文房具
2017/5/1 21:00

一台2万円の鉛筆削りだと!? 「落としても芯が折れない」「リンゴの皮のように削れる」など色々と規格外

つい先日、「カール事務機」からとてつもない鉛筆削りが発売された。なにがとてつもないかとおうと、まず限定100台で価格も2万円というプレミアムさである。

 

もちろん、単に高級というだけではない。なんと、色鉛筆専用で「床に落としても芯が折れない」という特殊な削り方ができるのだ。基本的に当記事で紹介するのは筆者が自腹で購入して実際に試してみたものばかり。今回ももちろん、2万円の自腹購入である。

 

カール事務機 X SHARPENER/2万1600円

「X SHARPENER(エクスシャープナー)」は、2016年1月に放送されたNHK『超絶!凄ワザ』という技術系番組の特別編で、小学生からの「落としても折れない赤鉛筆が欲しい」というリクエストに応え、カール事務機と北星鉛筆が共同で当たるという企画がベースとなって開発されたもの。

 

↑芯先に触れずに削り出すカールカットを施した色鉛筆。ダーマトグラフのようにも見える
↑芯先に触れずに削り出すカールカットを施した色鉛筆。ダーマトグラフのようにも見える

 

番組内の検証により、鉛筆が折れる要因は「落下や鉛筆同士がぶつかるなど外部からの衝撃」と「鉛筆を削る際に起こる軸ぶれや刃から受けるねじれ力」の2つであることが特定できた。そこでカール事務機は、可能な限り刃を芯に触れさせないことで、従来比で折れる確率を1/8にまで減らした特殊な削り方「カールカット」を開発。そのカールカットをするための鉛筆削りが、この「X SHARPENER」というわけだ。

↑実験器具のようなソリッドな雰囲気がたまらない
↑実験器具のようなソリッドな雰囲気がたまらない

 

化粧箱を開けると、中には「X SHARPENER」本体と説明書、研芯器、替え刃、赤鉛筆2本がセットで収まっている。そもそも化粧箱に入ってる鉛筆削りというのが相当に珍しいが、削り方の説明書が別紙で付属している鉛筆削りというのは、さらにレアといえるだろう。

↑防水カプセルのなかには、油紙で包まれた替え刃が2種類3セット入り。メーカーでは、大きいPre Cut刃は約1000回ぐらいの使用を目安に交換を推奨している。一方、小さいFine Cut刃はその数倍は長持ちするらしい
↑防水カプセルの中には、油紙で包まれた替え刃が2種類3セット入り。メーカーでは、大きいPre Cut刃は約1000回ぐらいの使用を目安に交換を推奨している。一方、小さいFine Cut刃はその数倍は長持ちするらしい

 

↑携帯灰皿のような物体は、底面のやすりでカールカットの先端を平らに保つための研芯器
↑携帯灰皿のような物体は、底面のやすりでカールカットの先端を平らに保つための研芯器

 

↑メーカーが公式で推奨する「三菱鉛筆 No.2351朱」が2本付属。1本はすでに削られてあり「このX SHARPENERで実際に削って動作確認しました」という品質保証的なサンプルにもなっている
↑メーカーが公式で推奨する「三菱鉛筆 No.2351朱」が2本付属。1本はすでに削られてあり「このX SHARPENERで実際に削って動作確認しました」という品質保証的なサンプルにもなっている

 

本体はボディがアルミの削り出し。重量140gと手のひらにのせるとずっしり重く、シャープな切削跡(寸法精度は1/1000mm)とアルミのひんやりした感触も相まって、「わっ、なんかすごいテクノロジーで作った高級なやつ!」という実感がある(貧相な感想で申し訳ない)。

↑2つの穴にそれぞれ違う刃がセットされている
↑2つの穴にそれぞれ違う刃がセットされている

 

この本体には「1.Pre Cut」穴と「2.Fine Cut」穴があり、この2穴を順番に使って削ることで、カールカットの色鉛筆が完成する。ちなみに対応するのは、軸径8mm、芯径3mmの色鉛筆にのみ対応。普通の鉛筆は残念ながらカールカットにはできない(メーカーでは三菱鉛筆のNo.2351朱色で検証)。

↑空気を押し出すように鉛筆をゆっくり挿すと、心地よいわずかな抵抗とともに中に滑り込んでいく
↑空気を押し出すように鉛筆をゆっくり挿すと、心地よいわずかな抵抗とともに中に滑り込んでいく

