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ラーメン
2016/5/18 23:09

【ラーメン王・石神氏が語る】家系ラーメン急増の理由は「日本人の食生活の変化」と「調理技術の進化」にあり

 ここ数年、都内を中心に「○○家」を掲げるラーメン屋が目立つと感じませんか? その多くが赤い看板で、なかには“横浜ラーメン”や“濃厚豚骨”といったのぼりもちらほら。これは通称“家系”と呼ばれる、横浜がルーツのラーメンです。しかし様々なジャンルがあるなかで、なぜ家系が目立って急増しているのでしょうか。ここではラーメン評論家の石神秀幸さんにインタビュー。家系急増の謎を解き明かすべく、様々な角度から分析してもらいました。

 

ラーメン王・石神氏が足しげく通う「誠屋」とは!? 太麺は“家系”の王道、細麺は“家出系”ともいうべき新世界

 

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↑ラーメン評論家の石神秀幸さん

 

 

日本人の嗜好の変化に対応したのが理由のひとつ

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まずはおさらいから。家系ラーメンの味的な特徴は、豚骨+鶏油(チーユ)と醤油ダレによる濃厚なスープにコシの強い太麺。麺の固さや油の量、味の濃さを選べるのも魅力です。トッピングは大サイズの海苔やほうれん草というのがセオリーで、卓上にはニンニクや生姜、胡麻などを置くことが多いです。また、固めに炊かれたライスを激推しで併売するのも特徴で、無料で提供されるケースも少なくありません。

 

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元祖は、横浜駅近くにある「吉村家」。1974年に横浜市磯子区、新杉田の産業道路沿いに創業し、1999年に現在の場所に移転した老舗です。より深くたどると、ルーツは古くからあるラーメンのフランチャイズチェーン「ラーメンショップ」とか。吉村家の創業者・吉村実さんが、独立前に働いていたそうです。いずれにせよ、元祖の味はやはりおいしいということでしょうか、吉村家は開店前から大行列。さらには他の家系でも並ぶ光景を見かけることがありますね。ということで、今回のテーマである「人気の理由」を石神さんに聞いてみました。

 

「日本人は洋食化とともに、肉をより多く食べるようになりました。これによって、豚や鶏をはじめとする動物系のエキスや油を好むようになり、ラーメンのスープも濃厚なものが求められるようになったのです。このパンチのあるスープに、日本人になじみの深い醤油を加えたものの代表が家系ですね」(石神さん)

 

つまりは、「変化しつつある日本人の嗜好に強くマッチしていたから」というのが大きな理由のひとつ。しかし、ほかにも濃厚なスープの醤油ラーメンはあります。そのひとつが「背脂チャッチャ系」ですが、家系に比べるとそこまで拡大はしていません。この理由にも、家系の特徴が表れていると石神さんは指摘します。

 

「背脂チャッチャ系は、その名の通りスープの上に豚の背脂を振りかけてこってり味わわせるタイプ。一方、家系も鶏油が表面に膜を張っていますが、そもそもスープのなかに動物系のエキスが溶け込んでいます。この乳化がとろみを生み出し、より味覚を刺激するのだと思います」(石神さん)

↑背脂チャッチャ系の有名店「らーめん香月」の醤油らーめん(850円)
↑背脂チャッチャ系の有名店「らーめん香月」の醤油らーめん(850円)

 

 

「太麺」は人気の決定的な理由にはならない

麺についても聞いてみました。家系独特の太麺のインパクトが大きいのでは? 濃厚なスープだからこそ、食べごたえのある太麺と相性がいいのがポイントなのでは? と聞いてみましたが、石神さんは必ずしもそうとも限らないと、麺の奥深さを語ります。

 

「濃厚なスープには太麺が合うという意見もよく聞きますが、僕はそうは思いません。たとえば、博多ラーメンも豚骨の効いた濃厚スープですが、麺はきわめて細いです。逆にうどんやきしめんの麺は太いですが、ラーメンに比べればあっさりした味わいですよね。家系でも僕の好きな店に『誠屋』というラーメン屋がありますが、そこは太麺か細麺かを選べますし、細麺が用意されているということは需要があるということ。スープと麺の関係にはナゾが多いんです」(石神)

↑吉村家の麺
↑吉村家の麺

セントラルキッチンの進歩で味の再現性も高くなった

麺の太さが理由でないとすれば、人気の理由は何なのでしょうか? 醤油の味が強めであり、大きな海苔がのることでライスとの相性がいいこと。また、濃さや麺の固さをカスタマイズできるという面白さも、家系人気のポイントのひとつ。ただ、石神さんは「アヴァンギャルドすぎないのも家系が拡大した理由」だといいます。

 

「たとえば、家系は『ラーメン二郎』系ほど強烈な個性はなく、また『天下一品』のこってりラーメンほど濃度は高くありません。それなりにインパクトはありながら、一般の人でも食べられる適度な濃厚さ。そして好みによって調節できるという柔軟性もあったからこそ、全国に広まっていったのではないでしょうか」(石神さん)

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「現在、調理器具や技術は格段に進化しており、名店の味の再現性も高くなっている」と石神さんはいいます。つまりはセントラルキッチンによる業務用の家系スープもおいしくなっており、量産化によるコストの低下で家系チェーンの大量出店が可能に。この大規模な展開も家系が拡大していったひとつの理由と考えられるでしょう。そんななかで、石神さんに一番好きな家系は? と聞くとやはり吉村家とのこと。ということで、次回は元祖はどれだけウマいのかを訪問レポートしたいと思います。こうご期待!

 

石神秀幸さん プロフィール

テレビ東京系「TVチャンピオンラーメン王選手権」を連覇した、ラーメン評論家の草分け。“神の舌を持つ男”と称されるほど味と食への造詣が深く、飲食店の経営やイベントのプロデュース、ソムリエなど多岐にわたり活躍。

石神さんツイッター https://twitter.com/ishigamih