最近、為替の影響や部品供給の不安定化といったさまざまな要因が重なり、一眼レフやミラーレスカメラの価格も右肩上がり。かつてのように「趣味の入り口」として気軽に手に取るには、より一層ハードルが高くなりました。
しかもスマホのカメラがここまで進化し、誰でも「失敗のない綺麗な写真」を撮れるようになったいま、あえて専用のカメラを持ち出すには、それ相応の「理由」が必要になります。
そんななかで、富士フイルムが2026年に発売した「instax mini Evo cinema」(以下、Evo cinema)は動画撮影も可能なハイブリッドなチェキ。画質重視の一眼レフとも利便性のスマホとも違う、偶発性に満ちた新しい撮影体験を楽しめるカメラです。
カメラのスペックとしては控えめなEvo cinema
まずはスペックを見てみましょう。
撮影素子:1/5型CMOS原色フィルター
有効画素数:約500万画素
記録画素数:静止画撮影時1920×2560ピクセル、動画撮影/通常時600×800ピクセル、動画撮影/高画質モード(2020のみ)時1080×1440ピクセル
静止画記録方式:JPEG(DCF準拠 Exif Ver 2.3)
焦点距離:f=28mm(35mmフイルム換算)
絞り:F2.0
オートフォーカス:シングルAF、顔認識AF
撮影可能距離:10cm〜∞
シャッタースピード:1/4秒~1/8000秒(自動切り換え)
撮影感度:ISO100~1600(自動切り換え)
動画記録方式:MP4 MPEG-4 AVC/H.264、AAC
動画フレームレート:24p
有効画素数は約500万画素と、最近流行りのオールドコンデジと同程度。後述する「ジダイヤル」を2000~2010あたりに設定すれば、少しローファイな写りを楽しめます。もちろん2026年に発売された最新モデルということもあり、Evo cinemaで撮影した写真はアプリ経由でスマートフォンに取り込むことも可能です。
価格は公式ショッピングサイトで55,000円(税込)。チェキとしては高額な部類ですが、動画も撮影できることを考えると納得できます。
ただ、スペックのみで比較してしまえば、最新のスマートフォンに勝てる要素はありません。ではいったいどこに魅力があるのかを見ていきましょう。
8mmフィルムカメラが現代に蘇ったデザイン
デザインを見るとまず目に飛び込んでくるのは、唯一無二のフォルムです。1965年に登場した8mmフィルムカメラの名機「フジカ シングル-8」を直接的なデザインソースにしたという縦型の筐体を採用。横型のカメラを見慣れた目に、この垂直の佇まいは新鮮に映ります。

約270gという軽さに対し、外観は金属のような重厚感を持たせており、カバンから取り出すだけで「今日はこのカメラで撮影を楽しむぞ」というスイッチが自分の中で切り替わるのを感じます。
もうひとつ特筆すべきは、物理的な「手触り」です。プリントレバーを引いたときの「カチッ」という明確なクリック感。デジタル機器を操作しているというより、精密な機械を操っている実感を指先に残してくれます。
独自エフェクト「ジダイヤル」を活用した試行錯誤が魅力
Evo cinemaのカギとなるのは、側面に配された「ジダイヤル」でしょう。ダイヤルを回すことで、1930年から2020年までの10個の時代の写りをイメージしたエフェクトを楽しむことができます。

レンズリングを回すことでノイズやテープ揺れなどのエフェクトを1〜10段階で変えることもできます。ジダイヤルとレンズリングを組み合わせると、100のバリエーションにおよぶ映像表現が可能です。シャッターさえ押せば正解が得られる、現代のカメラとは異なる楽しみを味わうことができます。この試行錯誤や体験が本機の魅力といえるでしょう。

動画を「手触りのある体験」として残せる
スマートフォンやカメラで撮影した写真を、SNSにアップしたことのある方は多いでしょう。何人に見られたか、いいねは何件ついたか、という数値でのみ価値を図ろうとして、疲れてしまったと感じたことのある人は少なくないはずです。
しかしEvo cinemaを介しては、それとはまったく別の物理的なコミュニケーションも味わうことができます。最たるものが、instax miniシリーズ初となる動画記録機能と、それを物理的なプリントに橋渡しする「QRコード」の存在です。
最大で15秒しか撮影できない短い動画の中からベストな瞬間を切り取ってプリントし、その隅に動画のQRコードを載せてプリント。これを旅先で出会った人や、一緒に出かけた友人・パートナーに手渡すことができるので、手触りのある体験として記憶に残るでしょう。この体験もまた、Evo cinemaの魅力といえます。

実際に撮影したサンプル写真を見ていきましょう。



最後の1秒に、外国人観光客の男性がこちらに向かってレスをくれました。ジダイヤルで設定した1980年当時は、まだ外国人もいまほど多くは来日しておらず、このようなコミュニケーションは生まれなかったでしょう。




多少の不便さも「味」として捉えるのが吉
もちろん手放しで賞賛できることばかりではありません。
まず、全体的な動作は非常に「もっさり」としています。起動にはそれなりの時間を要し、エフェクトの切り替えにもラグがある。決定的なシャッターチャンスを逃さないためのカメラではないことは、覚悟しておくべきでしょう。
また、バッテリーの持ちには正直面食らいました。フル充電して意気揚々と持ち出した初日のこと。動画3〜4件、写真10件ほどを撮った段階で、突如として電源が落ちてしまったのです。
この日はたまたまシャットダウンしてしまったようで、その後は同様の事象は見られなかったのですが、それでもバッテリーの消耗は激しいことが多いと感じられました。Evo cinemaはUSB Type-Cで充電もできるので、1日しっかりと使い倒すなら、モバイルバッテリーの携行は必須といえるでしょう。
チェキプリントの仕上がりについても、ジダイヤルでノスタルジックな設定を施すと、もともとの甘い写りと相まって、かなり「ぼやぼやっとした曖昧な仕上がり」になります。


不自由さを楽しむためのカメラ
Evo cinemaは、すべての人にすすめられる優等生ではないでしょう。首から下げるためのストラップ穴がなく、片手が常に奪われるといった不便さもあります。けれど、効率やスペックばかりを追い求める日常において、この不自由さはある種の「余白」として機能します。
このカメラは、正解を美しく記録するための道具ではありません。そのとき、その場所で、私たちが何を感じたかという「気持ち」を表現するための装置です。このユニークな見た目の一台を連れ出すことで、私の旅や日常は、これまで以上に撮影を通して記憶に残るものになるのでした。

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