 

削るときは最初に鉛筆をPre Cut穴の方に挿すのだが、まずその感触に驚かされる。嵌合(かんごう)精度が異常に高くて無駄な隙間がないため、スポッと鉛筆が穴に入らないのだ。そこでゆっくりと、穴から空気を押し出すように挿し込んでいくと、ぬるーっとした不思議な感触とともに鉛筆が吸い込まれていく。古くからの文房具好きならご存知だろう、高精度なペンスタンド「溜息3秒」のシリンダーにピストンがゆっくり入っていくような、あの感じに近い。

 

そして、一度穴に吸い込まれると、鉛筆はかっちり固定されたように刃に当たり、中でカタカタとブレる感触が一切ない。このままでは鉛筆をねじって回転させるのも困難に思えるが、なんと穴の中にはベアリングが内蔵されており、鉛筆はかっちりブレないままで滑らかに削ることができるのだ。この感触がまた本当に気持ちいい。

↑リンゴの皮のようにうすくなめらかに削れていく
↑リンゴの皮のようにうすくなめらかに削れていく

 

軽い力で鉛筆をねじると、その分だけシュルルル……という軽い音を立てて薄い削りくず(厚さ0.17mm)が排出される。手でねじる力が途中でまったく減衰せずにそのまま削りくずとして出力される感じだ。難しい言い回しを避けて表現すると「うひょー、ひゃー、スルスルー、気持ちいいー」で済むのだが……。

↑Pre Cutが終わった状態。「これで大丈夫?」と一瞬不安になるが、これでいいのだ
↑Pre Cutが終わった状態。「これで大丈夫?」と一瞬不安になるが、これでいいのだ

 

削り進めた鉛筆の先端が刃奥のストッパーに触れると、まず第一弾の削り作業が終了。自動的に刃にテンションがかからなくなって鉛筆が空転するので、わかりやすい。取り出してみると、普通の色鉛筆から芯だけスパッと切り落とされたような、不思議な状態に仕上がっているはずだ。

↑最後にFine Cutでクリクリッと回すと、先端の軸材がポロッと剥ける
↑最後にFine Cutでクリクリッと回すと、先端の軸材がポロッと剥ける

 

あとは、Fine Cutの穴にさし込んで軽く1~2回転。それだけで先端から3mmほどの部分だけ軸材を剥ぎ取って芯を露出させたような、カールカット色鉛筆の完成である。

↑カールカットで実際に文字を書いてみた
↑カールカットで実際に文字を書いてみた

 

丸棒のような芯そのままのカールカット、筆記時に多少は違和感があるかなと思っていたのだが、実際に書いてみると思ったほどは悪くはない。丸棒のエッジの部分を使うので、線がやたら太くなるということもなく、ちゃんと普通に書ける。

 

ただ、芯エッジのどこが紙に当たっているのか上から見るだけではわかりづらく、例えばマス目を塗って埋めるというような作業はやりづらい。慣れればいけるのかもしれないが、塗り絵には向かなさそうだ。

↑胸元ぐらいから落としてみても、芯が砕けていない。中折れも見られず
↑胸元ぐらいから落としてみても、芯が砕けていない。中折れも見られず

 

肝心の落下耐久度だが、試しに高さ1.5m(元の番組の方でテストを行った高さ)からカンペンケースに入れた状態と、そのままダイレクトに落とすのを試してみたが、5回ずつ落としても芯先端は折れず砕けずきれいな状態を保った。中折れもおそらく発生していない。カールカットの実力……、見事である。

↑色鉛筆の個体差によっては、たまにこのようなFine Cut不良が起きることも。筆者は残った軸材をデザインカッターで削ぎ落としている
↑色鉛筆の個体差によっては、たまにこのようなFine Cut不良が起きることも。筆者は残った軸材をデザインカッターで削ぎ落としている

 

最後にひとつ、実際に10本ほど削ってみたところ、数本ほどFine Cutで軸材がきれいに削り取れないことがあった。これに関してカール事務機に確認したところ「とにかく刃が芯に触れないギリギリの寸法精度で取り付け位置や角度を調整(1/100mm単位)してあるため、鉛筆の反りや芯の偏心によっては、このような状況が起こることもあります」との回答を得た。これに関しては、やはり鉛筆の個体差で仕方ないということのようだ。