本人に訊け〜明日からモノ選びや暮らし方が変わるかも。
普段から何気なく口にしている、味噌や醤油などの調味料。その源の「麹」について、私たちはどれくらい知っているだろうか? 「台所でも麹は作れます」と話すのは、世界に向けて麹の魅力を発信し続けているなかじさん。知るほどに人生を豊かにしてくれる「麹」の世界を、ブックセラピスト・元木忍さんが覗いた。

■5冊目
麹づくりと発酵しごと
(なかじ・著/農文協・刊 2200円)
■今回の“本”人
株式会社麹の学校代表・麹文化研究家 なかじ
1979年大分県生まれ。鼓童文化財団研修所を卒業し、千葉県の寺田本家で酒造りに関わり、2016年に独立。日本と世界へ向けて麹作りと発酵文化を伝える活動を行う。
日本の「KOJI」が、世界で独自の進化を遂げている
「今、海外では『KOJI』という言葉がそのまま通用するようになっているんです。ただ、向こうの人たちがよく言うのは『日本の情報が出てこない』ということ。専門的な論文なら英語でもありますが、『どういう技術で、どうやって作るのか』という情報が英語で全くないんです。その間に、海外では独自の“麹カルチャー”が発達してしまいました」
──日本から情報が発信されていないから、向こうで独自に育ってしまった、と。
「そうなんです。だから日本側から英語で発信する必要があると感じて作ったのが、前作の『麹本 KOJI for LIFE』です。今回の新著では米麹だけでなく、醤油麹や麦麹、焼酎の白麹など5種類の作り方を載せています。麹は最終商品ではなく、そこから何を作るかが大事。麹作りから発酵食品までを一貫して台所で完結できるように、ということを目指しました」
麹づくりの場所を酒蔵から台所へ

──家庭の台所では温度や湿度、余計な菌も入ってしまうのでは?
「意外とできるものなんですよ。工夫次第で、台所でも麹づくりができると、僕自身も面白い発見でした。そこから『私の住んでいる街でもやりたい』という方が全国的に広がっていき、今の仕事につながりました。考えてみれば、日本は昔から家庭での麹づくりを行ってきましたよね。その知恵が活かされるのだと思います」
──『麹づくりと発酵しごと』を読んで、工程のシンプルさにとても驚きました。
「麹作りを『特別なこと』にしたくないんです。技術と知識さえあれば、誰でもどこでも作れる。不特定多数の人が安全に、確実に70点を出し続けられるように、例えば“お米に素手で触れない工程”にするなど、衛生管理をレシピとして落とし込んでいます」

──道具としてボウルやバット、電気毛布、ヨーグルトメーカーなど、身近なモノが登場しますね。
「はい、初めての方でもチャレンジしていただきやすいと思います。また、私自身の麹づくりでは普段、ガジェットもよく活用します。外出先でも温度計をチェックできたり、YouTubeをやっていてカメラもこだわっていたりするので、ゲットナビに載っているような最新ガジェットもけっこうチェックしているんですよ。今は高性能なマイクやレコーダーを手に入れて、いつか発酵の“音”も収録していきたいと考えています」
──アナログそうにみえる麹づくりですが、ガジェットと組み合わせるとどんどん面白いアイデアが生まれそうですね。麹づくりで失敗したことはありますか?
「麹づくりは、一つ一つの工程を積み上げていかないと、次の工程には進めません。だから失敗はしないんです。やるべきこととゴールが決まっているのが、麹づくりのポイントです。また、例えば米麹はたった3日でできてしまうので、完成までに半年かかる味噌と比べても失敗は少なくできます」

──たしかに。麹づくりと発酵は分けて考えないといけませんね。
「海外のワインって年代ごとに味が変わりますよね? それが当たり前だし、受け入れられているんですが、日本の場合は『毎年、同じ味』を求められている。不思議ですよね。日本の発酵技術は、麹の元となるお米や大豆の出来が違っていても、職人さんの技術で調整しながら、蔵の求める味、コンセプトに合わせた味に調整していく文化が成り立っているんです」
麹づくりは、知的好奇心をくすぐる?
──面白いですね。一言で麹の魅力を伝えるとしたら?
「麹をつくる工程が知的好奇心をくすぐると言いますか、麹を入り口に人生が全部面白くなっていくのが、一番の魅力ですね。日本は発酵のテーマパークなので、そこかしこに発酵食品があります。お酒が好きな人は、日本酒。料理が好きな人は味噌、醤油、本みりん、酢など。あらゆる調味料に麹が使われています。料理の世界を超えて、麹づくりは盆栽とかに近い感覚があるんですよね」
──発酵のテーマパーク! 素敵な表現です。なかじさんのような男性がこれからさらに増えていきそうですね。
「今のところ教室にいらっしゃる9割は女性なのですが、この面白さに気づいて、マニアックにハマる男性も増えてほしいですね。日本の文化を見直すきっかけにもなりますし、地方の食文化に触れることで知的好奇心も満たされていく。麹をつくるということは、その食文化を自分で再現することにもなるので、アイデンティティーの安定にもつながると信じています。麹を理解することで、日本がもっと好きになるはずです」 春には「発酵」をテーマにした文芸書を出版予定。味噌、醤油、種麹、腸内細菌の専門家の方々にインタビューした本になるという。
ナビゲーター
ブックセラピスト・元木 忍
Gakken、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て独立、一貫して本の仕事に携わる。東日本大震災で「本が人の心を支える力」を実感して以来、知と感性を軸に、人生に寄り添う一冊を選び続けている。
※「GetNavi」2026年5月号に掲載された記事を再編集したものです。
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