スウェーデンを拠点とし、世界64か国でブランド展開する空気清浄機メーカー、ブルーエア。同社製品は世界的に高い知名度を誇っており、特に富裕層に愛用者が多いことで知られる。例えば、インドや中国のアメリカ大使館では、家族の健康を守る目的で同社製品を1000台単位で購入したといい、この事実からも同社への信頼感の高さがうかがえる。
そんな同社は今年の9月、従来モデルとは一線を画すBlue by Blueairを発売した。新モデル投入の狙いとは何なのか、また、同社は日本市場をどのように分析し、今後どのような戦略を取るつもりなのか。そんな疑問を持っていた折、同社のアジアでの販売戦略を統括するヨナス・ホルスト氏が来日するとの情報が。今回、運よく彼にインタビューする機会を得たので、先述の疑問を含めてじっくりと話を聞いていこう。
【Profile】
ヨナス・ホルスト
ブルーエア アジア・セールス・ダイレクター。European Studiesで学士を、経済学で2つの修士課程を修了。スウェーデン外務省にインターンとして勤務後、2010年にブルーエア社に入社する。入社後は、セールス、マーケティング、オペレーションで中心的ポジションを経験。同時にグローバルセールスを4年間担当した。2016年初め、アジアでの活動により力を入れるために香港に立ち上げられたブルーエアアジアHQ(本部)において、統括責任者に就任。
「Blue by Blueair」は若くアクティブな人がターゲット
ブルーエアはこの秋、ふたつのシリーズの新モデルを日本の市場に投入した。「Blueair Classic」(公式サイト価格・税抜7万5600円~)は、650E、450Eなど同社のスタンダードモデルの空気清浄能力をさらに向上させつつWi-Fiにも対応した、新スタンダードシリーズ。そして今回注目なのが、これまでにないキューブデザインが目を引く「Blue by Blueair」(公式サイト価格・税抜5万4500円)だ。同製品は360°フィルターを新採用し、プロペラファンで天井に向かって浄化した空気を送出する、ブルーエアのまったく新しいラインナップとなっている。そこでまずは新モデル、Blue by Blueairの位置付けについてヨナス・ホルストさんに尋ねた。
「Blue by Blueairは、ブルーエアファミリーのサブブランドであり、カジュアルラインと位置付けています。クリーンな空気をより多くのみなさんに提供できるよう、価格帯を少し低く設定しました。そしてそのターゲットは、若くてアクティブ、かつ健康意識の高い人々。具体的にはジムに通う人、またスキーやサーフィンなどを現在楽しんでいる人などに向けた製品です。一方、Blueair ClassicやBlueair Senseシリーズはよりプロフェッショナルな、医療志向の製品で、健康に不安がある人、アレルギーや喘息などの問題を抱えている人のための製品だといえます」(ヨナスさん)
ヨナスさんによると、今回製品デザインを一新したのも、他の製品との差別化を明確にするためとのこと。ただし、空気清浄能力に関しては、一切妥協していない。最大清浄空気供給量は620㎥/時とパワフルで、JEMA(日本電機工業会)が定める適用畳数は47畳(※)。角筒型のフィルターを設置する本体下部の集じん部は、360°全方位から空気を取り込み、きれいな空気へと“ろ過”する。微粒子をマイナス帯電させ、プラス帯電したフィルター繊維に引き付けて付着するブルーエア独自の「HEPA Silent®テクノロジー」も採用している。
「Blue by Blueairは、高品質を維持しながら、従来のClassicとは異なる素材を使うことでコストをカットしました。ベースとなるアイデアは、ユーザーにとってシンプル、かつ使い勝手が良いこと。Blue by Blueairのボディは、上部にファンとモーターが付いていて、下部は全部フィルターになっています。これにより、フィルター交換がとても簡単になり、ボタン操作もシンプルに。大きなフィルター、使いやすい機能、シンプルなデザイン、フィルター交換のしやすさがスクエアなボディと360°フィルターによって実現されています」(ヨナスさん)
今回ブルーエアが「完璧なソリューションを実現した」と自信を持つ360°フィルターだが、これを他のシリーズに順次流用していく予定はあるのか尋ねると、「それはない」との答えが返ってきた。
「すべてのプロダクト(製品)は、異なる目的のために設計されています。ClassicもSenseも、それぞれの目的のために必要な機能とデザインを持っているので、それを変えることはできません。ちなみにBlue by Blueairに関しては、テクノロジーや性能で訴求するより、健康的なライフスタイルにこだわる人々のエモーションに訴求する製品だと捉えています。“Stay Active, Stay Healthy”がBlue by Blueairのキーワードです」(ヨナスさん)
日本の空気清浄機市場には2つの特徴がある
日本の空気清浄機市場についてヨナスさんは、2つの特徴があると語る。ひとつは「国内メーカーが強いこと」。もうひとつは「各世帯にすでに空気清浄機が浸透している」ということだ。
「日本ではパナソニック、シャープなど多くのブランドがシェアを競っています。また、日本の空気清浄機普及率は世界の中でも高く、ユーザーは1台目でなく、2台目、3台目を買う人も多いです」(ヨナスさん)
空気清浄機の市場は他のジャンルと同様、ピラミッド構造となっており、最上位の階層とミドル層とマスの購買層がある。最も大きなマーケットはマスの層で、空気清浄機を初めて買う人々はマス向けの商品を買う。だが一度製品を使った人は、「よりいい製品を買いたい」「使いたい」と思い、ミドル層に移行することが多いとヨナスさんは語る。
