なめらかで口溶けのいいクリーミーなプリンが一世を風靡したのは、ひと昔前のこと。今では昔ながらの固いプリンにトレンドが逆戻りし、さまざまなお店で“固めプリン”を見かけます。プリンらしい喉越しのよさがありながらも、しっかりとした独特の食感がたまりません。
今回は家でも固いプリンが作れるよう、お菓子研究家の本間節子さんにレシピを考案していただきました。教えていただいたレシピは、バットで作る大きなカスタードプリンと、柑橘の香りが鮮やかなレモンプリンです。
“固めプリン”で味わえる、卵のおいしさ
ふたたび脚光を浴びている固めのレトロプリンは、ナイフで切れるくらいしっかりと固まる配合で作られています。柔らかいプリンと違って、型から上手に外せるので、カラメルソースがのった、プリンらしい見栄えがかわいいですよね。また、生クリームが入る柔らかいプリンより、卵の味がしっかりと感じられるのも、魅力のひとつです。
「固めプリンのレシピはいろいろありますが、今回は生クリームではなく牛乳を使いました。卵も卵黄だけでなく、全卵も使って白身の力できちんと固まるようにします。卵の分量が多めなので、黄色い卵色になり、卵のおいしさが感じられるんですよ」(お菓子研究家・本間節子さん、以下同)
おいしいプリン作りのコツ1.
卵を室温に戻すこと!
使う卵は、室温に戻してから調理しはじめます。プリンは低温のオーブンで焼くので、冷たい卵から作りはじめてしまうと、火の通り方が変わってしまうのです。
「時間があるときは、殻に入ったままの卵を一時間ほど室温に置いておきましょう。ちょっと急いでいるときは、卵を割ってラップなどをして置いておくと、早く温まりますよ。ただ、湯煎するなどして温めてしまうと温度が上がりすぎてしまうので気をつけましょう」
おいしいプリン作りのコツ2.
バニラビーンズかバニラオイルで香りづけすること!
プリンを食べたときに感じる、あのいい香りの正体はバニラ。やや高価ですが、左のようなバニラビーンズを使うと自然な香りがあり、バニラの黒い種子がプリンに出るのが特徴です。右のようなバニラオイルを使うときは、バニラエッセンスと間違えないように注意しましょう。バニラオイルは耐熱性があり、焼き菓子などに向いていますが、バニラエッセンスは耐熱性ではないので、オーブン料理には向かないのです。
プリンに欠かせない「カラメルソース」の作り方
さて、プリンの作り方に入る前に、作っておきたいのがカラメルソース。濃さはお好みで調節できますが、今回は少し苦みがあって濃厚なソースと、軽やかでプリンの味にも馴染みやすい薄めの色ソースの2種類を作ります。濃いめのソースはホーローバットで作ったプリンに、薄めのソースはレモンプリンに使用しました。
【材料】
砂糖……40g
水……小さじ1
熱湯……大さじ1と1/3
【作り方】
1.プリンを作る容器にバターを塗る。
「カラメルソースができあがったらすぐに容器に流し入れるので、先に容器にバターを塗って準備しておきます。バターを塗ることで、型から上手に外れるようになりますよ」
2.小鍋に砂糖と水を入れ、蓋をして弱火にかける。
「ここでは水が砂糖全部にかからなくても大丈夫です。また、お鍋は小さい方が水の蒸発を防げる方がうまくいくので、12〜15cmくらいの小さなお鍋を使い、蓋をします」
3.ソースが色づいてきたら火を止め、お湯をそっと入れる。
「茶色くなってきたら蓋を取りましょう。ヘラなどは使わず、お鍋を揺らして全体混ぜていきます。濃いめのソースにする場合はコーラのような色になるまで、薄めにする場合は薄めのおしょうゆくらいの色になるまで加熱して火を止めます。そっとお湯を入れたら、ふたたびお鍋を回してなじませましょう」
4.耐熱のヘラでソースを集め、用意した容器に流し入れる。
「お鍋に置きっぱなしにしてしまうと固まってきてしまうので、できあがったらすぐに容器に入れます」
2種類のカラメルソースはこうしてできあがりました。右側が濃いめ、左側が薄めのソースです。
カラメルソースの作り方をマスターしたら、いよいよレトロプリンのレシピを教えていただきましょう。
ホーローバットで作る、しっかり固めのカスタードプリン
バットで作るプリンは、できあがった瞬間に歓声をあげたくなる大きさ。切り分けてたっぷり食べることができます。プリンカップを持っていなくてもできるので、ホーローや耐熱皿など、お好みの型で作ってみてください。
「焼きあがって冷蔵庫に入れれば3時間ほどで落ち着きますが、おすすめは前夜に作って翌日食べるなど、7~8時間しっかり寝かせること。時間が経つごとに水分が飛んで固くなっていくので、2日ほど置いて食べるのも楽しんでみてくださいね。盛り付けには6分立てした生クリームを使いました。100gの生クリームに5gの砂糖を入れています」
【使うバットのサイズ】
今回使ったのは、野田琺瑯の160×105×57 mmというサイズ。違うサイズで作る場合は、ようすを見ながら加熱時間を変えてみてください。
