「生理中は指や足がむくみやすい……」「生理直後はなんだか体がスッキリ!」など、生理前後で体調に変化を感じる女性は多いはず。
実際、女性は生理周期に沿ってホルモンバランスが変わり、体の水分量が変化します。もっとも水分量の多い時期は生理前で、体重は2kg近く増え、PMS(月経前症候群)に悩まされます。一方、生理後はもっとも体が軽く、女性ホルモンの影響で肌のうるおいがアップするのです。
女性ホルモンの分泌サイクルを取り入れ、スキンケアやダイエットの効果を高めるには? 「フェムテックダイエット」を提唱する、産婦人科医で婦人科スポーツドクター、さらにヨガ指導者としても活躍する、女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」の副院長・高尾美穂先生に教えていただきました。
妊娠・出産への影響だけじゃない、
女性ホルモンの特徴と主な働き
女性が体調の変化や生理周期、効果的なダイエット方法を理解するために欠かせないのが2つの女性ホルモンの働きだという高尾先生。
「女性ホルモンとは、卵巣でつくられるもので、女性の健康に密接な関わりがあります。女性ホルモンというと、妊娠や出産に関わるイメージがあると思いますが、それだけではなく、肌のつやや髪のコンディション、代謝などにも影響があります。女性ホルモンの働きとして覚えておきたいのが、卵巣でつくられる『エストロゲン』と『プロゲステロン』の2つ。この2つのホルモンが適切に分泌されることで、正常な生理や妊娠につながっていきます。
女性ホルモンの黄金期は20代前半から40代前半。初潮が始まる10代から徐々に増えていき、45歳くらいから増減しながら減っていき、やがて分泌がなくなることで生理がこなくなり、“閉経”とされます。しかし、黄金期世代でも、不規則な生活や環境の変化、ストレスや過度のダイエットなどでホルモンバランスが不安定になり、生理不順や肩こり、冷えやむくみ、肌荒れなど、心身の不調が起きやすくなるのです」(女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」の副院長・高尾美穂先生、以下同)
2つの女性ホルモンの主な働き
・エストロゲン(卵胞ホルモン)
女性らしい体をつくるホルモン。受精卵が着床しやすくなるように、子宮内膜を厚くしたり、乳房の発達を促したり、肌や髪のうるおいや艶を引き出す。メンタルの安定にも効果的。・プロゲステロン(黄体ホルモン)
妊娠や出産に深く関わる“母のホルモン”。体温を上げて妊娠に適した状態を維持し、子宮内膜の働きを促す。食欲増進や皮脂分泌を促し、体内に水分を蓄える働きも。ニキビや便秘症状を引き起こす要因でもある。
25〜38日周期が正常リズム。
女性ホルモンと生理周期
女性ホルモンの分泌に続いて、生理と生理周期の話に進みましょう。
「みなさんの生理周期はどれくらいでしょうか? 多くの場合、1か月に1度、生理がくるというサイクルですよね。25〜38日周期の中で生理が来ていれば、周期は正常と言えます。
生理周期とは、生理の開始日から次の生理の前日までの日数のことをいい、月経期、卵胞期、排卵期、黄体期の4つの時期に分かれます。生理開始から排卵までが11〜24日、排卵から次の生理の前日までが14日というのが正常のサイクルで、排卵後から次の生理の前日まではだれもが同じ14日間というのが一般的。その間にエストロゲンの分泌が増える時期は2回、プロゲステロンの分泌が増える時期は1回あります。妊娠する可能性があるのは、卵胞期後半から排卵日まで。排卵が起こると、妊娠を継続させるためのホルモンであるプロゲステロンが分泌され、子宮内膜が妊娠を維持しやすい状態に整えられます。
このとき、プロゲステロンの働きで体温が0.3〜0.6℃ほど上昇し、むくみやすい状態に。妊娠が成立しなかった場合は、赤ちゃんのためのベッドとして用意されていた子宮内膜がはがれ落ち、体外に排出されます。これが生理ですね」
3つの時期でコントロールする「フェムテックダイエット」法
女性ホルモンの力を活かしながら行う“フェムテックダイエット”とは、どういう方法なのでしょうか?
