春から夏、暖かく屋外が気持ちいい季節になると、ワインショップの店頭やレストランのワインリストで、“ロゼ”が目につくようになります。ふと「選んでみようかな?」と気持ちは動くものの、結局白ワインや赤ワインといった、いつもの選択に落ち着いてしまう……日本では、まだまだそんな消極的なワイン愛飲家も多いなか、フランスをはじめ世界では、ロゼワインの人気が年々高まっています。
以前詳報した通り、フランスでは、ロゼワインの消費量はいまや白ワインを上回っており、全体の消費の30%以上を占めるほど。月平均1〜2本のロゼワインが楽しまれているそう。そんなロゼワイン大国・フランスは、ロゼワインの生産量でも世界第一位。そしてフランス国内のロゼ生産量の約35%を占める産地が、プロヴァンス地方なのです。
プロヴァンス・ロゼワイン特有の魅力とは?
フランス南東部、地中海沿いに広がるプロヴァンス地方。豊かな自然と色彩に溢れ、山と海、風と太陽、光と影、それらが織りなす独特の風景が、多くの偉大なる芸術家たちをも魅了し移住を決意させた美しい土地です。
このプロヴァンスは、歴史的にフランスでもっとも古いワイン産地としても知られています。そこで生まれるロゼワインは、歴史的には赤ワインを造る過程の副産物として自然発生的に生まれたものと推測されますが、現在ではプロヴァンスといえばロゼワイン! 映画祭や富裕層の避暑地としての華やかなイメージと相まって、他産地のロゼワインにはない特有の魅力を醸し出しています。
そんなプロヴァンス・ロゼの持つ独特の世界観、他にはない魅力をよく知る人に、お話を伺いました。株式会社ロゼレガンス代表取締役社長の川口知佐さん。海外からワインを輸入するインポート業者は、日本に約300〜400社あると言われますが、川口さんのロゼレガンスはなんと“プロヴァンス・ロゼワインだけ”を輸入する、唯一無二のインポーター。同じプロヴァンス産でも白ワインや赤ワインは取り扱わず、ロゼワインだけに特化した大変珍しいインポーターなのです。
サーモンピンクでもなく、チェリーローズでもない“ローズゴールド”に秘められた世界観
プロヴァンス・ロゼの最大の特徴は、その淡い色調です。桃色、バラ色というよりも肌色に近く、しかもルノワールの描く裸婦のようなはつらつと血の通った美しい肌色、とでも表現できるでしょうか。川口さんもご自身の生い立ちや経歴を踏まえて、この色合いについての思い入れを話してくださいました。
「私はこの色と輝きを見ているだけで、なんとも言えない気持ちになるのです。世界のロゼワインにはさまざまな色合いが存在します。例えば、チェリーやラズベリーのような鮮やかなピンク色。でもプロヴァンス・ロゼは、もっと淡いですね。サーモンピンクとも表現されますが、それではどうも“輝き”が含まれていない。さらに“透明感”も表現に含めたくて、私はこの独特の色合いを“ローズゴールド”と呼んでいます」(川口知佐さん)
千葉県に150年以上続く酒問屋の5代目として生まれた川口さん。20歳を過ぎた頃に縁あってフランスの“家族”と呼べる人々に出会い、プロヴァンスでの生活を経験します。その家族の父はカンヌで宝石商を営み、映画スターや富裕層たちとの交流が盛んだったとか。でもひとつ屋根の下に暮らして見えた家族の暮らしぶりは、とてもシンプルでした。朝、高級なスーツに蝶ネクタイを締めて出かけたと思ったら、昼頃には帰宅して氷を入れた赤ワインやロゼワインをテラスで楽しみ、家族と団欒。プレミアムで気品溢れる暮らしと、簡素で穏やかな暮らしのメリハリ。日本へ帰国後、偶然にも宝飾関係の仕事に就いた川口さんですが、ずっとそのプロヴァンス流のライフスタイルが心から離れなかったと言います。
その後、家業を引き継ぐかたわら、ボルドーワインなどの輸入業をはじめましたが、2016年に「私はやっぱり、プロヴァンス・ロゼにしか心がときめかない!」と、それまでの取り扱いワインを一切止め、プロヴァンス・ロゼワインだけに特化したインポーター、ロゼレガンスを創業しました。
そこまでして愛して止まないプロヴァンス・ロゼの色合いの表現を、“輝き”と“透明感”を帯びた“ローズゴールド”としたのは、宝飾関係出身の川口さんならではの感性でしょう。
「プロヴァンス・ロゼの魅力は、この淡いローズゴールドからも感じられる通り、儚く楚々とした気品がありながら、地中海の強い太陽や風をしっかりと感じる重厚な味わいと余韻、そのコントラストです。それはプロヴァンスの自然の豊かさと、都会的な富裕層の洗練された粋な文化というギャップの融合や、静と動のメリハリを感じるプロヴァンス流のライフスタイルにも通じるものがあるのです」(川口さん)
川口さんにとってのプロヴァンス・ロゼの魅力は、プロヴァンスという土地そのもの、ライフスタイルそのものが凝縮されているということのようです。
