「もはや道具を超えたアート!」と語る、人気放送作家が愛用するNY発ブランドのボールペンとは?

ink_pen 2026/1/9
  • X
  • Facebook
  • LINE
「もはや道具を超えたアート!」と語る、人気放送作家が愛用するNY発ブランドのボールペンとは?
古川耕
ふるかわこう
古川耕

放送作家、ライター。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」「ジェーン・スー 生活は踊る」などを担当。

文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険

文房具愛好家・古川 耕さんが、筆記具について解説しながら考察する人気連載が、増ページ&カラー化。新章の幕開けを飾る今回は、発売当初から愛用しているという名品を取り上げる。

ポスタルコ
チャンネルポイントペン
グリッド

3万9600円

アルミ無垢材から手作業で削り出して成型。ボディには、滑り止めとして、レコードのような線が刻まれている。ノックパーツを兼ねる真鍮製のU字型クリップは、ポケットやノートに留めると、ネクタイピンのよう。

リニューアル初回にふさわしい芯の通ったアートのようなペン

この連載で紹介してきた歴代ペンのなかではもっとも高価。そして、筆者が実際に長年愛用してきた相棒でもある。リニューアル初回に紹介するペンとして、ポスタルコの「チャンネルポイントペン」以上にふさわしいペンはちょっと思いつきませんでした。

↑本人私物。2017年の製品誕生時にラインナップされていた、今はなき「グリーン」。グリップの塗装もところどころ剥げ、いい感じに育っている。

マイク・エーブルソンさんとエーブルソン友理さん夫妻が2000年にニューヨークで立ち上げたブランド、ポスタルコ。革とファブリックを組み合わせた文房具(ペンケースやノート)や財布、ポーチやバッグ類を手掛けています。ここ数年は洋服も増えました。

品質の確かさ、装飾性を抑えた上品さ、斬新なのにどこか懐かしい。などなど、どれをとっても好みだらけなんですが、筆者にとって最大の魅力は、ひとつひとつのアイテムに明確なコンセプトが感じられるところです。

公式サイトには製品個々のコンセプトや開発の様子が書かれており、それに納得する・しないは人それぞれとしても、基礎原理の解析から商品化への試行錯誤の様子など、読んでいるだけでほだされるものがあります。

そしてその結果、確かに、新しいモノが生まれている。筆者の目には、道具やプロダクトの域を超え、もはやアートのようにも写ります。だから、そう、高いのはしょうがないね!と自分を納得させつつ財布の紐を緩めるのですが、ともあれこのチャンネルポイントペンは、まさにそうしたポスタルコらしさの結晶と言えるものです。

手加減に応じて反応が変わるノック機構がもたらす重心の妙

2017年に発売されたポスタルコ初、かつ唯一のボールペン。

このペン最大の特徴は、ノック機構にあります。真上から普通に押し込むと、「パチッ!」と小気味良い音を立ててペン先が出る。クリップをペン軸の「背中」側に押し当てながら下げると、ほとんど音がしない。ペン先を戻すときも同様で、要は親指の力の入れ加減で操作感や音がまるで変わる。他に類例のない、面白い機構です。

さらに、こうしたノック機構を搭載しているため、昨今のペンと比べると驚くほど重心バランスが後ろ寄り、すなわちリアヘビーになっています。

↑ペン先が出ていない状態(上)と、出ている状態(下)のノックパーツ。ペン先を出すときはクリップを上から押し、しまうときは正面から押す。

ペン先に近い部分を持って書くボールペンでは、ペン先側に重心があるほうが扱いやすい。それが今やユーザーにも広く認知され、ゆえに近年、低重心を謳う製品が増えている……というのは当連載で再三指摘している通り。

この低重心志向をかき立てる動機を突き詰めて言えば、それは「道具の透明化」ということになるでしょう。道具を使っていても、まるでその道具を使っていないかのように思えること。脳内の思考やイメージが道具を介さず、直接外に放出されていくような感覚。筆記具や楽器がこの方向を目指すのは間違っていないし、「実用品」の進化としてもまったく正しい。

ただし─。

以前、「リアヘビーにはリアヘビーなりのメリットもある」と書きました。そのとき筆者の念頭にあったのは、このチャンネルポイントペンでした。

「道具の透明化」の逆をいくリアヘビーが呼び覚ますもの

最近、ある画家の方から、絵画習得のプロセスにおいて、なぜデッサンが重要なのかを聞きました。曰く、染みついた手癖やモノの見方=「認知の癖」をなくすため、対象物を正しく「見る」作業が必要なのだと。今まで無意識に避けていたモノや、苦手な角度・構図。それらに対して、自我を捨て、無我に対象と向き合う。このプロセスこそが、画力の向上には必要不可欠だというのです。

それを聞いて、思ったのです。これ、ペンの話と通じるな、と。

リアヘビーなペンは、気を抜くとペンが後ろ側に倒れそうになってしまいます。必然、ぎゅっと力を込めて書くようになる。おのずと「書く」という行為に自覚的にならざるを得ない。これは前述した「筆記具の透明化」とは正反対のベクトルです。

デッサンが「見る」という行為に一種の緊張感を強いるのと同様、ある種のペンは「書く」という行為に、あるいは、使い手とペンの間に、一種の緊張感を発生させるのです。

そして筆者は、この緊張感はあっていい、と考えています。

というのも、少なくとも筆者は、こんな連載をしておきながら、ペンを使っている時間よりスマホやキーボードに触れている時間のほうが圧倒的に長いのです。そんな筆者にとって、「書く」という行為は能動的な営みであり、それ自体が喜びでもある。道具がもたらす緊張感は、決してノイズではない。道具は透明にならなくても、別にいいのです。

念のため付け加えておくと、使いにくいペンなら何でもいい、と言いたいわけではありません。

一見、快適さと真逆に見えるその「使いにくさ」は、誰かにとっての「使いやすさ」の影だったりはしまいか。だとすれば、その影の中にある光を見落とさずにいることが筆者の仕事なのです。

↑品のいい素朴さを感じる布張りの化粧箱に、モスグリーンのポーチとともに入っている。リフィルは、三菱鉛筆の「ジェットストリーム」の芯「SXR-5」を搭載。

※「GetNavi」2025年12月号に掲載された記事を再編集したものです。

Related Articles

関連記事

もっと知りたい!に応える記事
Special Tie-up

注目記事

作り手のモノ語りをGetNavi流で