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2023/9/13 17:30

“野球×未亡人”にリピーター続出! 主演・森山みつき独占インタビュー「体を縛り、心を開放する夏子の気持ちは、分からなくもなかったです(笑)」映画『野球どアホウ未亡人』

インディーズ映画ながら今年6月に予告編が解禁されるや否や、その破壊力あるタイトルとともに、映画サイトの「動画再生ランキング1位」に。さらに、都内での2週限定公開では、「キャストが8人の野球映画」とリピーターが続出した『野球どアホウ未亡人』。往年のスポ根マンガ×日活ロマンポルノの昭和感漂う独特な世界観で、“野球に目覚める未亡人”水原夏子をコミカルかつ情熱的に演じた森山みつきさん。あまりのキュートさゆえ、観る者を「どアホウ」にさせる日本映画界注目間違いなしのニューヒロインに、緊急独占インタビューを敢行しました!

 

森山みつき●もりやま・みつき…11月3日生まれ。大阪府出身。森永乳業アロエヨーグルトのCMなどで活躍後、21年に『共振』(樋口慧一監督)で映画デビュー。22年に『REVOLUTION+1』(足立正生監督)に出演するほか、主演を務めた『死後写真』(溝井辰明監督)ではイタリアの映画祭「Sipontum Arthouse International Film Festival」にて主演女優賞を受賞している。X(Twitter)Instagram

 

【森山みつきさん撮り下ろし写真】

学生時代、「幸薄そう」「なにか抱えてそう」と言われがちでした

──2週間の都内上映が終わりましたが、お友達をはじめ周囲の反応はいかがでしたか?

 

森山 上映していくうちに、変な勢いみたいなものを肌で感じていたんですが、最終日の満席は、さすがにビックリしましたね! その一方で、「こんな映画なのに……」という申し訳ない気持ちもあります。観に来てくれた知り合いの反応も、刺さった人と刺さらなかった人では、だいぶ感想が分かれますね。刺さらなかった人は「面白かったよ。頑張ってね~」程度で終わるんですが、刺さった人は細かいシーンやギャグをあれこれ指摘してくれるので、「まぁ、そういう映画だよな」と思っています(笑)。

↑東京・池袋シネマ・ロサで上映された際には特設コーナーも

 

──森山さんのこれまでの経歴を教えてください。

 

森山 中学生のときに『愛のむきだし』を観て、満島ひかりさんに憧れて、満島さんの『川の底からこんにちは』を観て、さらに衝撃を受けました。大学では演劇サークルに入っていて、客演で小劇場に出ていました。俳優ってセリフを与えてもらえるというか、自分の言葉じゃない言葉を発せられるような環境が自分に合っていて、居心地がいいんです。それで、映画に出たい気持ちが強くなり、18年に大阪から上京しました。それで何作か映画に出演させてもらったんですが、映画館で上映される機会がなくて……。そんなとき、『野球どアホウ未亡人』のオーディションを知りました。

↑映画「野球どアホウ未亡人」より

 

──かなり強烈なタイトルですが、オーディションを受けられたポイントは?

 

森山 小野(峻志)監督のお名前はもちろん知っていましたが、募集要項に、劇場公開されることと一緒に、“主人公の夏子がいろいろな顔を見せる”と書かれていたんです。私は自分の多面性を自覚していたので、それを何かしら活用できるのではないかと思ったことも大きいです。学生時代、「幸薄そう」とか「なにか抱えてそう」と言われがちでしたし……(笑)。ちなみに、中学はソフトボール部でしたが、募集要項には「野球経験問わず」と書いてあって、オーディションでも特に野球に関しては何もしていません。でも、撮影前にはしっかり野球指導の日があって、そこで変化球を投げる夏子のボールの持ち方や投球フォームを決めました。

 

台本を何度読んでも分からないんです(笑)

──ちなみに、オーディションの様子はいかがでしたか?

