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2023/9/29 18:30

クランクイン玄関とは? 一級建築士が解説するメリット・デメリットとクランクインではない間取りでのプライバシー対策

ECサイトでオンラインショッピングすることが当たり前になりました。便利な反面、見知らぬ不特定の人が家を訪れることに、不安を感じることも多いのではないでしょうか。また、近年続発している広域強盗事件では、強盗犯はあらかじめターゲットを決めて犯行に及ぶといい、犯行前のリサーチは、宅配業者などを装って玄関先で行うという話も。

 

防犯意識が高まるなかで、玄関先の訪問者からプライバシーを確保できると、「クランクイン」の間取りに注目が集まっています。そのメリットと意外なデメリット、そしてクランクインのメリットを取り入れた、自宅のプライバシーを守る方法を、一級建築士のしかまのりこさんに教えていただきました。

 

「クランクイン」「クランクイン玄関」とは? 間取りの歴史

クランクとはそもそも、直角に右折と左折が配置され見通しがきかない狭路のことをいいます。では間取りにおける、「クランクイン」「クランクイン玄関」とは?

 

「入ったら正面に壁がある折れ曲がった廊下があり、直接リビングなどのプライベートスペースが見えない間取りを指します。この間取りが採用され始めたのは、ちょうど1980年代のバブル時期と重なります。これまでの住宅の間取りの歴史とともにお話ししましょう」(COLLINO一級建築士事務所 代表・しかまのりこさん、以下同)

↑玄関から直線上にリビングがある間取り。(画像提供=COLLINO一級建築士事務所)

 

↑玄関を入ると正面に壁のあるクランクイン玄関。(画像提供=COLLINO一級建築士事務所)

 

・ダイニングキッチンが生まれた1950年代

「戦後、焼け野原になった日本をとにかく整備しようと、日本住宅公団など国が主体となり住宅を早く普及させるために、広さ35m2(平方メートル)ほどの部屋で構成された団地を作り始めました。戦前の日本の住宅では、朝起きたら布団をたたみ、そこでちゃぶ台を出し、食事をする暮らし方が主流でしたが、新しい住宅を作るにあたって欧米の文化を取り入れられ、寝る部屋と食事をする部屋を分けた、いわゆる『食寝分離』の間取りが採用されるようになりました。これが、『DK(ダイニングキッチン)』の始まりです」

 

・間取りの効率化を重視する1970年代

「住宅をさらに普及させる『量の時代』です。団地よりももう少し広い60m2から70m2くらいの間取りの住宅が出現します。『DK』から『LDK(リビングダイニングキッチン)』へと発展させながら、引き続き限られたスペースに効率よく部屋を配置するかを模索した結果、玄関を入った直線状にリビングを設け、その両脇に個室を配置するプランが主流となりました。当時の3LDKの間取りは今のそれとほぼ変わりはありません。効率重視のレイアウトは現代もなお取り入れられています」

 

・クランクイン玄関の前身が登場。量から質へとシフトする1980年代

「住宅に暮らしの豊かさを求め始めた『質の時代』です。住宅の普及がある程度整い、高度経済成長を経た日本は好景気のバブル時代に入ると、人びとの価値観が量から質へと変換していきました。各ディベロッパー(不動産の開発会社)や不動産会社がさまざまなプランを作り、差別化を図るようになります。この時代は、戸建てのようなゆったりとした贅沢感を演出したい、プライバシーを確保したいとの要望から、クランクイン玄関の前身が生まれ始めました。当初は、『クランクイン』『クランクイン玄関』という言葉はなく、のちにそのように呼ばれるようになりました。住宅の面積も60m2から80m2とゆったりとした広さです」

 

・高級マンションでクラインクイン玄関を採用。邸宅感を演出する1990年代

「面積100m2を超えるタワーマンションが登場します。さらに高級仕様の住宅が求められるようになると、いっそうパブリックスペースとプライベートスペースを分ける間取りが評価されるようになり、ほとんどの高級マンションではクランクイン玄関を採用するようになりました。そして、現在のマンションでは、プラニングの棲み分けがうまくなされているように思います。70m2くらいまでのお部屋であれば玄関からリビングまでが一直線のプラン、80m2以上のお部屋ではクランクイン玄関を配置したプランと、おおまかに二極化しています」

 

【関連記事】部屋を広く、片付けやすく! 家具レイアウトのルールとNGを一級建築士が解説

 

暮らしにゆとりを演出する、クランクイン玄関のメリット

クランクイン玄関にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

 

1.プライバシーを確保できる

「近所の工事の挨拶や新聞の勧誘員、配達業者の来訪など、自宅にはいつどなたが来るかわかりません。そんなときに室内の様子が確認できないクランクイン玄関であれば、むやみに情報を与えることなく対応することができます」

 

2.高級感がある

「玄関を入った正面に壁がくる設計がクランクイン玄関の特徴です。このため、突き当たりのスペースに観葉植物やアート、クリスマスツリーなどの季節の飾りものを配置することによって、空間にゆとりを持たせることができます」

 

3.玄関から間取りが把握できない

「直線上にリビングがある間取りでは、廊下にある扉の数でだいたいの間取りが把握されてしまいます。これによって大まかな家族構成も想定されてしまうことに。玄関からは部屋数がわからない点もメリットです」

 

意外な落とし穴! クランクイン玄関のデメリットと対処法

では、クランクイン玄関にデメリットはあるのでしょうか?

