スポーツ
F1
2022/10/6 10:30

山本雅史インタビュー「10月9日の日本GPではフェルスタッペン選手の2連覇達成の瞬間を見たいですね」

2021年のF1グランプリ最終戦、アブダビGPで奇跡の逆転優勝を果たしたレッドブル・ホンダ。2015年にF1にカムバックするも、思うような成績を残すことができなかったホンダが、その後わずか数年でチャンピオンを獲るまでになった。その立役者の一人が元ホンダF1マネージングディレクターの山本雅史氏だ。初の著書『勝利の流れをつかむ思考法 F1の世界でいかに崖っぷちから頂点を極めたか』を上梓した彼に、6年間の思い、そして来る鈴鹿決戦に向けての意気込みをうかがった。

 

↑昨年の最終戦アブダビGP。残り1周での逆転劇は世界中のF1ファンに大きな興奮と感動を与えた

レッドブルのホーナー代表こそ、理想的で最高のリーダー

──山本さんがホンダのモータースポーツ部長としてF1に携わるようになったのが2016年。2021年にレッドブル・ホンダがワールドチャンピオンを獲るまでF1の世界で6年間戦ってきたわけですが、きっとひと言では語れないほどの紆余曲折があったかと思います。

 

山本 そうですね。確かに、僕がモータースポーツ部長になったのは2016年でしたが、F1専属になったのは2019年からだったんです。それまでは当時の八郷隆弘社長から国内のSUPER GTを立て直すように指示され、そちらに本腰を入れていました。八郷社長には「2018年にチャンピオンを獲ります!」と約束をしてしまったこともあって、本当に必死で(笑)。でも、そこで実際に制覇することができ、日本一になったという達成感もあって、「よし、次はF1でタイトルを獲るぞ」という気持ちで挑んでいったのが2019年でした。

 

──2019年というと、レッドブルとホンダがタッグを組んだ最初の年ですね。2015年にホンダがF1の世界に復帰し、マクラーレンチームとの低迷期を経て、2018年にはレッドブルの姉妹チームであるトロロッソ(現アルファタウリ)とパートナーに。徐々に速さや信頼性を取り戻している時期でもありました。

 

山本 僕はよく故・稲盛和夫氏(京セラ、第二電電/現KDDIの創業者)の言葉を借りて、“人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力”という掛け算の話をするんですが、レッドブルチームとは最初からこの掛け算が非常に上手くいっていました。チーム全体が、邪念なくただひたすら“レースで勝つ!”という方向を向いていましたから。そうした状況の中で、僕自身がF1に専念できたというのも大きかったです。僕はどんな仕事にも全力で挑んでいますが、体が一つしかない以上、100%の力を集中させられるタイミングというものがある。それに、メカニックやエンジニアの数だって無限にあるわけではなく、マンパワーにも限りがある。その意味で、僕も含め、すべての力を一点に集中できたのが2019年からだったんです。

↑レッドブル・ホンダにとって初優勝を果たした2019年オーストリアGP。フェルスタッペン選手は表彰台に現れると、ホンダを讃え、レーシングスーツのロゴを指差した

──その集中が見事に実り、マクラーレンとタッグを組んでいた2015年から2017年には一度も叶えられなかった表彰台という目標を、レッドブル・ホンダは2019年の開幕戦・オーストラリアGPでいきなり果たすことができました。

 

山本 マックス・フェルスタッペン選手が3位でレースを終えて。あの時は本当に嬉しかったですね。レース後はいろんな知人や関係者、友人たちから祝福のメールが届き、涙が溢れて、しばらく人前に出られなかったです(笑)。あのレースは、フェルスタッペン選手の技術のすごさはもちろんですが、やはりレッドブルチームは組織力がほかとは違うと実感した瞬間でもありました。最先端技術を注ぎ込んだF1とはいえ、最後にものをいうのは、やはり人間力なんです。いかに“流れ”を読み取り、その“流れ”が行き着く先を間違えずに突き進めていくかが大事で、かつ、それができるリーダーが不可欠になってくる。その点、レッドブル代表のクリスチャン・ホーナーは最高のリーダーだと言えます。“流れ”を間違えないために、とにかくいろんなスタッフとコミュニケーションを取り、状況と情報を把握した上で、それらを整理し、どこに集中していくかを選択していく。ホーナーさんとは一緒に仕事をするうえで学ぶことがたくさんあります。

 

──著書『勝利の流れをつかむ思考法』の中では、そのホーナーさんをはじめ、アルファタウリ代表のフランツ・トストさん、そしてレッドブル・レーシング顧問のヘルムート・マルコさんに山本さん自らがインタビューをされています。

 

山本 皆さん、快諾してくださって、嬉しかったです。しかも、手前味噌ですが内容も素晴らしくて。将来モータースポーツの世界を目指す子どもたちや、その親御さんに役立つ言葉をたくさんいただけたので、そうした方にもぜひ読んでいただきたいですね。何より、3人の言葉を全文掲載しているところがとても貴重で。国際映像でのインタビューやニュース配信などでは編集が入ったり、ジャーナリストたちの私見も加わってしまうので、F1関係者の言葉をそのまますべて読める機会ってなかなかないんです。

↑レッドブル・レーシング代表 クリスチャン・ホーナー氏(左)

──特に印象に残ったコメントはありましたか?

