフトジン”がある

ジンは近年、国内外で飛躍的に市場が成長した洋酒の代表格といえます。火付け役といわれているのが、クラフトジンのムーブメント。パイオニア的なブランドのひとつが、英国ロンドンで2008年に蒸溜所が設立された「シップスミス」です。

↑サントリーの資料より。右上の写真にあるボトルが「シップスミス」。

やがてその熱は日本にも伝播し、2017年にはサントリーもジャパニーズクラフトジン「ROKU〈六〉」を発売。スタートアップによる銘柄も続々誕生し、いまや国内の小規模蒸溜所は約140もあるとか。そしてトレンドの起爆剤となったのが、2020年に誕生した「翠(SUI)」です。

「翠(SUI)」は、ソーダ割りでフードペアリングを推奨する飲み方提案も支持を得て、その後2022年にデビューした「翠ジンソーダ缶」もメガヒット。いまでは各社から、缶のジンソーダやジントニックが発売されるほど定着しています。

↑サントリーが推計した国内のジン市場データ。「翠ジンソーダ缶」が発売された2022年に、大きく伸長している点に注目。

浸漬タンクとつながった巨大蒸溜釜が並ぶ様は圧巻

「サントリー大阪工場」内部へと話題を進めましょう。同工場の歴史は古く、1919(大正8)年に同社(当時は鳥井商店)草創期の大ヒットぶどう酒「赤玉ポートワイン」をビン詰めする工場として開設(当時の名称は築港工場)。やがてスピリッツやリキュール全般を製造開発する工場へと規模が拡大し、いまに至ります。

↑工場内には歴代の名酒とともに歴史を紹介するギャラリーも。「赤玉ポートワイン」は1907(明治40)年に誕生し、1973(昭和48)年に「赤玉スイートワイン」へと名称変更。

来春スタートが見込まれる工場見学において、目玉のひとつとなりそうなのが、蒸溜器が見渡せるデッキです。驚くべきは、その大きさと設備。筆者がこれまで、いくつかのジン蒸溜所を取材したなかでも、ここまで高さのある蒸溜器は初めてかもしれません。なおかつ、メインとなる蒸溜釜の形が、ウイスキー蒸溜で頻用されるような銅製の単式蒸溜器(ポットスチル)に似ている点もポイント。

↑種類の異なる4基の蒸溜器が稼働。複層階のフロアで構成されていることからも、その巨大さがわかる。

加えてもうひとつ珍しいのは、蒸溜釜に設えられた浸漬(しんせき)タンク。これは、生産能力増強と品質向上を目的に新設した、画期的なシステムです。従来は蒸溜釜内でボタニカルの浸漬と蒸溜を同時に行っていたところを、タンクで浸漬してから蒸溜釜へ移送する工程にしたことで、生産性向上を実現。さらには、浸漬温度、時間、攪拌(かくはん)を制御できるようになり、品質もアップしたといいます。

↑浸漬タンクと蒸溜釜が、パイプでつながっている。

4基の蒸溜器は今回新調した設備となりますが、それぞれ種類が異なる理由は、素材ごとに原酒のつくりわけをするため。例えば桜やバナナなどにはクリアで繊細な酒質を得やすい「減圧蒸溜釜」を、柑橘系の素材には精溜度の高い蒸溜ができる「ピール・レクチ」を、ただし柚子などには「ピール・スチル」を、ジュニパーベリーなどジンの伝統的なボタニカルには「ジン・スチル」を、と使いわけることで、各素材に理想的な原酒をつくり出します。

↑蒸溜器を一望できる、見学デッキの壁に設置されている展示。訪れた際は、4基それぞれがどの蒸溜器か見比べてみよう。

「クリエイションルーム」ではテイスティングやセミナーを予定

そしてもうひとつの目玉が、「クリエイションルーム」と呼ばれる会場。ここは360度のスクリーンに没入感のある映像を流せるシアターとなっていて、見学ツアーではジンに関するテイスティングやセミナーなどが予定されています。

↑「クリエイションルーム」。席も円形に設えられている。

取材会では矢野哲次工場長がサントリーのものづくり精神や大阪工場について、スピリッツ・ワイン商品開発研究部の伊藤定弘部長が「ROKU〈六〉」の魅力をテイスティング講座形式で教えてくれました。特に筆者が感銘を受けたのは、同社が思い描く「The Japanese Craft」の考え方です。

↑スピリッツ・ワイン商品開発研究部 部長の伊藤定弘さん。360度の映像は桜をはじめ、柚子、玉露なども。

一言で例えるならば「和食」。その哲学はジンのブレンドにも表れており、料理でいえば「炊き合わせ」が挙げられます。というのも、一般的なジンの製法は原料を一括で浸漬、蒸溜するところ、「ROKU〈六〉」や「翠(SUI)」では素材ごとにつくりわけた複数の原料酒をブレンドしているからです。

↑イメージとしての、「ROKU〈六〉」と一般的なジンとの製法の違い。

日本料理の「炊き合わせ」も、素材ごとに別々に調理して提供時にお椀で合わせる。これにより、各素材の味や色の個性を最大限に楽しめるのです。ラーメンで例えれば、豚や鶏の白湯と魚介ダシを一緒に煮込むのではなく、それぞれ炊きわけ提供直前に合わせるWスープの手法が、サントリー流のジンに通じるレシピといえるでしょう。

↑取材会では、ここでしか味わえない桜や柚子の原料酒もテイスティング。こうしてテイスティングすると、素材の個性がよくわかる。

冒頭でも触れたように、一般見学ツアーは2026年の春ごろを予定しており、具体的なツアー内容や、参加は予約制なのか、工場までのアクセスは、料金はいくらなのかといった具体的な内容は決まっていません。とはいえ着々と準備は進められており、遠くない未来に発表されることでしょう。

↑「サントリー大阪工場」の住所は、大阪府大阪市港区海岸通3-2-30。すぐそばには天保山運河。USJや2025大阪・関西万博会場から比較的近い場所にある。(写真提供/サントリー)

GetNavi webでもその動向を追い、情報を入手次第お伝えするので要チェック。ジンのトレンドにも引き続き注目です。

Related Articles

関連記事

もっと知りたい!に応える記事
Special Tie-up

注目記事

作り手のモノ語りをGetNavi流で