ライフスタイル
2021/4/29 20:30

都心か郊外か下町か? 「住む街」選びの新条件は、遊びも仕事も子育ても自分らしく暮らせる街

コロナ禍の影響を受けて、この一年で働き方が変わった人は多く、新しい生活スタイルを模索している人もいるのではないでしょうか。不動産情報サービスのLIFULLが発表した「住みたい街ランキング2021(借りて住みたい街)」では、第1位に本厚木(小田急小田原線・神奈川県)、第2位に大宮(JR東北新幹線ほか・埼玉県)が輝き、“郊外志向”が高まっていることを示す結果となりました。

 

購入はもちろん賃貸であっても、「住む」ことは、一定以上の長い年月を同じ街で過ごすことになり、それはライフスタイルの変化や時代にも影響されるもの。では、いま「住みたい街」「選びたい街」とは、いったいどのような場所なのでしょうか? 消費社会研究者である三浦展(みうら あつし)さんに、近年の町の変化や、昨今注目しているエリアについて聞きました。

 

「住みたい街」に変化が起きている

コロナ禍が訪れる以前は、“都心回帰”といわれ、都市部の人口増加が進む傾向にありました。この最大の要因は、2000年の小泉内閣時に都心の再開発が後押しされ、都心にタワーマンションなどの居住機能が急増したこと。

 

「現在ほど共働き家庭が一般的ではなかった1990年代までの考え方では、『子どもが生まれたら、自然豊かで広い家が買える郊外に引っ越す』というライフスタイルを選ぶ方が多くいました。ところが、共働き家庭が多くなるにつれ、都心オフィスへのアクセスを優先する方が増えたんです。郊外では、保育園のお迎えに間に合わなくなってしまいますからね。ダブルインカムで、家賃相場が高めな都心の住宅を借りる経済的余裕もありますから、独身時代と同じエリアに住み続けられるわけです。つまり“転入者が増えている”のではなく、“転出者が減った”ことで、都心の人口増加が起こっていたといえます」(消費社会研究者・三浦展さん、以下同)

 

しかし、2020年以来のコロナ禍によって、失業した方や収入減に見舞われた方が増えました。また、リモートワークで毎日出勤する必要がなくなったなど、生活スタイルの変化もあって、郊外に移り住む方が出てきています。たとえば、さいたま市(埼玉県)の人口は、2015年以降増え続けていて、特に大宮区、浦和区、緑区はコロナ発生以降も引き続き増えています。

 

新型コロナウイルスの感染拡大により、人口の多い都心で暮らすことに不安を感じ、子どもの安全のために郊外を選んだ家庭も多いようです。ただ、この層はキャリアを積んできていて、都心の楽しさを知っている世代ですから、街にもし公園とファミリーレストランなどしかないようでは、物足りないこともあるでしょう。

 

おしゃれなおつまみを提供するワインバルがあり、リモートワークの合間に散歩して、雑貨店を覗いたりおいしいコーヒーが飲める店でひと息つけたりするような街が、求められています」

 

将来に渡って“住み続けたくなる”街を探そう

それでは具体的に、今どきのファミリー層のニーズを満たして、将来的な発展も望める街はどこなのでしょうか。

 

例えば、松戸市(千葉県)のように、幼稚園児を抱えながら保護者が働けるよう、幼稚園の預かり保育料を助成する制度を整備している街があります。また、養育費を貰えていないひとり親家庭への支援制度もあり、さまざまな家庭環境にいる子どもが同じく健やかに育つよう、どの自治体でも配慮されるようになっています。

 

そんななか、三浦さんがおすすめするのは、流山(千葉県)や川口(埼玉県)、三鷹(東京都)だと言います。

 

「子育て支援に力を入れているのは、どの行政も同じで、さまざまなサービスを展開しています。保育園はどの自治体でも随時新設していますし、駅前保育も今では下北沢、国立、小金井(すべて東京都)などさまざまなところでできています。川口(埼玉県)には、駅前に図書館も保育園もあって便利だというのも、人気の一因でしょう。

 

過去20年ほどでマンションが増えて、人口増加につながっているのは三鷹です。中央線で新宿へのアクセスがいいのはもちろん、東西線直通に乗れば日本橋や大手町へも一本で行けます。バス路線も豊富で、三鷹駅まで自転車で行ける保谷市や西東京市への引っ越しを考える方も多い様子。共働きであれば、夫婦それぞれのアクセスを考えますから、一路線よりも複数の路線がある駅の方が視野に入りやすいでしょうね」

 

