毎年、春に旬を迎える「筍(たけのこ)」。国内の産地は、九州や京都が有名ですが、首都圏ナンバーワンの生産量を誇るのが千葉県。とくに、大多喜町(おおたきちょう)のたけのこは、身の白さが際立つ“白たけのこ”としても有名で、道の駅「たけゆらの里」には首都圏を中心に県外からも、毎年多くの人がとれたてのたけのこを買い求めに訪れます。今回は、この“たけのこの里”へと足を運び、おいしく食べる秘訣を探ってきました。
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筍(たけのこ)の旬はいつ?
私たちが食べているたけのこには、採れたてを味わえる生のたけのこと、通年購入できる水煮のたけのこの2種類があります。
水煮のたけのこは、季節問わず好きなときに味わうことができますが、生のたけのこの旬は「春」。一般的な孟宗竹のたけのこの旬は、九州では3月中旬から始まります。千葉県大多喜町では、毎年3月末~4月中旬あたりをピークに収穫。収穫時期は気温やその年の天候条件によって多少前後するそうですが、2021年は「収穫時期は例年より早め」とのこと。
生のたけのこは、トマトやキュウリのようにタネや苗を植えて収穫する野菜ではないため、この1か月足らずの短い収穫時期を逃すと、もう生の状態でたけのこを食べることができません。その名の通り、収穫しなかったたけのこは「竹」となり成長してしまうので、生のたけのこを味わえるのはこの時期だけ!
続いて5月になると、細くて長い「姫たけのこ」のシーズンがやってきます。千葉県大多喜町でも、ゴールデンウィーク前後に収穫時期を迎えるそうなので、生のたけのこを味わいたいなら、春の時期を逃さないようにしたいですね。
生産者を訪問! たけのこはどうやって収穫している?
そもそも、たけのこはどのように生えているか、どのように収穫されているか、知っていますか?
千葉県大多喜町で長年、たけのこを掘り続けている生産者のひとり、君塚さんの竹林を訪ねました。シーズン中は毎日、まだ日がのぼる直前の朝5時頃から収穫作業を開始。一説によると、たけのこは夜の間に成長するとされているため、朝早くから収穫を始めているそう。また、地中の温度によってたけのこの成長スピードが変わってくるため、毎日収穫作業を行わないと地中から次々とたけのこが出てきてしまうのだとか。君塚さんの農園では、1日で200キロ以上のたけのこを収穫・出荷することもあるそうです。
たけのこを掘り当てるのは、クワ一本と足の裏の感覚のみ! タネから育てる農産物とは異なり、どこにたけのこが生えてくるのかは、その年の春にならないとわかりません。まるで宝探しのようですが、豊作の年もあれば、まったくたけのこが収穫できない年もあるため収穫量を予測できず、生産者としては苦労する部分も多いのだとか。
竹林の中に入り、ほんの少しの土の盛り上がりを探しながら掘り当てていきます。
たけのこが生えているところを見つけたら、すぐにクワを振り落とすのではなく、まずは丁寧に周りの土を退けていきます。
ある程度土を掘り、根元が見えてきたら、たけのこと繋がっている根を切ってしまわないよう、ピンポイントでクワを入れなければなりません。今回取材させていただいた君塚さんはなんと、御年80歳! このクワ入れ部分に熟年の技が光るのだとか。クワを入れられる場所を見つけたら、一気にクワを下します。
クワに引っかかったたけのこをそのまま引き出すと、美しく真っ白なたけのこの断面が顔を出します。掘り出したら、新しい根からまた美味しいたけのこが生えてくるようにお礼の気持ちを込めて「お礼肥い(おれいごい)」(収穫後に肥料をあげること)を行います。
ところで、たけのこはどうやって生えているのでしょうか? 実は、土の中にタネを植えて出てくるのではなく、大きく成長した竹の根から生えています。
この地中に埋まる小さなたけのこは、2~3日で収穫できる状態へと成長しますが、収穫されないまま地中から顔を出してしまうと、えぐみが強くなり出荷もできない状態になってしまいます。しかし、この収穫されなかったたけのこも、地中では太く頑丈な根を猛スピードで広げていき、空に向かう竹へと成長していきます。この頑丈な根があることで10~20メートルの高さに成長しても、強い風に倒されることなく生きていけるのだとか。
ちなみに、管理せず放置されている竹林にはたけのこは生えてこないそうです。この君塚さんの竹林でも、5年ほど成長してしまった竹は伐採し、毎年若い竹の根から美味しいたけのこが出てくるように管理されています。
アク抜きしなくてもいい!? 秘密は土質にあり!