 

山本 どの言葉も刺激的でしたが、意外とマルコさんのコメントがドライだったのが面白かったです。やはり、純粋にレースにすべてを捧げている方なので言葉も真っすぐでしたよね。ホーナーさんには《僕に変わってほしいところはありますか?》と最後に聞いたのですが、「英語をもっと話せるようになってほしい」というのと、「あとはヘアスタイルだ」と言われました(笑)。

 

──(笑)。トストさんへのインタビューはトロロッソとホンダがタッグを組んだ際の裏話などもあり、興奮する内容でした。

 

山本 僕も初めて聞く内容があり、驚きました。また、来年もアルファタウリでレースをすることになった角田裕毅選手をどのように見ているかといったこともうかがっていますので、きっとF1ファンであれば楽しんでいただける内容になっていると思います。3人にも、次の日本GPでさっそく完成した本を見せようかと思っています。ただ、この本をクリスチャンに渡したら、「いいね、ヤマモト。で、俺にはいくらギャラをくれるんだ?」って言われるでしょうけどね(笑)。彼はそういうおちゃめなところがあるんです。だからこそ、チーム代表ではあるけれど、スタッフたちは怖がることなく、彼といろんな話や相談ができる。まさに理想のリーダーですよね。

↑著書『勝利の流れをつかむ思考法』では角田裕毅選手がF1のシートを獲得するまでの経緯も書かれている

鈴鹿の見どころは予選も含めたレッドブルのストラテジー

──さて、今お話にあったように、まもなく3年ぶりの日本GPが鈴鹿サーキットで開催されます(10月9日決勝)。マックス・フェルスタッペン選手が2連覇に向けて躍進されていますが、ひと足早く今シーズンを振り返ると、レッドブルチームにとってはどんな一年だったと感じていますか?

 

山本 今年から車体のレギュレーションが大きく変わり、あれだけ強かったメルセデスが停滞するなど、勢力図が大きく変わりましたよね。でも、さすがはエイドリアン・ニューウェイ(レッドブルのレーシングカーデザイナー)で、これまでにも数々のチャンピオンマシンを生み出してきた彼が、PUの信頼性を生かして見事にアップデートしたマシンを作ってくれたなと思います。また、僕が言うのもおこがましいのですが、フェルスタッペン選手も昨年チャンピオンを獲ったことでますますドライバーとして成熟してきましたし、レースを重ねるたびにどんどんと彼にとってドンピシャのマシンに仕上がってきているので、今はまさに無敵状態だと言えます。

 

──では、ずばり今年の鈴鹿の見どころは?

 

山本 3年前の日本GPで、フェルスタッペン選手はフェラーリのシャルル・ルクレール選手と接触をし、結果的にリタイヤとなりました。ですから、彼にとっては納得できないレースのままで鈴鹿は止まってしまっている。今は彼も俯瞰でレースを見られるようになりましたし、もし同じ状況になれば、一度は引いて、改めて勝負をするという判断ができるはず。そうした成長にも注目したいです。また、その勢いで表彰台の真ん中に立ち、ファステストラップも獲ればワールドチャンピオンが決まりますからね。ぜひその景色を見てみたいです!

↑当初は昨年の日本GPで走らせる予定だった特別なカラーリングのレッドブルマシン。日本GPの代替レースとして開催されたトルコGPでお披露目された

──可能性はどのくらいあると思いますか?

 

山本 期待はしていますが、鈴鹿サーキットは低速コーナーから中速、高速ストレートとすべての場面でパワーが必要なテクニカルなコースなので、贔屓目なしで判断すると、若干フェラーリが有利かなと思っています。それに対して、レッドブルがどんなセットアップで対抗していくのか。予選の戦い方や決勝でのストラテジー(戦略)も含め、見どころは多いと思いますよ。

 

──また、山本さんは今年から国内レースの最高峰であるスーパーフォーミュラでTEAM GOHの監督も務めていらっしゃいます。10月29日・30日にはいよいよ最終戦を迎えますので、そこに向けての意気込みも教えてください。

 