「また、小金井(東京都)にはタワーマンションが複数できたこともあり、人口も増えています。自然豊かでありながら、自然食志向の飲食店などがあるエリアです。『住みたい街』で第1位に選ばれた本厚木も、新宿まで45分で渋谷や池袋までのアクセスがよく、街にさまざまな店があるのが魅力的です。買い物をしたりお茶をしたりする場所があることは、同時に、雇用が生まれるということでもありますから、就労先が見つかりやすい街ともいえます。『住みたい街』ランキングで常に上位である吉祥寺が人気なのも、働く場所がたくさんあることが大いに関係しています」

 

郊外の再生が成功した例としては、古い街並みを活かして観光地化できた川越(埼玉県)が挙げられますが、こちらは20年以上かけて積み上げてきた成果だそう。

 

「川越は、古い街並みを活かした街づくりをしたことで、観光目当てに訪れる方が増え、街の活性化につながっています。都市開発では古い建物を壊してしまうことが多いので、昔ながらの街並みが残っている場所はさほど多くありませんが、現在はコロナ禍によって住宅地でも“昼間人口”が増えているので、均質で人工的な再開発ではなく、古い街並みを活かすことも重要になるでしょう」

 

自分に合った街を探したい! 自分にとって住みやすい街とは?

街選びは、ライフスタイルや家族構成によって、重視するポイントが変わってくるものです。年代や職業によって、どのような街が選ばれているのでしょうか。

 

「若い単身者は、持ち物が少ない方が増えていますね。車を持たないほか、電子レンジはコンビニで使えますし、テレビやオーディオなどもスマートフォンひとつで完結してしまうので、ベッドさえあればよく、狭い部屋でもいいという方が増えている傾向にあります。また、もし“都心”を選んだとしても、原宿や渋谷ではなく、秋葉原や上野など、自分の趣味と合う街選びが進んでいます。

 

一方、働く世代には、やはり街に刺激があることが住みやすさにつながります。たとえば地元にできた新しい店はマーケティングのヒントになるかもしれませんし、個性的な雑貨店を眺めれば、新商品のアイデアが浮かぶかもしれません。リモートワークといっても決まった時間にパソコンの前にいなくてはならないわけではなく、成果が出せればいいとなれば、気分転換できる刺激が街にある方が住みやすいといえるでしょう。

 

また、子育て家庭は、地元に子連れで行けるちょっとした飲み屋がある、というような娯楽も求められています。お迎えに行ったあと、ちょっと夕飯ついでに寄れるお店があるというのは、昔では考えられなかったかもしれませんが、今や当たり前になってきています」

 

注目のエリアは下町にある!

そんな三浦さんの注目のエリアは、東京の下町。

 

「墨田区向島や荒川区は、街全体としていかに防災性を高めるかという課題は残るものの、情緒のあるところです。ぶらぶらするだけでも気持ちがいいですよね。美術館が好きならたまらない上野や谷根千(谷中・根津・千駄木)も近く、古書店やおいしいお店がたくさんあります。

 

一般的に、人は“自分が暮らしている街”と“会社のある街”しか知らないですよね。自分の住む町ですら家と駅の往復なので、あまり詳しくない人が多い。まして食事をするのに、電車に乗って隣の隣の駅まで行ってみようとか、途中下車してみようということはあまりないでしょう。住みたい街を選ぶときは、興味のある駅だけでなくひとつふたつ先までいろいろな駅を歩いたり、夜も歩いてみたりすると、自分に合った街が見つけられますよ」

 

 

さまざまな地域と沿線があり、選択肢が多いぶんどこに住むか悩んでしまう東京近郊の暮らし。どんな場所で暮らすのか、これからの働き方とともに考えていく必要がありそうです。

 

【プロフィール】

消費社会研究者 / 三浦 展(みうら あつし)

1982年、一橋大学社会学部卒業。株式会社パルコに入社したのち、マーケティング情報誌『アクロス』編集室に勤務、1886年には同誌編集長となる。1990年、三菱総合研究所に入社。1999年、カルチャースタディーズ研究所を設立。消費社会、世代、階層、都市、郊外などの研究をしている。著書は80万部のベストセラー『下流社会〜新たな階層集団の出現〜』(光文社)のほか、『首都圏大予測 〜これから伸びるのはクリエイティブ・サバーブだ!〜』(光文社)『東京は郊外から消えていく!〜首都圏高齢化・未婚化・空き家地図〜』『愛される街』(而立書房)『人間の居る場所』(而立書房)など多数ある。

 

『下町はなぜ人を惹きつけるのか? 〜「懐かしさ」の正体』(光文社)

 

『首都圏大予測 〜これから伸びるのはクリエイティブ・サバーブだ!〜』(光文社)