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2017/7/3 6:30

【西田宗千佳連載】利益重視のApple、「会員ビジネス」重視のAmazon

「週刊GetNavi」Vol.56-2

↑WWDCで発表されたアップル「HomePod」
↑WWDCで発表されたアップル「HomePod」

 

Appleのスマートスピーカーである「HomePod」は、他社に対し1年以上遅れて市場に登場する。アメリカのスマートスピーカー市場では、すでにAmazonの「Echo」シリーズが900万台以上売れており、圧倒的なシェアを持っている。普通に考えれば、これから追いかけるAppleのような企業にとっては不利である。

 

しかも、HomePodとEchoの間には大きな違いがある。価格だ。HomePodは349ドルだが、Echoは50ドルから150ドル。ディスプレイ付きで少し方向性の異なる最上位モデル「Echo Show」ですら230ドルで、HomePodの方がかなり高い。

 

シェアで差をつけられており、価格でもかなりの差がある。ということは、短期でこの差をひっくり返していきなりAppleがトップシェアに来る、と想定するのはかなり難しい……という結論になる。

 

もちろんそのくらいは、Appleもわかっていることだろう。Appleはスマートスピーカーにおいて、明確な「利益重視」の方針である。アップルはいまも昔も、ハードウエアの販売から大半の収益を得る会社だ。彼らは基本的に、利益率の高いハードウエアを作り、それを売ることをビジネスとしている。だから、スマートスピーカーといえど、利幅の小さいものを作ることはしない。

 

一方Amazonは、そもそもハードウエアの販売収益をビジネスの柱にしていない。現在の収益の中心は、クラウドサービスのバックエンドである「Amazon Web Service(AWS)」であり、会員制ビジネスである「Amazon Prime」からの会費だ。もちろんショッピングからの売り上げは大きいが、利益率はさほどではなく、「ショッピングのために利用する人」を基盤としつつ、利益率の高いAWSとAmazon Primeからの収益比率が大きくなっている……という構図になっている。ショッピングを便利にし、Amazon Primeに入っておけば得である、という構図を維持することが、Amazonにとっては大きな収益の柱なのだ。そもそも同社は、利益のほとんどを次なる自社の成長につぎ込む方針だ。ハードウエアは損をしない程度で良く、あくまで目的は「Primeに入っていると得になる」という構造の維持にある。

 

だとすると、ハードウエアの価格や短期的な販売数量でAmazonに対抗するのはかなり厳しい。特に、ハードを売って利益を得る「メーカー」が同じシナリオを採るのは難しい。だから、Appleは最初から高い価格でスマートスピーカーを売るわけだ。そして他社がスマートスピーカーでAmazonの価格に倣うのは、不利なのがわかっていても「数の論理」であるプラットフォームビジネスで置いて行かれないようにするためである。

 

では、なぜAppleは数で対抗しないのか? 高いスマートスピーカーでも勝算があると思っているのか? その辺は次回のVol.56-3にて。

 

●Vol.56-3は7月10日(月)ごろ公開予定です。

 

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