「さらにそのなかには、最上位のモデルを持ちたいと思う人も出てきます。ブルーエアの製品はプレミアムな層向けで空気清浄能力も高く、新しい技術を先行して開発している。当社の製品を買う人は、すでに2台3台と空気清浄機を使ったことのある人が多い。彼らは色々な製品を買っていて、その違いをよく理解しているのです」(ヨナスさん)
加湿機能は不要、フィルター交換が前提
また、日本では加湿空気清浄機といった複合型が人気を集めている。だがブルーエアはこれまで一貫して空気清浄機能に特化した製品作りを行ってきた。
「オリンピックを例に取ると、走高跳びや走り幅跳び、徒競走など多くの競技で1位を目指しても、良い結果は得られません。我々も同様に、ただひとつの競技(機能)に特化して、そこでベストなものを作ろうと考えています。空気清浄機に加湿機能などを付加すると、結果的に空気清浄性能が損なわれてしまうのです。空気清浄は健康にとって最も重要なことだと位置付けているので、我々はそこに特化します。ブルーエアは技術志向の会社。我々は最高の製品を作り、それからマーケティング活動を行う。マーケティングをしてから製品を作ることはしません」(ヨナスさん)
また、フィルターに関してもブルーエアの考えは一貫している。日本の空気清浄機に「フィルター10年交換不要」を謳う製品が多いのに対し、同社の製品使用はあくまで「半年ごとのフィルター交換」が前提だ。
「メーカーによっては、製品を多く売るために、長期間フィルター交換しなくてもいい製品を作っています。これにより、ユーザーはランニングコストを低く抑えられるかもしれません。一方、我々はより多くのきれいな空気をユーザーに届けて、その空気を呼吸して健康になってほしい。そのためにフィルターを6か月ごとに交換するやり方を選びました。たとえ、そのためにランニングコストが高くなってもです。我々はより多くの製品を売ることより、最良の製品を届けることを考えているのです」(ヨナスさん)
例えばClassicシリーズのフィルターは、長さ18mものフィルターを折り畳んで作られており、同社はこれが世界最高級の品質だと自負している。彼らが2〜3年前に日本で行った試験では、多くの微粒子が浮遊する部屋で空気清浄機を運転し、空気の流れを測定したが、同社のフィルターの除去率は6か月間低下しなかったという。一方同じ部屋の同じ環境で他のメーカーの製品もテストしたが、それらのフィルター除去性能は短期間のうちに落ちていったそうだ。
「半年で交換を勧める我々のフィルターは、半年後までフィルター除去率を100%維持し、その後徐々に除去率が低下します。ところが他社の10年交換不要のフィルターは使い始めてすぐ性能が落ち始める。さらに他のメーカーの脱臭フィルターは、高性能を謳うものでも活性炭が200g程度しか入っていませんが、ブルーエアのカーボンフィルターは活性炭が1.2kgも入っています。両者には雲泥の差があるといえます」(ヨナスさん)
グローバルに見てベストな製品を目指す
現在、ブルーエアは日本や韓国、アメリカやヨーロッパで多くの会社と競合している。同社の特筆すべき点は、各国でし烈なシェア争いを行いつつ、世界64か国でブランド展開できていることだ。
「今日、我々は4つの異なる製品シリーズと、約20の製品群で、我々は世界中のマーケットに適合し、売り上げも伸ばしている。我々は適切な場所に適切な製品を適切なタイミングで提供することが、成功のカギになると考えています」(ヨナスさん)
そしてそこで重要となる戦略が、「Go To Market」だという。
「現在ブルーエアは、より市場の近くにフォーカスすることを考えています。その一例が東アジアと東南アジアを統括する部門を香港に設立したこと。我々は各地域に根付いて、競争するマーケットの活動に応じ、地域ごとのいろいろな市場の問題や、どういった製品が求められているかを、地域単位で把握する必要があると考えています」(ヨナスさん)
またブルーエアは、世界展開を考える上での2番目の戦略として、「IoT化」も積極的に進めている。
「我々はIoTと連携した製品を作り続けていきます。SenseシリーズやClassicシリーズ、エアモニターのAwareはすべてWi-Fiに対応し、Blueair Friendアプリを使ってどこからでも屋内屋外の空気の質を検知し、室内の空気清浄をコントロールできるようになっています」(ヨナスさん)
ちなみに、Blue by BlueairにはWi-Fi機能が搭載されていない。その理由を尋ねると、「Wi-Fi機能やセンサー機能を搭載すると価格がさらに上がってしまう。ブルーエアの空気清浄機のすぐれた基本性能をより多くの人に体験してもらうために、Wi-Fiとセンサーは非対応にした」との答えが返ってきた。
ちなみに、日本のマーケット向けに商品開発することは考えないかと質問したところ、ヨナスさんは「それはない」と断言した。
「地域ごとに製品をカスタマイズしていくことは特に考えていません。我々はいまも、ブルーエアの製品が最高級の製品のひとつであると信じており、また世界中のどんな地域にも適応できると自信を持って言えます。我々はベストな製品を作るのみです。そして我々が考えるベストな製品とは、どの地域でもベスト、グローバルに見てベストな製品です」(ヨナスさん)
ブルーエアの哲学は強固にして明確だ。空気清浄機能に特化してこれを追求する。売るために作るのではなく、ベストなものを目指して作る。開発した製品を投入する地域とタイミングは検討するが、あえて特定の地域に合わせた開発はしない。要は「いいものを作れば顧客はついてくる」という考え方で、同社はこれを実現する技術があると自負しているのだ。ここまで自信たっぷりだと、逆に潔い。そんな会社が作る製品は、いい製品に違いないと思ってしまうのは私だけだろうか。
※Blue Pure 221 Particleの場合。活性炭入りフィルター採用のBlue Pure 221 Particle and Carbonは適用畳数39畳