「ワインが好き」というひとでも、多くが二言目に発するのは、「でもよく知らなくて」。ビールで同じ質問をしたら、果たして同じ回答が返ってくるでしょうか? ワインは、他のお酒に比べて圧倒的に「知らなくてはいけない」というイメージが強いお酒です。しかしワインは本来、世界的にみても“生活の一部”として人々の喜怒哀楽に寄り添い人生を豊かにするツールであって、知識の多さを競うものではないはずです。
「知識ではなくもっと心に従って、自由にワインを選んでいい」との信念をもち、まったく新しいメソッド「ワインアロマセラピー」によって、ワインの楽しみ方を提唱している人を取材しました。
心身へ作用する精油の役割を、ワインの香り・色・味わいに置き換える
「アロマセラピーとは、精油を使って心身の疲労回復やリラクゼーション、ストレスの解消などを目的とした自然療法。それを精油ではなく、ワインの香りや色、味わいで行うのが、ワインアロマセラピーなんです」と語るのは、ソムリエでありワイン講師、またライターとしても活躍する一般社団法人ワインアロマセラピー協会の会長、蜂須賀紀子さん。
ワインアロマセラピー協会は、2018年12月に蜂須賀さんが発起人となり他3名の理事とともに法人化されました。でも実は、「ワインアロマセラピー」という構想自体は、すでに4年も前からあったそう。着想のきっかけは、何だったのでしょうか?
「当時私は、自営のフレンチレストランでソムリエやワインスクールの講師などをしていたんですが、臨床心理士でありアロマセラピストの友人との会話から、最初の構想が生まれました。自然の産物であるワインも、精油のように無数の香りの種類があって、たとえワインを何気なく飲んでいるときでも心身に影響しないわけがない、それをアロマセラピーのような観点でカテゴライズしたら面白いのではないか? と考えたんです」(蜂須賀さん)
とはいえ、「果たして、ワインを香りだけでカテゴライズできるのか?」「精油でないワインにセラピー効果が期待できるか?」と、それぞれ互いの道のプロフェッショナルだからこそ躊躇していたところへ、背中を押してくれた人物がいたと言います。
「嗅覚の研究者として高名な、東京大学大学院農学生命科学研究科の東原和成教授です。ワイン愛飲家でもある東原先生は、ワインを分析するのではなく、複合体としてそのものを楽しめるメソッドならば、ぜひ確立すべきだと後押ししてくださいました」(蜂須賀さん)
その後東原先生を正式に相談役に迎え、4年の歳月を経た試行錯誤の結果、ワインの香りや色、味わいの要素によって12のカテゴリーに分類。それぞれに期待される心理作用を親しみやすい表現で提示し、知識やブランドではなく、“今の心理状態に共鳴する”ワインを選べるように体系化されました。
では、その“心で感じる”12のワインアロマセラピーカテゴリーをご紹介しましょう。
「ワインアロマセラピー」12のカテゴリー
・白ワイン
No.1 元気&リフレッシュ【ビタミン系白ワイン】
ハーブや柑橘類の香りが中心で、フレッシュな酸味の白ワイン
No.2 チャーミングに弾けるお色気【南国女子系白ワイン】
トロピカルフルーツや花の香りが中心で、酸味が柔らかな白ワイン
No.3 満ち足りた大人の幸せ【大人リッチ系白ワイン】
バニラやバターの香ばしい香りが中心で、辛口の白ワイン
No.4 子供のころの夢の世界【ゆるふわまったり系白ワイン】
オレンジやはちみつの香りが中心で、甘みの強い白ワイン
・赤ワイン
No.5 若さと未来への希望【キュート系赤ワイン】
梅やさくらんぼのすっきりした香りが中心で、軽やかな赤ワイン
No.6 肉食女子のエネルギー源【肉食女子系赤ワイン】
熟した黒い果実と動物的な香りが中心の濃厚な赤ワイン
No.7 内省と落ち着き【哲学系赤ワイン】
土や森、スパイスの香りが中心の落ち着いた赤ワイン
No.8 万物との一体感、心からの静かな幸福【時の旅人系赤ワイン】
チョコレートやロースト、腐葉土のような香りが中心の熟成した赤ワイン
・ロゼワイン
No.9 しっとりした女性の可愛らしさ【ガーリッシュ系ロゼワイン】
さくらんぼやイチゴの甘い香りが中心の優しいロゼ
・スパークリングワイン
No.10 華やか賑やか、元気パワー【元気パワー系スパークリングワイン】
柑橘類や酵母の香りが中心の、フレッシュなスパークリングワイン
No.11 成功からの活力【成功リッチ系スパークリングワイン】
はちみつやトーストの香ばしい香りが中心のスパークリング
・ナチュラルワイン
No.12 生命の息吹【自然力系ワイン】
大地の力強さを感じさせるナチュラルなワイン
詳細は、ワインアロマセラピー協会HPへ
このワインは「美味しい」と言っていいんですか?
この斬新なメソッドを提唱する蜂須賀さんは、自身もまた、型にはまらない経歴の持ち主でした。元銀行員で、その新卒で入社した大手銀行を退社し、長年の夢だった料理人へ転身を遂げます。東京のレストランに在籍したのち、2年間の単身フランス修行へ。帰国後、出産を経て、仕事と子育てとの両立を考慮してソムリエへと転身しました。その後、同じく料理人だった夫と東京・南青山にレストランを開業。
そのころ、カルチャースクールのワイン講師としても活動していましたが、そこで受講生からの忘れられない質問があったといいます。それは「先生、このワインは『美味しい』と言っていいんですか?」ということ。
当時、ワイン資格取得対策講座などで教鞭をとり熱心に教える日々でしたが、その言葉をきっかけに「何かが違う……」と感じ始めたそう。この経験は、冒頭の「知識ではなくもっと心に従って、自由にワインを選んでいい」という、現在の蜂須賀さんの信念を築く礎となったと言えるでしょう。
ではいよいよ、ワインアロマセラピーを実践。また、今回テイスティングしたワインも紹介していただきます。