スマホの英語学習アプリにすごく興味があって、さまざまなものをチェックしている。TOEIC対策や会話特化などピンポイントな性格を打ち出したもの、あるいはワンストップショッピング的に総合色を売りにしているもの。どのアプリも、1年くらいのスパンで確実に進化していることが感じられる。
英文の響きを脳裏に刻む
今とある本を翻訳していて、これに「1900年代初頭のアメリカ東部特有の言い回し」みたいな文章がちょいちょい出てくる。筆者は電子辞書版のランダムハウスとオンライン英和辞典、英・英辞典、それに同義語辞典など何種類か組み合わせて使っているのだが、どの網目からも漏れてしまう表現があるのも事実だ。
こうした表現は文章をそのままコピペしてネットで検索し、意味を類推して訳し、その精度を確かめていくというプロセスが必要だ。このプロセスをより良い形でこなすにはどうしたらいいか。経験則的に言って、触れる文章の絶対量を増やすことだと思う。だから、ありとあらゆるジャンルの英文を可能な限り流し読みして、その響きを“なんとなく”脳裏に刻んでおくことにしている。
視覚情報としての文意
これを習慣づけると、読んだ英文のニュアンスを映像化できるようになる。文章を読む時、英語で入ってくる文字情報を日本語にした際の響きを映像として残す。この原稿で紹介する『英語が上手くなりたければ恋愛するに限る』(キャサリン・A・クラフト・著、里中哲彦・編訳/幻冬舎・刊)は、筆者が実践してきたこうした方法論にさらなる要素をトッピングしてくれる英語学習本だ。
コンセプトを短く言うなら“英語でする恋バナ”ということになるだろうか。セックスに関する表現も含めた作りは英会話本としての実用性がきわめて高く、他の英会話本との差別化がきっちりとされている。英語を勉強する動機としての引きの強さも十分に感じられる。
ロマコメ的な展開で進む英会話本
筆者は、『ラブ・アクチュアリー』とか『ラブソングができるまで』、『ノッティングヒルの恋人』といった、いわゆる「チック・フリック(女子映画)」という言葉で形容されるロマコメ映画が大好きだ。『英語が上手くなりたければ恋愛するに限る』は、このジャンルの映画を見ているような感じで読み進めることができる。文字情報の響きを映像で脳裏に残す感覚も実感できるはずだ。それは、高いストーリー性が感じられる以下のような章立てと無関係ではない。
・出会う
・ときめく
・デート
・自分を伝える
・いちゃいちゃする
・夢をはぐくむ
本書の基本的な性格は、次のように説明されている。
本書では、男女の出会いから別れまで、交際から結婚まで、考えられる状況をリストアップし恋愛のキーワードを交えながら恋愛物語をつくってみました。
『英語が上手くなりたければ恋愛するに限る』より引用
ロマコメ好きのおっさんの心は、広がりが感じられるこの一文でがっちりつかまれてしまった。
読者の想像力を高める作り
例文はとてもシンプル。ごく自然なフレーズが数多く紹介されていて、そのつみ重ねがリアリティを生み出す。こんな感じだ。
1 〔路上で〕あのう、すみません。
Excuse me.
誰かがあなたにこう声をかけてきました。あなたなら、どう反応しますか?
- Yes?
何でしょう?
この“Yes?”がとっても重要です。あるいはまた、
- Excuse me. Can I ask you a question?
すみません。ちょっと聞いてもいいですか?
と、尋ねる外国人もいるでしょう。そういった場合は、次のように応じるのが自然です。
- Sure. What is it?
ええ。何でしょう?
“Sure”というのは、肯定の相づちです。“What is it?”は、〔ワリズィイッt〕のように発音します。
『英語が上手くなりたければ恋愛するに限る』より引用
まるまる一項目紹介したが、すべての項目がこのくらいのボリュームでまとめられている。それに、kindle版には一切イラストがない。理由を考えてみた。読者一人ひとりが自分なりの映像を思い浮かべられるようにしてあるからではないだろうか。
字面を追っているだけなのに、次々といろいろなシーンが浮かんでくる。ひょっとして、この本は英会話学習本としてものすごく画期的な作りなのかもしれない。その根底にあるのは、もう一度言っておくが、シンプルさだ。シンプルがゆえに、字面のボリュームに対して、読み手が能動的に想起する情報量がかなり多くなる。
恋も英語の勉強も、シンプルなのが一番
読み進めていく中、80年代にキング・オブ・ラブソングみたいな言い方をされていたライオネル・リッチーの『ハロー』という曲を思い出した。そして『ベストヒットUSA』のMC小林克也さんが、ライオネル・リッチーを「シンプルな表現で深い意味合いを醸し出す」アーティストだと評していたことも思い出した。
本書に難しい言葉は一切出てこない。恋する気持ちを表すためには、シンプルな言い方が一番ということなのだろう。そしてシンプルが一番いいっていうことは、英語の勉強にも通じるのかもね。
【書籍紹介】
英語が上手くなりたければ恋愛するに限る
著者: キャサリン・A・クラフト(著)、 里中哲彦(訳)
発行:幻冬舎
基礎英語よりビジネス英語より確実に語学が上達する方法、それは英語を母語とする恋人を持つことだといわれる。自分の気持ちや願望を正確に相手に伝えたいという思いこそが、言語のスピード・ラーニングにつながるからである。実際に恋人を作らなくとも、本書が紹介する出会いのフレーズや一連のコミュニケーション英会話が自然に口をついて出れば、日常やビジネス・シーンに応用可能な英語力が必ず身につく。「目からウロコ」の画期的な英語学習本。
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