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2022/8/27 6:30

蓮佛美沙子「1カット1カット不穏さを追求しているところはパニック・スリラーとしての今作ならでは」

集中豪雨で孤立した村を舞台に、過酷な状況下で追い詰められていく人間たちの姿を描く「連続ドラマW  鵜頭川村事件」が8月28日(日)からWOWOWで放送・配信スタートする。物語のカギを握るミステリアスな双子の姉妹を演じる蓮佛美沙子さん。不穏な空気が漂う作品だけに、蓮佛さんは2か月間に及ぶ長期ロケの間は「押しつぶされそうになりました」と感想を。極限のパニック・スリラーと銘打たれた本作の見どころと、リラックス方法などを聞きました。

蓮佛美沙子●れんぶつ・みさこ…1991年2月27日生まれ、鳥取県出身。2008年、NHK「七瀬ふたたび」で連続ドラマ初主演を果たす。主な出演作はドラマ「うきわ-友達以上、不倫未満」、「マイファミリー」、映画「鋼の錬金術師」シリーズなど。公式HPInstagram

 

【蓮佛美沙子さん撮り下ろし写真】

入江監督とパニック・スリラー、台本読む前からワクワクしました

──オファーを受けたときの心境はいかがでした?

 

蓮佛 あまり出演した経験がないパニック・スリラーというジャンルで、しかも入江悠監督とご一緒できるということで台本を読む前からワクワクしました。入江監督の作品を拝見して幅広いジャンルを手掛けている印象があり、どんな方なんだろうなって思っていたんです。特にこの作品はどれだけ没入できるかが勝負みたいなところがあると思うので、どういうふうに作られるんだろうなと興味を持ちました。

 

──今作では主人公・岩森(松田龍平)の妻で失踪中の岩森仁美、その双子の妹である矢萩有美という一人二役を演じられていますが、それぞれ演じる上で意識されたことを教えてください。

 

蓮佛 双子だから演じ分けようみたいなことは一切考えずに、他の作品と同様に撮影前にその役柄をどんどん掘り下げていく作業をしました。ストーリーの中では有美の比重が圧倒的に多いのですが、一人二役演じるということは、その作業が×(かける)2になるだけというか。それぞれの役を掘り下げていくことによって、結果的に二人の女性の違いとして見られたらいいのかなという解釈で演じました。

 

──役柄を掘り下げる作業としてはとにかく台本を読み込むということでしょうか?

 

蓮佛 そうですね。今回は衣装合わせのときに、監督に原作を読んだほうがいいか伺ったら、読まなくていいとおっしゃったんですね。なので原作は読まずに、台本から余白も含めて全部想像して役柄を構築していきました。

 

──仁美と有美、それぞれどんな人物と捉えていらっしゃったのでしょうか。

 

蓮佛 有美は足にハンディキャップがあり、姿形は同じだけど姉(仁美)がいることも相まって、幼い頃から比較もされてきて、それが当たり前の中で生きてきた女性だと思いました。私の個人的なイメージで言うとモノクロの世界で生きてきて、見るもの全てが灰色。希望もなければ絶望もない、それが普通という価値観の中で生きてきた女性なのかなと。対する仁美は、本来は明るくて普通の女性でしたが、12年前に起きたある出来事によって人生が180度崩れてしまった女性という印象でした。

 

──入江監督とはそれぞれの役柄について、どんなお話をされましたか?

 

蓮佛 明確に「こうしてほしい」と言われたことはありませんでした。ただ劇中には出てきていませんが有美のハンディキャップに関しては、病名の設定もきちんとありました。ストーリー上、走らないといけないシーンが多かったので、監督とは「どれぐらい走って違和感がないか」といった細かい擦り合わせをしました。それ以外の感情面は現場でやっていきましょうって感じでしたね。

荒ぶる龍平さんも見どころなのかなと思います(笑)

──主演の松田龍平さんと共演した感想をお聞かせください。

 

蓮佛 今回初めてご一緒したのですが、出演作を拝見していても唯一無二の空気感があり、カメラの前でのお芝居を含め、龍平さんにしか出せない立ち居振る舞いが素敵だなと思っていました。今回演じられた岩森という役に関しても、龍平さんのまとう空気と鵜頭川村の雰囲気が絶妙にマッチしていて、「この人の独特な雰囲気ってどこから出ているんだろう」って。特にお芝居に関してお話ししたりはしませんでしたが、初日から勝手に盗み見ていました(笑)。

 

──松田さんに影響を受けてお芝居が変わったりしましたか?

 

蓮佛 今までの作品を拝見しても龍平さんが感情を露わにする印象があまりなかったんです。でも今回は中盤以降、怒鳴ったり叫んだりするシーンがあるので、私の個人的な印象とは違う新鮮なお姿を見ることができました。台本を読んだときの想像とは違う岩森を演じる龍平さんに触発されて、芝居が変わったというのはありました。脚本から想像したものと違うものに現場で出会えるのは相手が誰であっても楽しいし、乗っかりたいと思うんですよね。今回は荒ぶる龍平さんも見どころなのかなと思います(笑)。

 

──先ほどパニック・スリラーはあまり経験がないとおっしゃっていましたが、撮影でいつもと違うなと思ったことはありましたか?

