ライフスタイル
2021/6/3 19:15

石坂産業「三富今昔村」で見た、産業廃棄物処理会社が目指すゴミをゴミにしない循環型経済

未来に良し、地球に良し、作り手に良し。
これからの産業のあり方

 

元木:現在は日本企業も、少しは環境問題を考えているようにも思われますが、石坂社長から、今の日本の企業が行っている環境活動ってどんなふうに見えているのでしょうか?

 

石坂:灯台下暗しじゃないけれど、自分たちのやっていることをまず見直したらいいと思うのよ。環境活動というと、日本の会社ってなぜか外に対して寄付したり、木を植えたり海のゴミ拾いをするといった活動をやりがちなんだけど、むしろ自分たちの生産・廃棄プロセスを見直すだけでじゅうぶんだと思うのよね。

 

元木:それができないのは、なぜなんでしょうね。

 

石坂:「お客さまが欲しがるからこれを作ります」っていう言い訳のもとに、結局は自然ではなく「人のため」に仕事をする経済活動になっているからでしょう。それこそ梱包材が少し凹んでいたくらいで商品の返品・交換を求めるような価値観は、もう変えていかないといけない。

 

元木:豪華で凹みもなく綺麗な状態で、でも安くて、常に大量に消費ができることばかりを重視していて、自然とは全然向きあっていない……。すべてが経済活動の上で成り立っている気がしますね。

 

梱包資材などにも綺麗を求めるのは、世界の中でも日本人は異常なほど神経質だと思いますね。

 

石坂:私たちは、2021年4月から、消費者に対し「捨てない選択」の価値を普及することを目的とした「CHOICE ZERO AWARD」プロジェクトをスタートしています(https://choice-zero.org)。こんなふうに、企業側がそういうお客様の価値判断を変えていく活動をしたっていいと思うの。なぜならイノベーションって、結局は道のないところに道を作るわけでしょう。「うちも森林活動してます」なんて横並びのアピールで安心するんじゃなくて、自分たちの作っている商品の過剰生産とか、過剰梱包を思い切って辞める方が、環境や会社の未来にはずっといいかもしれない。近江商人の「三方良し」とは、「売り手良し、買い手良し、世間良し」。これからの産業は、それに加えて「未来に良し、地球に良し、作り手に良し」という“六方良し”という価値観に変えていくことが必要だと思います。さっきも話したように、バージン=枯渇性の資源ばかり求め、それだけが美しいとする価値観をやめない限り、自然破壊はもう止められないのだから。

 

↑石坂社長に話を聞く、ブックセラピストの元木忍さん

 

里山の森とともに生きることで
自ら循環型経済を実践する

石坂産業のリサイクル工場は、すべて同社が経営する「三富今昔村」という施設の中にあります。自分たちの手で年月をかけて管理してきた里山である通称「くぬぎの森」の中には、オーガニック野菜を育てる農園やカフェ、養鶏場やバーベキューができるスペースなど、五感で自然や環境問題を学べるサステナブルフィールドが広がっていました。

 

石坂:今後は敷地内でエネルギー事業や温浴事業をスタートすることも考えています。この活動は結局なんのためにやっているかというと、循環型経済=サーキュラーエコノミーを作っていくことが私たちのビジョンであり、その原点になるのがこの里山だと考えているからなんです。昔は、森の木から薪をとって火を起こしたり、自然にかえる材料で生活道具を作ったりして、里山の森そのものが“循環”していたわけよね。でも今は、誰も里山の森で薪なんか採らない。森の循環を守ろうと思ったら、お金なりボランティアの力なりが必要なんです。だから、三富今昔村では大人の方だけに「里山入村料」をいただいています。

 

元木:まさにサステナブルですね。里山を循環させるために我々ができることを、大人たちから「里山入村料」を貰って、一緒に守っていくのですね。

 

石坂:商品ではなく、三富今昔村という価値を生み出している背景に投資をしてもらうということ。そのサービスやモノを使うことで、未来がどんなふうに良くなるか。そういうことにお金が使われるビジネス形態を作ることが大事だと思っています。

 

元木:目の前にある“見えるもの”への投資ではなく、未来に対して投資をするってことですね。

 

石坂:その通りです。会社って経営そのものが大変だし日々が戦いだけれど、だからといって地球環境のことなんか考えていられない……というあり方でいると、これからは経営そのものが長期的に続けられない時代になっていくと思っています。対症療法に終始して、自然環境を破壊するだけのビジネスを根本から見直す。それを自分たちから実践しようということです。

