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2019/8/8 19:00

電気じゃなくてガス! ロシアで急増する新型モビリティ「天然ガスのバス」

日本においても長年、石油依存体質からの脱却は大きな課題となっていますが、ロシアでは、天然ガスをモビリティ領域に活用する取り組みが進んでいます。まだ日本ではなじみが薄い天然ガス自動車ですが、世界では年間150万台のペースで普及。なかでもロシアでは天然ガスのバスが増えており、都市部における大気汚染の緩和などが期待されています。今回は実際に天然ガスで走っているロシアのバスを紹介しながら、天然ガスの優位性や、私たちの消費生活との関係性をご紹介します。

ロシア政府の発表によると、自動車燃料としてのガスは世界80か国以上で使用されています。ロシアは全世界天然ガス埋蔵量の20%を所有していますが、ガス自動車の利用ではわずか20位に留まっています。そこで政府は2020年までに都市部を中心に、公共交通機関および公益事業車両の少なくとも半分以上をガスエンジン燃料に転換すること、またロシア全土でガスステーション数を400店舗にすることを発表しました。

 

現在ロシアの多くの都市では、天然ガスエンジンへの移行が行われています。ロシア4大都市のひとつエカテリンブルク市は2015年に1年間で105台のバスをガスエンジンバスに変えました。その後も積極的に移行を進めており、それに合わせていくつかの定置式ガスステーションが設置されています。

 

一方、ロシア西部に位置する観光都市サンクトペテルブルク市は、ガスエンジンバスとガス充填ネットワークの拡大に巨額の資金を投資。2020年までに公共バスの少なくとも半数がガスエンジンバスになるよう計画を進めています。

 

ロシア政府は、ガスエンジンバスへの切り替えを計画している都市部企業の交通税(車保有者が支払う税で、馬力によって金額が異なる)を免除する法案も作りました。これにより今後さらに多くのバスが天然ガスエンジンバスに移行されると考えられます。

 

なぜ天然ガス?

天然ガスの優位性はどのようなものなのでしょうか? まず、天然ガスエンジン自動車は、環境安全性やCO2削減効果が高いことが挙げられます。長距離・都市間輸送に天然ガストラックを導入することで、排気有害物質の量が大幅に減少し、都市部の大気汚染レベルを低下させることが期待されているんですね。また専門家によれば、運輸業者がガスのエンジンに切り替えると燃料費の節約にもなるそう。

 

エネルギーセキュリティの観点からも、天然ガスの利用拡大は必要とされています。天然ガスは世界各地で産出でき、石油よりも価格変動や輸出入のリスク分散が可能。国際エネルギー機関(IEA)は、現在の回収可能な埋蔵量は230年分相当と予想しており、可採年数の拡大や市場価格の安定化も見込まれています。

 

しかし、天然ガスエンジンバスの移行には、いくつか問題点もあります。1つ目は、既存バスを天然ガス対応エンジンに改装するためには多くのコストがかかるということ。天然バスへの改装コストは少なくとも600万~700万ルーブル(約1000万~1200万円)です。

 

2つ目はガスステーションの数が足りていないこと。コストがかかるバス改装と共に、ガスステーションの建設は多額の初期投資を必要とします。そして3つ目は、天然ガスエンジンのガスタンク自体が重いため、貨物を運ぶ事業用トラックにした場合の積載量がディーゼル車より少なくなってしまうという問題。今後ロシアの天然ガスバスは、このような問題を解決していかなければなりません。

 

公共交通機関料金の値下げも

↑燃料を入れる天然ガス自動車

 

現在ロシアでは、ガスの価格は1リットルあたり約25ルーブル(約43円)、ディーゼルとガソリンは1リットルあたり約45ルーブル(約77円)。公共交通機関の場合、ディーゼル燃料と比較すると、天然ガスエンジンのほうが乗客の輸送コストが削減されます。また、ガソリンの価格は日本同様に不安定かつ上昇傾向。したがって、ガスを利用すれば、輸送コストが削減され、公共交通機関料金も値下げすることが予想されています。

 

ロシアにおける天然ガスエンジンバスの利用は、経済的な燃料消費や、よりよい環境性能に頼る未来への可能性を示唆しています。日本もガス協会が「2030年に向けた天然ガスの普及拡大」を発表し、貨物自動車を中心に50万台の天然ガス自動車を普及させる目標を掲げました。ガソリンや電気に次ぐ選択肢として、天然ガスに世界の注目が集まっています。

 

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