【材料(ホーローバット1つ分)】
全卵……3個
卵黄……1個
砂糖……60g
牛乳……350ml
バニラビーンズ……2cm分(またはバニラオイル数滴)
カラメルソース(砂糖40g /水小さじ1/熱湯大さじ1と1/3)
【下準備】
・卵を室温に戻しておく
・型にバターを塗り、カラメルソースを流し入れておく
・オーブンを140℃に予熱しておく
【作り方】
1.バニラビーンズのさやを割り、種子を砂糖に混ぜる。
「バニラビーンズのさやを半分に割り、種子を指先でしごいて出します」
2.鍋に牛乳とバニラビーンズのさやを入れ、1の半分を加えて温める。
「湯気が上がる程度に温め、熱々にしないようにします」
3.残りの砂糖と卵を混ぜる。
「気泡が入ってしまうと、プリンに“す”が入りやすくなってしまうので、泡立て器をボウルに押し付けるようにして混ぜます」
4.卵のボウルに温めた牛乳を1/3ずつ混ぜる。
「ここでも気泡が入らないよう、静かに牛乳を注いで混ぜます」
5.生地を濾す。
「なめらかな口当たりになるよう、一度ざるで漉しましょう」
6.カラメルを入れた容器に生地を流し入れる。
「容器に静かに流し入れ、上に泡が浮いていたら大きいものだけは楊枝などでつぶします」
7.140℃に予熱したオーブンで、湯煎しながら25分焼く。
「湯煎焼きできるようにバットを二重にしたら、外側のバットに熱湯を入れます。プリンの生地が半分くらい浸かるとよいでしょう」
8.焼きあがったら粗熱を取り、冷蔵庫で最低3時間は冷やし、底を10秒ほど湯煎する。
「温めることによって、まわりのバターと底のカラメルが少し溶けて、形から外れやすくなります」
9.周囲にナイフで切り込みを入れ、指で押す。
「周りをぐるりと指で押さえてみて、ちゃんと型から外れそうか確かめます」
10.大きいバットをのせて逆さにして型を外す。
「きちんと冷えていて、型の側面を外すことができていたら、こんなふうにうまくいきますよ! カットしてクリームやフルーツを添えていただきましょう」
喫茶店みたいに生クリームをたっぷり絞って。レトロなレモンプリン
続いては、プリンといえばこの形! とワクワクするプリンカップで作るレモンプリンです。バットで作るプリンと基本的な作り方は同じですが、レモンの皮を煮出すことで、香りのよい爽やかなプリンなります。
「レモンのプリンは香りの邪魔にならないよう、薄めに仕上げたカラメルソースを合わせています。こんもりと絞った9分立ての生クリームとの相性もいいので、ぜひクリームも作ってみてください。こちらも100gの生クリームに5gの砂糖を入れています」
【材料(アルミカップ8号サイズ4つ分)】
全卵……3個
牛乳……300ml
砂糖……60g
レモン……1/2個(香り付け用)
レモンの輪切り……4枚(飾り付け用)
カラメルソース(砂糖40g /水小さじ1/熱湯大さじ1と1/3)
【下準備】
・卵を室温に戻しておく
・型にバターを塗り、カラメルソースを流し入れておく
・オーブンを140℃に予熱しておく
【作り方】
1.レモンの皮を削り、白いワタを切る。
「レモンの香りを出すために、黄色い部分だけでなく、白いワタのところも切っておきます」
2.鍋に牛乳とレモンのワタの方だけを入れ、砂糖の半分を加えて温める。ふつふつとしてきたら火を止め、黄色い皮も入れる。
「黄色い皮の方は香りが飛んでしまわないよう、火を止めてから入れます」
3.牛乳を漉してレモンを取り出す。
「さっと沸かした程度でも、プリンにはしっかりレモンの香りがつきますよ」
4.「バットでつくるプリン」の3~9の要領でプリンを焼き、冷ます。
(焼き時間は20~25分で様子を見る)
「アルミカップの方も、ぐるりと一周包丁を入れてから指で押してみます」
5.盛り付けたい器にプリンを開ける。
「いったん出してしまうと、移動が難しいので、盛り付けたい器にそのまま入れましょう」
6.生クリームを星型の口金で絞り、輪切りのレモンを飾る。
見た目はシンプルなプリンと同じですが、食べてみるとびっくりレモン味! のレモンプリン。これから暑くなっていく季節に、冷たくて清涼感のある味で、ますますおいしくいただけそうです。
プリンは卵と牛乳、砂糖があれば作れる、とってもシンプルなお菓子。だからこそ、ちょっとした配合の違いで、さまざまな固さや味が楽しめるものでもあります。お菓子研究家の本間さんが幾重にも試作してできあがったレシピ、ぜひ試してみてくださいね。
【プロフィール】
お菓子研究家 / 本間節子
日本茶インストラクター。少人数性のお菓子作り教室「atelier h」主宰。季節と食材の味を大切にしたお菓子を提案している。丁寧で研究熱心なレシピは再現性が高く、定評がある。お菓子作りに慣れていない人にもできるような、近著に『お菓子をつくる季節を楽しむ82レシピ』や『やわらかとろける いとしのゼリー』(ともに主婦の友社)。