「ドラえもんの“どこでもドア”じゃないけれど、このグラス一杯でプロヴァンスの光と風の中へ飛んで行ける気がするんです(笑)」(川口さん)
プレミアムから伝えるロゼワインの文化
ワインを気軽に楽しもう、日常生活に取り入れよう。そういったプロモーションを、最近よく見かけます。でも川口さんがプロヴァンス・ロゼワインを通じて伝えたい世界観は、少し異なるのだとか。
「気軽に日常使いとしてどうぞ、というより、ちょっと驚きのある“素敵なもの”というインパクトでロゼワイン文化を伝えたいのです。日本では、まだまだロゼワインを飲む消費者さんは少ない。また『ワイン初心者のためのワインでは?』『どれも甘口なのでは?』というような固定観念もあります。だからこそ、いつでも気軽にというより、ギュっと心を鷲掴みにされるような、そして少し憧れの対象となるようなプレミアム感を、まずは知っていただきたいのです」(川口さん)
ファッションの世界でも、ファストファッションもまた文化ですが、その流行の元をたどれば、老舗ブランドの洗練されたデザインに対する憧れや模倣によるものが多く見られるのと同様、新しい文化を根付かせるには、まずは人々の憧れを駆り立てるプレミアムなものから。プロヴァンス・ロゼには、“ローズゴールド”と表現される上品な色合い、フランス最古のワイン産地という歴史的背景からも、ロゼワインのプレミアム感を伝えることのできる要素が詰まっていると、川口さんは語ります。
「プロヴァンス・ロゼの中には、手軽なものもたくさんあります。でも私たちがこだわりたいのは、あくまでプレミアム感。プロヴァンス・ロゼワイン専門のインポーターになろうと決めたとき、プロヴァンスだけで70軒以上のワイナリーを回りました」(川口さん)
プロヴァンス・ロゼを知り尽くした川口さん厳選の銘柄とは?
川口さんが厳選の末に取り扱いを決めた、いくつかのプロヴァンス・ロゼについて話してくれました。
「プロヴァンスの完熟した黒ブドウから、このデリケートな色合いと香りを抽出するのは、浸漬時間を分単位で管理している効果でもあります。例えば2時間では短く、2時間半では長いとか。それはまるで調香師のような繊細な作業なんです。
また、コランスという村全体が丸ごとオーガニック農業に転向し成功を収めた土地のブドウを使った、こだわりのBIO認定ロゼワインもあります。さらにロゼワインでは珍しい新樽を20%使った熟成により、もはや赤ワインの域に達するような肉厚感と飲みごたえが楽しめるものもあります」(川口さん)
しかしプレミアムは、飲み手を選ぶようなスノッブとは違います。川口さんが伝えたいのは、その絶妙なプレミアムロゼワインの世界観。
「私がイメージするプレミアムロゼは、“白木のカウンターが似合うロゼ”。パキッと乾いた白木に映えるロゼワインです。とてもリラックスするけれど、それは家庭のリラックスとは違う。簡素で洗練されていて、そのカウンターには食材の旨味を生かしたシンプルなお料理がササっと無駄なく提供される、そんなイメージです」(川口さん)
また、料理との相性についても。
「私、プレミアムなプロヴァンス・ロゼには、日本の果実を感じるのです。福島の桃や山形のさくらんぼなど。ですから日本の四季折々の食材を引き立て、寄り添えるワインでもあると思います。江戸前のアナゴやメゴチなど、ちょっと泥臭さのある魚や、山菜や木の芽など少し苦味のある食材にも。チェリーピンクやラズベリーローズの華やかなロゼワインでは寄り添うことが難しくても、そこはかとないデリケートなプロヴァンス・ロゼならば、日本の美意識や日本人が誇りと感じる嗜好に、とてもよくマッチすると思います」(川口さん)
ロレガンス公式オンラインストア https://www.roselegance.co.jp/wine/
“多様性”こそ、生きるために知るべきプレミアム
偉大なる画家、パブロ・ピカソはプロヴァンス地方で晩年を過ごし、その生涯を終えました。奇才と評される抽象画が有名ですが、ピカソはまた精巧な写実画の描き手であったことも知られています。
現在、世界中のワインの種類やカテゴリーは多様化し、白ワイン、オレンジワイン、ロゼワイン、赤ワインの境界線すらも認識を統一することは容易ではなく、“型破り”と言われる造り手も多くなりました。しかし型破りは破る型があってこそ。型破りなピカソの絵に感動するには、彼の原点を知る必要もまたあるように感じます。
プレミアムを知ることは、決して他を排除するスノッブな行為ではなく、その世界全体の多様性を理解するためとも言えるでしょう。「日本にロゼワイン文化を根付かせたい」と意気込む川口さんのみならず、多くのワイン関係者が願うところですが、まずはローズゴールドに輝くプレミアムなプロヴァンス・ロゼワインを知ることから、感じてみてはいかがでしょうか。
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