ラーメン好きなミュージシャンとして知られる、サニーデイ・サービスの田中 貴さん。年間600杯以上を食べ歩く田中さんが、女性にイチオシのお店を紹介するとしたら? そんな発想からはじまった本企画。今回は”超濃厚な豚骨ラーメン”とのことですが、何やらそれだけではないようで。
部位ごとに温度と時間を計算して抽出し素材の一番ウマいピークを濃密に凝縮
訪れたのは中央線の街、阿佐ヶ谷。サブカル文化が色濃いこの沿線には個性的な店が多く、ラーメン、カレー、飲み屋といった食ジャンルにも名店ぞろいです。今回の「麺処 一笑」は最寄り駅こそ丸の内線の南阿佐ヶ谷駅ですが、阿佐ヶ谷駅からでも徒歩10分強。人情味あふれる阿佐谷パールセンターとすずらん商店街を抜けて青梅街道と交わる手前、ここが目的地です。
オープンは2015年の12月と、比較的新しめ。田中さんはどんなきっかけでここを訪れたのでしょうか。
「店主の金子哲也さんは、もともと練馬の名店『濃菜麺(こいさいめん) 井の庄』で店長をしていた腕利き。井の庄自体が石神井公園を拠点とする実力派ラーメングループなんですが、僕は特に濃菜麺が好きで。フジロックに行く途中とか、関越(自動車道)に乗る前によく食べてたんです。金子さんとは顔見知り程度の間柄でしたけど、独立してからは一笑に行くようになって、仲が深まりましたね」(田中さん)
ラーメンは、何度も訪れたくなるようなヤミツキ感があるということでしょうか。とにもかくにも注文してみることに。ただ、券売機を見るとほかのラーメン店にはない特徴が。はじめに麺とスープだけのラーメンを4タイプから1杯選び、そこに合わせる8種のトッピングからひとつチョイスするという独特のシステムです。まずはスタンダードな組み合わせから食べてみました。
特筆すべきは濃密なスープ!国産の豚骨を厳選し、大腿骨や背骨など数種を配合。部位ごとに温度や熟成時間はおろか、寸胴まで変えるほど丁寧に仕込んだスープには、素材の最もおいしい部分がぎっしり詰まっています。また、ねっとり乳化したテクスチャーと深いコクがありながら、臭みがまったくないのもポイント。これは素材の下処理をしっかり行い雑味を排除しているうえ、スープの継ぎ足しを行わずフレッシュな状態で提供しているからなのです。
「別皿で数種の野菜をしっかり食べられる。しかも味のバリエーションが豊富で、選ぶ楽しさがある。これって、女性にとってはうれしい魅力ですよね。ただ、僕が一笑をオススメする最大のポイントはこの濃厚豚骨スープなんです。この連載は、一般的な女性向けラーメン特集と違い、女性も実はこってり系のラーメンが好きという人が多いのではというのが裏テーマでもあるんです(笑)。これだけヘビーなのに雑味がなく後味のすっきりとした味わいは、是非とも女性に味わってもらいたいです。野菜が別盛りになっている理由は、『まずはそのままスープと麺だけで味わってほしい』という金子さんの想いでしょう。ネギですら、のらなくなりました(従来ネギをのせて800円で提供していたのを、ネギなしにして10円値下げして790円に。ネギのせの希望があれば10円で提供)からね。真っ向勝負ですよ。寡黙で謙虚な金子さんですが、スープに絶対的な自信を持っているというのが感じ取れます。僕もいきなりトッピングを入れずに、かけスタイルで食べるのがオススメですし、いま気付いたら2/3ぐらい素で食べちゃってましたよ」(田中さん)
究極ともいえるこのスープ、骨の部位によっては約18時間も焚き上げるとか。同店の営業時間は11:00~16:00かつ売り切れ次第終了という短いものですが、その理由は仕込みに時間がかかるからなのです。金子店主が6年以上研究してたどり着いた、豚骨の香りと旨味の最高潮を凝縮する手法。田中さんも「魚介の素材などで火力や火入れ時間にこだわる店はありますが、豚骨オンリーのスープでそこまでのこだわりを持っている店を僕はほかに知りません。豚骨を強い火力で一気に炊き上げるスープとは別次元の濃厚豚骨スープ。間違いなく豚骨スープの最高峰だと言えますね」と太鼓判を押しています。