 

「クランクイン玄関ならではのデメリットはあります。とはいえ、すでにクランクイン玄関の間取りにお住まいでも、工夫次第では改善することができます」

 

1.空間効率が悪い

「廊下面積が広くなるクランクイン玄関は、ゆとりのある空間と言える反面、デッドスペースができやすい間取りでもあります。各部屋の面積を広く取りたいか、邸宅感を演出することを重視するか、部屋を決める際には優先順位をつけることが大切です」

 

2.大型家具を搬入できない

「一体で納品されるソファやカウチは約2mを超える大きさの場合、部屋に入らない可能性があります。とくに海外製の家具は海外の広々とした住宅仕様で設計されているものも多く、注意が必要です。海外製のキッチンもシンクとコンロが一体となった台として納品されるので、玄関を通過できない可能性も。家具を購入する場合は、以下の点に注意しましょう」

【対策】
・納品後に組み立てを行えるよう細分化されたものを選ぶ
・搬入するときに必要な有効寸法を必ず確認する

 

3.窓がない場合は暗い、風通しが悪い

「リビングまで直線上につながる廊下の場合、だいたいはリビングに入る手前に扉があり、採光が取れるようにガラスがはめ込まれています。そこからの光によって真っ暗になることはありませんが、クランクイン玄関の場合は光が直線的に入って来ないので、照明をつけない限り、明るさを確保することが難しくなります」

【対策】
・鏡を設置し、照明の明かりを反射させ明るさを確保する
・白やベージュなど明るい色の壁紙や床材を使用する

 

「また同様にリビングから直接、風を通すことができないため、どうしてもニオイがこもりがちです」

【対策】
・消臭効果のある壁用タイルを設置する

 

「消臭効果のある壁紙もありますが、それほど効果が期待できるものではありません。消臭効果がないよりはあったほうがマシ程度に据えておくほうがいいでしょう」

4.掃除しにくい

「折れ曲がった廊下は角になるところが多くなり、掃除機がかけにくいです。先ほどお伝えしたように、風の抜けも少ないためホコリが溜まりやすくなります。コードレススティック掃除機などの小回りのきく掃除機で、こまめに掃除するように意識することが必要です」

 

5.車椅子の移動がしにくい

「車椅子を使う場合は、曲がり角を曲がるときある程度の空間にゆとりが必要となります。クランクイン玄関の場合、車椅子の使用が難しくなります」

 

「このように曲がり角を作ることによって生じるリスクもあります。建物の躯体を動かすことは極めて難しいため、入居前であれば、あらかじめ確認しておくと安心ですね」

 

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一般的な玄関に “クランクイン玄関の発想” を取り入れる! 誰でもできるプライバシー確保の方法は?

今住んでいる部屋がクランクイン玄関の間取りではない場合、どのようにプライバシーを守れば良いのでしょうか?

 

「クランクイン玄関の大きな利点は『視線を遮れる』ことです。この利点を応用して、私たちが暮らしの中でできることをご紹介します」

 

・のれん・カーテンを廊下につける

「視線を遮るための簡単な方法として、のれんやカーテンがあります。のれんは、突っ張り棒に通して設置するだけですので、もっとも簡単です。訪問者がいないときには開けておきたいのであれば、布の位置を移動できる、突っ張り式のカーテンレールがおすすめです」

↑玄関廊下にのれんを設置したイメージ。(画像提供=COLLINO一級建築士事務所)

 

・ストリングカーテンを廊下につける

「ストリングカーテンとは、規則正しく直線上に並ぶ糸によって構成されたカーテンです。美容室の席と席との間の空間を柔らかく仕切るのに使用されたりします。のれんやカーテンほど視線を遮ることはないまでも、よくよく注視しないと中の様子を確認することができません。ほどよく視線を遮り、開放感も大切にしたい場合には有効です」

↑玄関廊下にストリングカーテンを設置したイメージ。(画像提供=COLLINO一級建築士事務所)

 

・突っ張り収納をつける

「下図のように玄関を入ってすぐにDKにつながる間取りには、突っ張り収納を設置すれば簡単に視線を遮れます。幅の短いものであれば、45cmくらいから展開しています。玄関先に、上着やバックなどちょっとした荷物をかける場所としても活用できます」

↑玄関とDKの間に突っ張り収納を設置するイメージ。(画像提供=COLLINO一級建築士事務所)

 

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賃貸物件でも、間取りに合わせて視線を遮る工夫をすることによって、プライバシーを守ることができます。来訪者の立場に立ってみて、自分の部屋は玄関に入ったときに、どのようなことを把握されてしまうのか、それを防ぐためにはどうしたら良いのか、一度チェックしてみることをおすすめします。ぜひ、クランクイン玄関の良さを取り入れたレイアウトを考えるきっかけにしてみてください。

 

プロフィール

一級建築士・模様替えアドバイザー / しかまのりこ

COLLINO一級建築士事務所代表。「地球にやさしい 家族にやさしい」をコンセプトに、狭い・片づかない・不快などの住まいの問題を「家具配置・模様替え」によって解決する模様替えのスペシャリスト。近著に『狭い部屋でも快適に暮らすための家具配置のルール』(彩図社刊)がある。
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