「若者の酒離れ」やあえてお酒を飲まない「ソバーキュリアス」といった言葉が定着した昨今。その一方で20代の男女を対象に行われた飲酒に関する調査では、この10年間で自宅外で飲むお酒の種類のトップが「ビール」から「サワー・チューハイ」に代わり、「ハイボール」と回答した人も約2倍に伸長しているという結果が。
「とりあえず生」の時代が終わりを迎え、お酒文化が多様化していることがうかがえます。また最近は、お酒を飲む若者の間では、年輩の方からすると「そんな飲み方あり!?」と驚くようなユニークな飲み方が続々と登場しています。今回は、そんなZ世代の間で話題の新しいお酒の飲み方を「ネオリカー」と名付け、フードアナリストの中山秀明さんにうかがいました。
「JJ」
……ネーミングに惹かれて試したらその飲みやすさにハマる人続出
「お酒に限らずSNS等の影響もあり局所的なトレンドが、全国規模に広がるスピードはどんどん早くなっています。そんな局所的な流行りから一気に全国に広まった飲み方の筆頭が“JJ”でしょう」(フードアナリスト・中山秀明さん、以下同)
「JJ」とは、ジャスミン焼酎のジャスミン茶割りのこと。飲食店でJJに使われているサントリーの「ジャスミン焼酎〈茉莉花(まつりか)〉」は、2004年発売の商品にも関わらず、近年その売り上げが急増し、2023年の販売数は2019年の約10倍に。その人気を受け、2024年4月には缶バージョンも発売されました。
サントリー「茉莉花〈ジャスミン茶割・JJ(ジェージェー)〉缶」335ml(左)
実売価格184円(税込)
サントリー「ジャスミン焼酎〈茉莉花(まつりか)〉」500ml(右)
実売価格726円(税込)
「メーカーも正確な経緯はわかっていないそうですが、大阪や沖縄の飲食店を中心に提供されるようになり、口コミなどで自然発生的に人気が広がった飲み方です。ジャスミン焼酎とジャスミン茶の頭文字を取った“JJ”というキャッチーな名前も飲んでみたいと思わせられます」
とはいえ、名前がユニークだというだけでこれほどにヒットするはずがありません。
「JJに限らずお茶割りは、その飲み口の軽さから若い世代に人気の飲み方です。加えて彼らは、『ゴンチャ』などで日常的に中国茶に親しんできた世代。つまり上の世代以上にジャスミン茶を受け入れる土台ができていたといえます。華やかなジャスミンの香りとすっきりとした飲み口のJJが彼らに受け入れられたのは自然なことだと思います」
「ビールの炭酸割り」
……好みの度数に調整できればビールが苦手でもおいしい
“飲み口の軽さ”という点でいうと、Z世代の間で人気の意外なお酒の飲み方がもう一つあります。それがビールの炭酸割り。家庭で楽しめる商品としては、2023年にサントリーから発売されたビール飲料『ビアボール』がそれに当たります。
「ビアボールは、アルコール度数16%のビールなんですが、そのまま飲むのではなく炭酸水などで割って飲むのが特徴。割ることで好みの度数に調整できるのはもちろん、炭酸が入ることで一般的なビールが苦手な方でも飲みやすい、軽やかな味わいになります」
サントリー「ビアボール」334ml
実売価格625円(税込)
ビールをトマトジュースで割る「レッドアイ』」や、ジンジャーエールで割った『シャンディーガフ」など、これまでもビアカクテルは存在していましたが、何が違うのでしょうか?
「少し乱暴な言い方になってしまうかもしれませんが、それらのビアカクテルは、いわばビールに割材の“味を足す”お酒です。それに対しビアボールは、炭酸水で割って“味を薄める”のが特徴。Z世代は甘すぎたり、渋すぎたりといった味が強いものよりも、やさしい味を好む人が多い傾向にあります。味が濃すぎずすっと飲めて、それでいてビールらしい苦味も感じられるので一度飲むとクセになるでしょう。軽やかでどんな料理にもマッチする点でも人気です」
「コーヒーカクテル」
……深夜カフェでのおしゃべりタイムのおとも
さらに中山さんは、エスプレッソやコーヒーリキュールにウォッカなどを加えた『エスプレッソ・マティーニ』を筆頭に、「コーヒーカクテル」がZ世代の間でじわじわ盛り上がってきていると言います。
「これまではバーで提供されるカクテルでしたが、近年は夜遅くまでやっているカフェや喫茶店などで取り扱われることが増え、情報感度の高い人の間で少しずつ知名度を上げています。またカフェバーなどは、深夜に友人とおしゃべりをするオシャレな場所として若者に重宝されているので、目にする機会も増えているのでしょう」
「コーヒーは苦手でもカフェラテは好きという人も多いので、カフェラテの延長線上の飲み物として取り入れやすく、また、カクテルグラスに入っていたり、お店独自の盛り付けで出てきたりするので、コーヒーやカフェラテよりもSNS映えする点も人気の理由です」
「コーヒーカクテルのトレンドの中心はまだ飲食店にあり、家庭用の商品はまだ少ないですが、それでも今年いくつか発売されています。ハイボールやジンソーダのようなメジャーRTDにはならなくとも、ひとつのジャンルとして確立する可能性は十分にあると予想しています」
お酒を飲まない世代と言われてはいても、飲むときは飲むときで自分らしいお酒の楽しみ方を見つけているZ世代。今後も彼らならではの新しい飲み方を生み出し、それがやがてスーパーやコンビニの店頭へと波及していく可能性は十分にあるといえるでしょう。今後も新たなトレンドの種に注目です。
Profile
フードアナリスト / 中山秀明
フードアナリスト・ライター。なかでもビールに関する執筆が多く、大手メーカー、マイクロブリュワリー、ブリューパブ、クラフトビアレストランなど、小売り、外食問わず全国各地へ取材に赴いている。