 

森山 あくまでも私の感覚ですけれど、会場に入った私を見た小野監督とプロデューサーの堀(雄斗)さんの顔を見たとき、「この人たちは私を使いたいのかもしれない……」と察しました。「でも、こんな作品だからどうしよう?」とも思いましたよ。オーディションではクライマックスの対決シーンをしたのですが、いきなり「森山さん、関西出身だから、関西弁でいけますか?」と変更になったんです。私、埼玉にいた期間が長くて、えせ関西弁になっていたので、母と友達2人の力を借りて、できるだけリアルを追求しました。ただ、あのシーンだけ、夏子が関西弁になるのかは、今も分かりません(笑)。

 

──そんな夏子役に抜擢されますが、未亡人が野球を始める怒涛の展開や「私は野球だ」といった謎セリフばかりで、不安ではなかったですか?

 

森山 台本を読んでも、完全に置いてきぼりでしたから不安でした。何度読んでも分からないんです(笑)。オーディションに合格して、カフェで小野監督と堀さんと一度打ち合わせをしたときも正直悩んでいました。でも、そのとき、お二人が1シーンずつ、丁寧に説明されている姿が、すっごく楽しそうだったんですよ。爆笑しながらキャッキャッしているのを見ているうちに、「もう全部お任せします。私を好きに使ってください」と、心に決めました。

──ちなみに、夏子の役作りとして、小野監督から勧められたマンガや映画は?

 

森山 小野監督から「こういう雰囲気で!」と事前に渡されたのは、野球マンガの「逆境ナイン」だけ。「野球狂の詩」の水原勇気に関しては、作品を観た方がSNSでつぶやかれていたので、映画版を先週初めて観ました。ただ、撮影前に「感情チャート表」というものをいただいたんです。そこには「それぞれのキャラクターがどんなことを考えているのか?」「それを観たお客さんがどう思うか?」「その演出の意図とは?」といったことが、シーンごとに書かれていたので、それを基にしてやるしかなかったです。考えてしまったら終わりですし(笑)。あと、小野監督が撮りたい画が定まっているのは分かっていたので、私はそれを体現すればいいかと委ねました。

 

英語で歌うミュージカルシーンは自分で振り付けしました

──劇中、夏子は未亡人なのに喪服は着ず、魔球養成ギプス(重野ギプス)を付け、鬼監督・重野の猛特訓を受けることになります。

 

森山 個人的に和装は好きなので、喪服は着たかったですね。あのギプスは、ただの針金をぐるぐるにして作ったものなので、一度ボールを投げると針金がびよーんと伸び切ってしまうんです。それでカットがかかるたび、元に戻さないといけないですし、パーツもよく取れてしまうし、針金が皮膚にめり込んでくるし、とにかく大変でした。特訓といえば、高校は陸上部だったのですが、11人いた同期が1年間で2人になるほど、女性の顧問がめちゃくちゃ厳しかったんです。残ったうちの1人が私ですが、どこか顧問に怒られるのが嬉しい気持ちになっていたこともあり、重野ギプスによって、体を縛り、心を開放する夏子の気持ちは、分からなくもなかったです(笑)。

↑映画「野球どアホウ未亡人」より

 

──夏子がすぐに押し入れに飛び込んでしまうシーンも印象的です。

 

森山 夏子はイヤなことがあると、すぐに飛び込んでしまうんですが、一度だけ足で戸を締めるんですよ。あれは私が勝手に現場で生み出したものが採用されました。夏子が被る野球帽も、最初は浅めだったのに、野球に没頭するにつれて深めに被るということを勝手にやって、小野監督に採用されました。

↑映画「野球どアホウ未亡人」より

 

──英語詞の挿入歌を歌って踊る『鴛鴦歌合戦』オマージュなミュージカルシーンに加え、エンドロールに流れるシンボル・テーマ曲も歌われています。

 

