デジタル
2017/12/15 6:00

【西田宗千佳連載】顔認証はセキュリティを超えて新しい産業を生み出す

「週刊GetNavi」Vol.61-4

↑Face ID
↑Face ID

 

iPhone Xにおいて「Face ID」が導入され、顔の立体構造を使った顔認証が使われたことには大きな意味がある。一番の影響は、「立体構造を把握するセンサーの出荷量と、それを使うソフトの量が劇的に増える」ということだ。技術は使われるほど安くなり、磨かれる。タッチパネルやモーションセンサー、GPSがスマホのブレイクによって当たり前になったように、そして、指紋センサーがiPhoneでの採用以降当たり前になったように、顔認証を使う機器やソフトはどんどん増えていくだろう。

 

iPhoneのFace IDで採用された技術はアップル社の独自性が高く、他社がそのまま真似するのは簡単ではない。しかし、技術は魔法ではないので、アプローチを変えて同じような結果を再現することは十分可能である。開発に10か月程度はかかると想定しても、2018年末以降に登場する高級スマホには、iPhone Xと同じような「高度顔認証」を搭載するものが増えてくることだろう。

 

立体構造を把握する技術には、セキュリティ以外にも多くの展開が考えられる。iPhone Xの「アニ文字」という機能は、顔の表情を取り込んで、CGキャラクターに自分の表情をさせて、他人に送ることができる。これと同じような機能は、チャットソフトなどに続々と搭載されていくことだろう。今でも、Snapchatなどのアプリでは、自分の顔にヒゲやうさ耳を「盛る」ことができるが、そういったエフェクトを、より高度なレベルで施せるようになってくるのだ。現在、ビデオチャットを利用することに気が進まない人の多くは、自分の顔や表情に自信がないからではないだろうか。これは日本人には多く見られる傾向といわれる。だが、CGキャラクターを「アバター」としてコミュニケーションできるようになれば、事情は大きく変わってくるのではないだろうか。

 

スマホの使い方はだいたい決まってきた。そこに新しい変化をもたらすのは「カメラ」をセンサーとして使うことだと考えている。iPhone Xがやっているような「立体把握」は、カメラから取り込んだデータを生かすうえでは、より大きな可能性をもつものである。

 

これは別にスマホだけに限った話ではない。パーツが安くなれば、PCやテレビにも組み込むことが簡単になる。ビデオチャットをPCやテレビで使いやすくなるだろうし、同じ機構を使い、顔認識でなく「指認識」を行えば、リモコンなどの特別な機器を用意することなく、空間で指を動かして機器を操作する……といったことも十分に可能になる。

 

iPhoneという「ヒット商品」に使われることによる数のインパクトが、セキュリティだけでなく、様々な産業への変化を促すことになっていきそうだ。

 

●Vol.62-1は「ゲットナビ」2月号(12月22日発売)に掲載予定です。

 

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