タイに激辛にイタリアにシビレetc 変幻自在の味変で飽きずにペロリ
前述したように、ベースとなるラーメンは全4タイプ。ひとつが「らーめん」で、もうひとつが「バリカタらーめん」。ほかには「辛辛らーめん」と、生姜風味or鰹やイカなどの魚介風味から選べる「あっさり醤油らーめん」があります(あっさり醤油の味を2種類とするなら、ラーメンは全5タイプ)。そのなかから今回の2杯目は、「あっさり醤油らーめん」の生姜風味を味わってみることに。トッピングは、エスニックテイストに味変できるという「すっぱベジ」をチョイス。
生姜のアイデアは、新潟県出身の金子さんが幼少期から食べていた長岡生姜醤油ラーメンの名店「青島食堂」にインスパイアされたものだとか。生姜の風味が香るキリっとしたスープには、アジアンテイストの具も一層マッチします。
「これはこれでめちゃくちゃウマい!濃厚なラーメンが苦手という人は、このあっさり醤油を選ぶといいでしょう。『すっぱベジ』にはほんのり海老の味わいもあって、トムヤムクンのようなニュアンスも。この発想は斬新ですね~」(田中さん)
そしてもうひとつ、女性に人気が高いというトッピング「カラベジ」も注文。この野菜類は+100円で追加ができるのですが、一方ラーメンはハーフが野菜付きで680円から用意されています。ということは、ラーメンはハーフにして麺を減量したぶんは野菜で補うという低糖質オーダーも可能。これも女性にうれしいシステムといえるでしょう。
「2人以上で来れば、それぞれ別の無料トッピングでシェアするという楽しみ方ができますよね。今回紹介した以外にもイタリアンテイストの『トマベジ』や、花椒がビリっとスパイシーな『シビベジ』など本当に多彩。まぁ、ニンニクと背脂で二郎風になる『スタベジ』という男っぽいのもありますけど、とにかく可能性は無限大ですよ」(田中さん)
ただでさえラーメンが激ウマなのに、これだけトッピングの組み合わせで味変を楽しめるラーメン店もないでしょう。あいているのは昼間のみですが、土日も営業しています。ぶらりと丸の内線、中央線にのり「麺処 一笑」のラーメンで”笑”顔になりませんか!
Shop Data
麺処 一笑
住所:東京都杉並区阿佐谷南1-9-5
電話番号:03-3311-8803
営業時間:11:00~16:00(L.O.売り切れ次第終了)
定休日:水曜
アクセス:東京メトロ丸ノ内線「南阿佐ケ谷駅」2a出口徒歩4分
Profile
田中 貴
サニーデイ・サービスのベーシスト。年間600杯以上を食べ歩くラーメン好きとしても知られ、TVや雑誌などでそのマニアぶりを発揮することも多い。バンドとしては2016年8月にリリースした通算10枚目のアルバム『DANCE TO YOU』に続き、2017年6月にはニューアルバム『Popcorn Ballads』を配信限定でリリース。Apple Music J-POPチャート第1位を獲得するなど話題となっているが、12月25日にCDとアナログ盤でリリースすることも決定。しかも同日には、今夏行われた日比谷野外大音楽堂公演の模様を収めたライブDVD「サニーデイ・サービス in 日比谷 夏のいけにえ」も発売。また12月18日には東京・LIQUIDROOM、12月21日には大阪・梅田CLUB QUATTROでワンマンライブが開催される。
取材・文=中山秀明 撮影=三木匡宏
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