森山 台本には「決闘に向かって歩く夏子」しか書いてなかったのですが、後になって小野監督が「このシーンで歌ってもらっていいですか?」と言われて、「いいですよ」と承諾したら、歌詞が英語でした(笑)。しかも、「ミュージカルにしたいので、その日までに歌詞を覚えてきてください」と。それで、当日現場に行ったら、傘だけ渡されて、「森山さんにお任せします」と言われたので、自分で振り付けしました。シンボル・テーマ曲を歌うことは、撮影後にお願いされましたが、最初は1コーラスしかなかったのに、いつの間に2コーラス目も出来て、気づけば歌っていました。

 

水原夏子と出会えて良かったです

──そういう小野監督の謎の策略もあり、『時をかける少女』の原田知世さんも思い起こさせる森山さんのアイドル映画としても仕上がっています。ご自身の感想は?

 

森山 自分の芝居を観るのはなかなかキツいのですが、初見のときは「これで大丈夫なのか?」という気持ちでした。それが「小野監督の言ったとおりやったので、これでいいに違いない」になり、公開されて劇場で観るうちに、「これはめちゃくちゃ面白い……かもしれない」と思うようになりました。私も「どアホウ」側に洗脳されているような気がします。私自身は大衆受けする顔だとは思っていないですし、皆さん「水原夏子」というキャラクターのファンになってくださっているので、その空気感は今後も大切にしていきたいです。

↑映画「野球どアホウ未亡人」より

 

──名古屋・大阪での公開が始まり、さらに東京での凱旋公開と、今後「どアホウ」現象は全国に広まっていくと思われます。

 

森山 今、こんな生きづらい世の中なので、こんな謎のパワーが秘められた映画を観ることで、頭を真っ白にして、少しでも「どアホウ」になってもらえたらと思います。すでに、ご覧になられたお客さんは、どんどん「どアホウ」になっていますから(笑)。

──女優としての今後の希望や展望を教えてください。

 

森山 ここまで振り幅の大きい役をやらせていただいて、とても楽しかったですし、それをいろんな方に観ていただけることは、森山みつきのいろんな可能性を見ていただけることでもあるので、水原夏子と出会えて良かったです。ただ、今回は1つの役にすぎないので、これを深めていくことが、今後の私の課題のような気がしています。そして、より闇深い人間を演じられたらいいですね(笑)。

 

──いつも現場に持っていくグッズやアイテムを教えてください。

 

森山 がま口です。もともと和柄が大好きで、和の伝統文化コースを専攻していた大学の卒業論文も、麻の葉模様について書いているんです。その影響もあって、財布や化粧ポーチも、全部がま口。それを大きなバッグに入れて持ち歩いているんですが、そのバッグもがま口だったりもします。

↑森山さんのがま口の一部。がま口専門店にもたびたび訪れるという

 

 

野球どアホウ未亡人

9月22日(金)より、愛知県・刈谷日劇にて、9月30日(土)より大阪シアターセブンにて公開。今秋より池袋シネマ・ロサにて、凱旋上映も決定!

【映画「野球どアホウ未亡人」よりシーン写真】

(STAFF&CAST)
監督:小野峻志
脚本:堀雄斗
プロデューサー:堀雄斗
出演:森山みつき 井筒しま 秋斗 工藤潤矢 田中 陸 関 英雄 柳涼 藤田健彦

(STORY)
夫の賢一(秋斗)が亡くなり、草野球チーム「多摩川メッツ」の監督である重野(藤田健彦)に野球の才能を見いだされた夏子(森山みつき)。賢一の残した借金を返済するため、草野球の投手を務めることになった彼女は、重野からの激しい特訓を重ねるうちに、野球の快楽性にとりつかれる。さらに、義妹の春代(井筒しま)やプロ野球スカウトマンの古田(工藤潤矢)ら一癖も二癖もある人物に囲まれ、夏子は歩みを進めていく。

公式Twitter:https://twitter.com/ONOKANTOKU

 

撮影/金井尭子 取材・文/くれい響