 

蓮佛 完成した映像を見て感じたのは美術さんが素晴らしいなと。嵐が過ぎ去った後の話なので、絶妙な物の配置で荒れた土地が表現されていると思いました。今回は映画のように、1カット1カット時間をかけられる現場で、チーフカメラマンさんが自ら木の枝の配置を決めたりして。その結果、画としておどろおどろしいというか、気味が悪い映像になったんだと思います。そういった1カット1カット不穏さを追求しているところはパニック・スリラーとしての今作ならではの撮影だったのかなって思います。

「おいしい」って思えるのはちょっとした息抜きでした(笑)

──映像からジワジワつらくなるような不穏な圧があるように思いました。撮影中、押しつぶされそうになることはありましたか?

 

蓮佛 撮影中にしんどいと思うこともありましたし、今振り返ると完全に押しつぶされていたなと思います。2か月間長野でオールロケで撮影して、空気もきれいで素敵な場所だったんですが、撮っている作品の内容が不穏なので息が詰まる思いがしたというか。良い人が出てこない作品ですしね(笑)。閉塞感の中で生きていくことが当たり前という有美の設定もあり、今思うとずっとしんどかった気がします。もちろん現場としては楽しかったけど、つきまとう圧のような……。祟りではないけど、目に見えない何かに押しつぶされそうな感覚みたいなものはずっとありました。

 

──聞いているだけでつらそうです。

 

蓮佛 ただ、しんどいとは思っていましたが、あえてそのままにしていた部分もあったかなって。この作品の登場人物のほうが大変な状況にいますよね。ライフラインが全部潰れて明日食べるものも大丈夫か分からない、しかも犯人が分からない連続殺人事件も起きている。そんなじわじわ追い詰められていく設定だったから、自分自身が「しんどいな」と思っていてもどうにかしようとはあまり思わなかった気がします。自分が「しんどいなぁ。早く家に帰りたいな」と思う気持ちと、登場人物の「早くこの場所から出たい。安全な場所に行きたい」って気持ちはある意味同じだから、「ちょうどいいや」くらいの気持ちで相乗効果を狙っていた部分もあります(笑)。

 

──そんな中でも楽しみはありました?

 

蓮佛 撮影の中盤でおいしいパン屋さんを見つけて、ほぼ毎日のように通っていました。自分で自分を追い詰めていたと言っておきながら、「おいしい」って思えるのはちょっとした息抜きでした(笑)。宿泊していたホテルの周りにはおいしいご飯屋さんが多くて、今回はご飯に助けられました。

一瞬で家感が出るというか、リラックスできるんです

──ここからは「モノ」「コト」についてお聞かせください。仕事現場に必ず持っていく物はありますか?

 

蓮佛 ブランケットです。車の移動中に掛けたりします。たまに洗濯して忘れたりすると、「終わった……」って絶望的な気持ちになります(笑)。ブランケットによって一瞬で家感が出るというか、リラックスできるんです。寝る時間がなかったとしても触れているだけで、本当のお休みモードに入れる気がします。頂きモノを使うことが多いんですが、とにかくふわふわしているモノが好きです。お気に入りでずっと使っているモノがあって、それをずっと触っています。

 

──ではつい集めてしまうものはありますか?

 

蓮佛 お皿ですね。料理をするので、お皿が素敵なら何でもおいしく見えるって思考で集めるようになりました(笑)。ただこうして取材でお答えすると誕生日プレゼントとかで頂くようにもなったりして、あまりにも増えすぎて今は集めるのをストップしています。

 

──長年愛用しているものはありますか。

 

蓮佛 寝るときに使うタオル。使い方としてはかけるでもなく敷くでもなく、ただ触る(笑)。私、タオルの四つ角が大好きで。赤ちゃんのときに下に敷いて寝かされていたタオルケットを26年間くらい洗濯してずっと使って、四つ角を触って寝ていました。あまりにも触り過ぎて四つ角がなくなってしまったので、今は二代目を使っています。

 

──二代目は初代の触り心地と似ているんですか。

 

蓮佛 テレビのバラエティで「二代目探しの旅」みたいな感じで5店舗くらい回って探しました。ブランケットはふわふわした感じが好きなんですけど、タオルはちょっとゴワゴワした感じが好きで。私はタオルは育てていくものだと思っているので、最初の状態から洗濯して洗濯して洗濯して……ちょっとボワっとしたくらいにするのが最終目標です。今ちょっと反抗期らしくて、あまりうまくいってないんですけど、良いゴワつきになりそうだなって二代目タオルを使っています。

 

──この作品のように地方での撮影のときも持参されるんですか。

 

蓮佛 絶対持っていきます。安眠クッズですね。最近はなくても寝られるようになりましたけど(笑)。

 

 

連続ドラマW 鵜頭川村事件

8月28日(日)午後10:00 放送・配信スタート(全6話)
第1話無料放送【WOWOWプライム】【WOWOW 4K】/無料トライアル実施中【WOWOWオンデマンド】

(STAFF&CAST)
監督:入江悠
原作:櫛木理宇(『鵜頭川村事件』文春文庫刊)
脚本:和田清人
出演:松田龍平、蓮佛美沙子、工藤阿須加、山田杏奈 / 板橋駿谷、冨手麻妙、吉岡睦雄、和田光沙、宇佐卓真 /眞島秀和、綾田俊樹 / 荒川良々 ・ 伊武雅刀 ほか

【「連続ドラマW 鵜頭川村事件」よりシーン写真】

 

撮影/関根和弘 取材・文/佐久間裕子 ヘアメイク/SAKURA(makiura office) スタイリスト/道端亜未 衣装協力/RhodolirioN、KAORU、plus RECORD