 

↑1300種以上の動植物が生息するくぬぎの森を有する三富今昔村の敷地は、東京ドーム4個分の広さ。資源を生み出すリサイクル工場の見学ができる(予約制)ほか、敷地内のさまざまな施設で食農育体験や里山体験プログラムが実施されています

 

↑おいしい卵を産んでくれるニワトリ小屋や、アメンボやおたまじゃくしなど水辺の生き物たちがうごめく池もあります。ちなみに鶏糞は里山の落ち葉と混合し、農作物を育てる際のたい肥として用いられているそう

 

↑石坂オーガニックファームで育てられた地元の固有種野菜や果物が食べられる、村内の「くぬぎの森交流プラザ」のメニューです。食事には、栄養たっぷりの野菜の皮やヘタなどから作った香り高いベジブロススープ付き。これも「ゴミをゴミにしない」というメッセージの体現です

『未来教室』は、未来を幸せにするための
選択と行動のヒントが書かれた本

石坂さんはこれまで、自身の半生やビジネスを綴った3冊の本を出版しています。その中でブックセラピスト・元木さんが注目したのが、今回のインタビューのきっかけとなった『どんなマイナスもプラスにできる 未来教室』(PHP研究所)という本でした。

 

元木:この本は、石坂産業のことや社長の仕事がわかるだけではなく、お子さんから大人まで気軽に読めて、なおかつ所々に込められた環境問題に関するメッセージがシンプルに伝わる一冊だと思いました。

 

石坂:版元のPHPさんからの提案で、いっそのこと子どもでも読めるような本にしたらどうですかと提案いただいて、この形になりました。私はどちらかというと親御さんに読んで欲しいのだけれど、お子さんと一緒に読んでくれたらいいのかなって。

 

元木:『未来教室』っていうタイトルも素敵ですね。私たちはもっと未来のことを学ばなきゃいけませんからね。

 

石坂:このタイトルもPHPさんと一緒に考えました。自分でいうのもなんですけど、担当の方から言われたんですよ。「石坂さんって顔も性格も明るいし、なんか未来が明るいんですよね」って(笑)。いわれてみればたしかに私の人生、常に未来志向で生きてるところがあるかもしれないなと。

 

元木:小さい頃から未来志向だったんですか?

 

石坂:さすがにそれはなくて、自分の未来を10年スパンくらいで思い描くようになったのは20歳を過ぎてからでしたね。でも私は結局のところ、当初の目標だったネイルサロンは作らずに会社の二代目を継いだし、20代で離婚したりもしています。全部が予定通りにいったわけではないんですよ。だけど、今は仕事とプライベートの垣根がないくらいに仕事が面白いです。思い描いていた選択肢が変わってしまうことなんて人生にはよくあるし、だからといって失敗というわけじゃない。

 

元木:その通り、失敗のない成功はないですよね。この本には、自分の未来をより良くする選択のヒントがたくさん書かれていると思いますが、仕事とプライベートを重ねながら、自分とも向き合って生きていくというわけですね。石坂社長はそれができているから、目的が明確で面白い仕事ができているのでしょう。

 

石坂:大切なのは、自分なりの幸せの価値観、満足っていうのがどこにあるかを常に意識したり、都度見直したりすることじゃないかな。自分の価値観がわかった上で生きるのと、自分自身がよくわからないで生きるのでは、やっぱり幸せ度数が違うんじゃないかと思います。

 

↑石坂さんがこれまで出版してきた3冊です。中央は『五感経営 産廃会社の娘、逆転を語る』(日経BP)。右は『絶体絶命でも世界一愛される会社に変える! 2代目女性社長の号泣戦記』(ダイヤモンド社)

 

↑子どもにも読んでもらうことを想定した「未来教室」の装丁は、イラストを使った温かみのあるデザイン。本文中にも随所にイラストを入れ、漢字にはルビを振るなど工夫をしています

 

【プロフィール】

石坂産業 代表取締役 / 石坂典子

1972年生まれ。アメリカに短期留学を経て20歳で石坂産業へ入社、2002年に父の志を継ぎ取締役社長に就任する。国際規格ISO経営に挑戦し、里山保護活動を通して日本生態系協会のJHEP(ハビタット評価認証制度)最高ランクの「AAA」を取得。2016年日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2016・情熱経営者賞」など、経営者としての受賞歴も数知れず。プライベートでは二児の母。趣味はガーデニングやアンティーク家具、ハーレーを駆る女性ライダーでもある。https://ishizaka-group.co.jp/

 

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