「先ほど4つの時期の生理周期を説明しましたが、女性の体の状態変化で見る場合は、月経期、卵胞期から排卵期、黄体期の3つの時期に分ければよいでしょう。生理直後がもっとも体は軽く、体調のよい時期になります。このタイミングがダイエットにもっとも適した時期。ランニングや筋トレなどを取り入れて、積極的に体を引き締めていきましょう。
黄体期はむくみや便秘、頭痛などのPMS(月経前症候群)に悩まされやすく、食欲増加が起きやすくなります。もっとも体重が増える時期でもあるので、体重を落とすというよりもキープできればOK。体が重く感じ、イライラや不安の起きやすい時期なので、ヨガやウォーキング、ストレッチなどで血液の循環を促し、リフレッシュを心がけましょう。
生理の始まりから出血の多い時期は、鉄分やタンパク質が失われやすく酸素の運搬力も落ちるので、運動には不向きです。生理痛や腰痛をやわらげるストレッチ程度にし、冷えを防ぎ血の巡りがよくなるように、深い呼吸を心がけるのがよいでしょう」
3つの時期で調整する“フェムテックダイエット”
・月経期(生理中)
女性ホルモンがもっとも低いリセット期。運動効果が得られにくい。出血の多い時期は生理痛や腰痛をおさえるため、血液の循環を促すストレッチ程度にして、体をゆっくり休めることを心がける。・卵胞期〜排卵期(生理後〜排卵まで)
エストロゲンが最も増える時期。体も心も快調で、もっともダイエットに適している。ジョギングや筋トレなど、ハードなエクササイズを取り入れてアクティブに過ごしたい。・黄体期(排卵後〜生理前まで)
プロゲステロンがもっとも増える時期。食欲が湧きやすく、PMSに悩まされることも。体重を落とすことに注力するのではなく、体重キープを心がけ、ヨガやウォーキングなどでリフレッシュできるエクササイズを取り入れる。
3つの時期に合わせた食事コントロールで、
肌コンディションを整える
エストロゲンの分泌量が多い時期が、肌や髪のコンディションがもっとも良い状態。
「例えば、結婚式を最高の体調で迎えたいのであれば、卵胞期〜排卵期の挙式がベスト。前もって基礎体温を付けておくことでタイミングを調整したり、ピルの服用などで生理周期をコントロールしたりすることはできます。そういう大勝負ではなく、エストロゲンの分泌が高くない時期でも肌や髪のコンディションをなるべく良い状態に保つためには、生理周期に合わせて運動や食事をコントロールするといいでしょう。
生理中は、基礎体温が下がることで冷えやすく、鉄分やタンパク質が不足しやすい時期なので、体を温めるショウガや鉄分豊富なマグロやあさりなどを取り入れるといいですね。
卵胞期〜排卵期は、筋肉量を増やすような高タンパクで低脂肪の卵や鶏ムネ肉、牛もも肉などの食材を多めに取り、筋トレなどのハードなエクササイズをするのが効果的です。
黄体期は、プロゲステロンの作用でインスリンの働きに影響が生じ、血糖値の急低下が起きることで食欲増加につながります。そのため、血糖値のアップダウンをゆるやかにする玄米やオートミール、全粒粉のパンなどを取り入れつつ、全体の食事量は変えずに食事回数を増やし、1日5食に分けることで食欲増加を和らげるといいでしょう」
食事内容で肌や髪のコンディションを保つコツ
・月経期(生理中)
マグロやあさりなどの鉄分やタンパク質食材、ショウガなどの体を温める食材を取り入れる。・卵胞期〜排卵期(生理後〜排卵まで)
卵や鶏ムネ肉、牛もも肉など、低脂肪で高タンパクな筋肉量を増やす食材を取り入れる。・黄体期(排卵後〜生理前まで)
血糖値の急降下で食欲増加が起きやすい時期なので、血糖値のアップダウンをゆるめる玄米やオートミール、全粒粉のパンなどを取り入れ、1日の食事量は変えずに回数を増やす。
生理周期を正しく理解するには
“基礎体温”をつけることが大切
生理周期を取り入れたダイエットを行うならばもちろん、生理周期を理解することが欠かせません。
「生理周期を無視して、月経期にハードはエクササイズをすると貧血や体調不良が起きやすくなります。黄体期に塩分の多い食事を摂りすぎれば、むくみがひどく出たり、太りやすくなったりします。生理周期を把握して、体の状態に合わせて体調管理をすることで不調を緩和し、効果的にダイエットをすることができます。
生理周期を把握するには、基礎体温をつけるのが近道。生理周期は25〜38日の間であれば、一定のリズムで来なくても、基本的には問題はありません。しかし、生理不順やなんらかの生理トラブルを感じて婦人科を受診するとき、基礎体温を記録していないと不調の要因を検証することはできません。
女性ホルモンが正常に分泌されているかどうかは、14日間の高温期があることの確認により、排卵の有無を確かめます。自分の生理周期を把握するために、基礎体温を記録しましょう。排卵後に上がる体温は0.3〜0.6℃ほどなので、通常の体温計ではなく、小数点第2位まで表示される婦人体温計を使うのがオススメです。体温は目を覚ましてすぐ、動き始める前の横になった状態で、婦人体温計を舌の下に入れて計測してください。生理周期の把握とともに、自分はどの時期にどのような症状が出やすいのかをメモしておくと、生理周期に合わせたセルフケアがしやすくなります」
生理後から排卵期の好調期を上手に生かしたフェムテックダイエット。エクササイズや食事の内容を時期によって調整するので、飽きずに、効果を実感しながら続けられそうです。女性ホルモンに寄り添ったセルフケアで心地よい生活を手に入れましょう。
【プロフィール】
女性の産業医 / 高尾美穂
女性のための統合ヘルスクリニック、イーク表参道の副院長。産婦人科専門医、医学博士、婦人科スポーツドクター。ヨガ指導者、働く女性の産業医。東京慈恵会医科大学大学院修了。産婦人科外来に携わるほか、女性アスリートのメディカルサポートなどを行う。ヨガを長年愛好し、ヨガドクターとして講座や講演活動にも注力。アプリstand.fmで毎日更新される番組『高尾美穂からのリアルボイス』では、体や心の悩みから人生相談までリスナーの多様な悩みに回答。『生理周期に合わせてやせる! 超効果的フェムテックダイエット』(池田書店)、『心が揺れがちな時代に「私は私」で生きるには』(日経BP)ほか、著書多数。
『生理周期に合わせてやせる! 超効率的フェムテックダイエット』(池田書店)
1540円(税込)
女性の体は生理周期によって毎日少しずつ変化していています。そのサイクルに合わないダイエット法では、効果が出にくい時期があったり体調を崩したりしてしまいます。そこで、生理周期に沿ったダイエットスケジュールを組む方法から、実際のトレーニング法、効果的な食事のとり方までをアドバイス。生理周期を意識することで、自分の身体としっかり向き合うことができます。