山本 今年一年間、監督を経験してみて、難しさを痛感しました。スーパーフォーミュラはやはりレベルが高いんです。“日本一速いドライバーを決める戦い”という謳い文句は伊達じゃなく、マシンごとにほとんど性能差がないので、チームの組織力やドライバーの腕が顕著に出る。それに、マシンの車高が0.5mm違うだけで「挙動が違う」というドライバーもいるほどですし、そうしたシビアな状況の中で特性の異なるサーキットを戦い抜くというのは本当に大変でした。もちろん、だからこそ、お客さん側からすれば面白いレースが毎回楽しめるんですけどね。またTEAM GOHは佐藤蓮選手と三宅淳詞選手という若い2人がドライバーのチームですから、僕の力の足りなさも含めて、なかなか思うような理想的なレースができていませんでした。でも、最後はやっぱり大きく飛躍したものをお見せしたいですね。特に蓮選手はレッドブル・レーシングとホンダがタッグを組んだ若手育成プロジェクトのドライバーでもありますから、「最終戦は絶対に表彰台を獲りに行くぞ」と2人で話し合っています。

↑2021年アメリカGPの表彰台セレモニーに山本雅史氏が登壇。19年のお返しと、レッドブルのロゴを指すパフォーマンスを見せた

──楽しみです! では最後に、GetNavi webにはクルマ好きな読者が大勢いますので、山本さんがこれまで乗り継いできた愛車遍歴を教えていただけますか?

 

山本 自動車免許を取って最初に買ったのはホンダの二代目プレリュードでした。リトラクタブル・ライトで、当時ものすごく流行ったクルマなんですよね。純粋なスポーツカーであり、運転していて楽しかったです。その後は、ホンダに勤めながら全日本カート選手権にも参戦していたので、カートを積むためにハイエースに乗り換えました。次にインテグラ。マイケル・J・フォックスさんをCMに起用し、「カッコインテグラ」のキャッチコピーで一世を風靡したクルマです。インテグラのあとは、結婚していたこともあってバンを乗るようになり、まずはアダムス・ファミリーのCMが印象的だったオデッセイに。こう振り返ると、やっぱりいいクルマはCMもすごく印象に残ってますよね。それからは同じくバン系のエリシオンでした。当時は僕の奥さんもシビックに乗っていましたね。

 

──今は何を?

 

山本 奥さんとは共通してミニクーパーが好きだったので、いつか乗ろうと話していて。今はそれが叶ってミニに乗っています。それとマカン(ポルシェ)も。ミニはゴーカート感覚でキビキビ走るし、サイズもちょうどいい。普段乗りしていて非常に楽しいです。マカンはデザインが気に入っていますし、長距離を走るのにラクですね。あと、近所に買い物に行く時は奥さんのN-BOX SLASHを借りたりと、目的によって使い分けています。本当は新しいシビックのTYPE Rも欲しいなと思ったんです。デザインも性能も本当に素晴らしくて、レーシングドライバーの伊沢拓也選手も気に入って購入したと話していたぐらいなので、クルマ好きにはたまらない仕上がりになっているんですよね。でも、すごく人気で2年待ちだというので断念しました。

 

【ギャラリー一覧(画像をタップすると閲覧できます)】

 

山本雅史●やまもと・まさし…1982年、株式会社本田技術研究所に入社。 2012年、栃木研究所技術広報室長、16年、 本田技研工業株式会社モータースポーツ部長を歴任し、19年よりHonda F1専任としてマネージングディレクターに就任。 21年、Red Bull Racing Hondaのドライバーズチャンピオン獲得に貢献。 22年2月に独立し、MASAコンサルティング・コミュニケーションズ株式会社を設立。 現在、Red Bull Racingの子会社でRed Bull Powertrainsとコンサルティング業務契約を結び、アドバイザーとしてF1に参画。 一方、国内レースでは全日本スーパーフォーミュラ選手権でTEAM GOHの監督として、若手ドライバーの育成をサポート。 講演・セミナー活動なども行なっている。

山本雅史さんサイン入り著書『勝利の流れをつかむ思考法 F1の世界でいかに崖っぷちから頂点を極めたか』3名様プレゼント

<応募方法>
下記、応募フォームよりご応募ください。
https://forms.gle/go761yDjCZcXAdLeA

※応募の締め切りは10月27日(木)正午まで。
※当選は発送をもってかえさせていただきます
※本フォームで記載いただいた個人情報は、本プレゼント以外の目的での使用はいたしません。また、プレゼント発送完了後に情報は破棄させていただきます。

 

 

勝利の流れをつかむ思考法 F1の世界でいかに崖っぷちから頂点を極めたか

発売日:2022年10月6日(木)
発行:株式会社KADOKAWA

定価:1,650円(本体1,500円+税)
ISBN:978-4-04-605999-4
判型:四六判 ページ数:240P

Amazonで詳しく見る

楽天ブックスで詳しく見る

 

取材・文/倉田モトキ