とれたてのたけのこがおいしいことはわかっていても……ハードルは下処理。“アク抜き”が大変、というイメージがありますよね。
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ところが、この千葉県大多喜町周辺、とくに“平沢地区”で採れるたけのこは、アク抜きが不要なほど、えぐみが少ないとされています。この身の白さとえぐみの少なさは、土に秘密があるのだとか。
「たけのこはあくまで山菜なので、えぐみがまったくないとは言えません。しかし、この地域は砂が少なく、粘土質の良質な土にたけのこが生えてくるため、えぐみが少なく、念入りにアク抜きをしなくても、おいしく食べられるたけのこが多いんです。その代わり、他の地域よりはキロ単価で200~300円ほどは高くなりますが、それだけの価値はありますよ」(道の駅「たけゆらの里」店長・森さん)
また、この房総半島大多喜町周辺は近くに海があるため、土に含まれるミネラル分もえぐみを抑える要因になっていると言われているそうです。
一方、水煮のたけのこは一年を通じて購入が可能。水煮の加工方法は非常にシンプルで、大釜で40~45分茹でたたけのこを一晩水に浸し、少量のクエン酸とともに真空パックに入れて、煮沸しただけ。余計なものは一切入らず、旬の時期のうちに加工しているので、1年中美味しいたけのこを楽しめます。
旬の味わいを余すことなく楽しめる「生」のたけのこを選ぶのもよし、好きな時にいつでも旬の味わいを楽しめる「水煮」を選ぶのもよし、用途や時期に合わせて楽しんでみてください。
採れたてのたけのこを保存するには? 買ってきたその日のうちに下茹でを!
ここからは君塚さんの農園からも仕入れを行っている食品メーカー、石井食品の広報で栄養管理士の市川菜緒子さんに、たけのこをおいしくいただく調理方法について教えていただきます。
大きく立派なたけのこを買ってきたのはいいものの、その日のうちに食べ切るのは大変です。どのように保存したら良いのでしょうか?
「その日のうちに大きな生のたけのこを食べ切れれば良いですが、1~2キロのたけのこをその日のうちに食べ切るのも大変ですよね。可能な限りその日のうちに下茹でし、保存容器に移しておきましょう」(市川さん)
市川さんによると、大多喜町のたけのこはえぐみが少ないため、以下の手順に沿って下茹でするだけで大丈夫なんだとか。アク抜きの糠や唐辛子を使う必要はありません。
【えぐみの少ないたけのこの下茹で方法】
1. できるだけ大きく、高さのあるお鍋を用意する
2. 流水で土を洗い流す
3. 外側の皮を3~5枚はがす
4. 先端から5cm程度を斜めに切り落とし、2~3cmほど縦に切り込みを入れる
5. 上から2つ目のイボまでを残し、根本を切り落とす
6. たけのこにかぶる程度の水を入れ、火にかける
7. 沸騰したら弱火にし、蓋をして約1時間茹でる(根本に端がスッと通る程度)
8. 柔らかくなったら火を止め、一晩(8時間以上)置き、しっかりと冷ます
すぐに食べるのであれば、タッパーや保存袋の中に、適量の水とともに入れて冷蔵庫で1週間ほど保管が可能です。その際は、毎日の水の取り替えをお忘れなく! 長期保存するのであれば、下茹でし、食べやすい大きさに切ったものをそのままラップし冷凍保存しても大丈夫とのことなので、用途に合わせて保存方法を変えてみるのがいいでしょう。
「買ってきたその日のうちに下茹でができないと、大多喜町のたけのこでも徐々にえぐみが出てきてしまいます。購入してすぐに下茹でできない場合や、アク抜きを推奨されている産地のたけのこは下記のどれかを、たけのこ一本あたりに対して入れて、下茹でするようにしてください。
・鍋いっぱいの量のこめのとぎ汁
・4分の1合分の米
・米糠1カップ
保存していると、たけのこの隙間に白いポツポツと結晶化したものが出てきますが、これは記憶力や集中力を高めると言われているチロシン(アミノ酸の一種)という栄養素です。ボーッとしてしまいがちな春にはぴったりな栄養素なので、洗い流さず一緒に食べるようにしましょう」(市川さん)
たけのこがどのように収穫されているか、また下処理について確認したところで、さっそく、部位ごとの味わいの違いと、各部位のおいしさにぴったりのレシピを紹介していただきましょう。