“お米と楽しむイタリアンレストラン”で話題を集めている東京・八重洲の商業施設「YANMAR TOKYO」のレストラン「ASTERISCO(アステリスコ)」。こちらの魅力は、料理の美味しさはもちろん、生物多様性に配慮した農法によるお米など、“サステナブルな農業”による食材が使われている点にあります。実はこのレストランを手がけているのが、農業機械で知られるヤンマーのグループ会社、ヤンマーマルシェ。
同社は、他にも生産者を支援し、持続可能な農業の実現に向けたさまざまな取り組みを行っています。また、同じくグループ会社のヤンマーeスターでは、食品廃棄物を有効活用するソリューションを提供するなど、“人と自然の豊かさが両立する未来”の実現に向けて、グループが一丸となって社会課題の解決に取り組んでいます。
生産者と伴走し持続可能な農業を目指す
ヤンマーマルシェが行っている“持続可能な農業を支援”するための取り組みの1つが販路マッチング。農業生産者と実需者である食品メーカー・流通業者などの間に同社が立ち、両者をつなげることで、生産者には販路拡大や経営の安定化、農作物の収量と品質の向上を支援。実需者には安定的な農産物(食材)の調達などを行っています。
「生産者様と事前に価格を決めることで、相場に左右されない適正な価格で農産物を取り引き。安定した栽培や出荷のソリューションを提供するなど、生産者の皆さまに伴走して事業を行っています」と話すのは、米契約栽培を担当する井口有紗さん。北陸から島根までの約60件の米生産者を受け持ち、栽培技術をはじめ、営農計画から出荷、販売までをサポートしています。
「農業機械メーカーという立場もあって、営業担当者は、昔から生産者の方たちから販路や経営に関する相談を受けていました。しかし本業とは異なるため、なかなか対応しきれないジレンマがあったそうです。そんな背景もあり、創業100周年を迎えた2012年に、次の100年を見据えた方針を打ち出した際、現場の課題解決に取り組むことが決まりました」(井口さん)
計画的な経営ができるという声も多い
もちろん、事前に取引価格が決められることに対して、当初は生産者になかなか受け入れられなかったそうです。
「その年ごとの損益はありますが、相場は毎年変動するため、実は長い目で見ると差はあまり出ません。生産者様のご理解をいただくのに時間は要しましたが、今では、価格を明確にすることで計画的な経営ができるという喜びの声を多く聞きます。また良質な米づくりと収量の安定を共に目指す取り組みにも力を入れています。例えば、気候に合った品種や市場で求められている品種を作付けすることで、安定した栽培が可能になります。今年は猛暑の影響でコシヒカリが不作だったのですが、暑さに強く、収穫量も多い『にじのきらめき』という品種を一部の生産者様と一緒にトライアルしました。単なる仲介者ではなく、伴走することで、生産者様が持続可能な安定経営ができることを目指しています」(井口さん)
「にじのきらめき」の栽培では、夏の間に田んぼの水を抜いて稲の成長を調整する「中干し」期間を延長することにより、メタンガスの排出量削減やJ-クレジット創出の取り組みも行っています。こうした同社の取り組みに注目する企業が増えているのはもちろん、農林水産省が公表する「米に関するマンスリーレポート(5月号)」でも販路マッチングは推奨されるなど、持続可能な農場の実現は多方面から注目されています。
食品廃棄物の処理課題解決に挑む
そしてもう1つ紹介するのが、バイオコンポスター事業を展開するヤンマーeスターの取り組み。食料生産・消費の過程で発生する食品廃棄物を利用する資源循環ソリューションです。食品廃棄物は世界中で年間約13億トンといわれ、焼却時に発生するCO2やコストも問題視されています。こうした課題に対して、微生物を利用し、食品廃棄物を土壌改良剤や堆肥のもとにリサイクルするYC100というバイオコンポスターを開発。食品加工工場や飲食店、スーパーが主な対象ですが、それ以外でも活用の場が広がっています。2022年からは教育施設でYC100を活用し、収集した生ごみを堆肥化し周辺地域で活用するモデルの実証実験がスタートしました。
「子どもたちと一緒に新しい資源循環モデルをつくろうとしています」と、ヤンマーeスターでの業務を兼任する、ヤンマーホールディングスの中山法和さん。滋賀県犬上郡多賀町の「大滝たきのみやこども園」と一緒に、YC100を活用した「こどもやさいプロジェクト」に取り組んでいます。
毎日の登園が環境活動に!?
「実は日本の生ごみの半分ぐらいは家庭からと言われていて、業務用に開発されたYC100を家庭からの生ごみ問題の解決に活かせないかと以前から考えていました。家庭に大きな機械を置くのは現実的ではないし、別の場所に設置しても回収がネックになる――。そんな時、子どもたちの通学風景を見ていて、『学校など地域に身近な場所にYC100を設置し、子どもたちが通学時に生ごみを持っていく』アイデアが閃いたのです」(中山さん)
当初は小学校を想定したそうですが、保護者も一緒に通学する幼稚園や保育園がベストと考え、ヤンマーeスターがある滋賀県の自治体に相談。滋賀県では、自然保育に取り組む団体を認定する「しが自然保育認定制度」という制度があり、それに認定されている「大滝たきのみやこども園」を紹介されたそうです。
「自然保育に関心を持つ保護者の方や先生方が多いので、食品廃棄物のリサイクルに対しても理解を得やすいと考えました。安全面を考慮し、園内ではなく隣接する駐車場にYC100を設置。蓋には鍵をかけ、投入口には柵もはめ込みました。蓋をすると液漏れも臭いもしない専用バケツ“エコバケ”も用意し、2022年10月からスタート。自宅で出る生ごみがバケツいっぱいになったら、通園時にバケツを持ってきてもらいます。子どもたちが楽しくごみを持って来られるように、スタンプシールを集められる仕組みも設けました。
生ごみが堆肥になるまでの変化を実際に見ることで、子どもたちは自然の成り行きを感じることができます。そして分別など、ごみに対する意識の芽生えや、環境を守る大切さも学んでくれていると思います。また、子どもが変わることで保護者をはじめ、周囲の大人たちの意識も変わったと感じています」(中山さん)
プロジェクトをスタートする際、園の近所にもエコバケを配布し、住民が24時間自由に生ごみを捨てられるように。一般的にごみの集積所は汚れやすいのですが、子どもたちの目があることもあり、綺麗に利用されているそうです。
自治体が抱えるごみ回収の課題解決にも
「10月から5カ月間で処理した生ごみの総重量は約2.3t、出来た完熟堆肥は約150Kgでした。堆肥の一部は園内の畑や花壇に蒔くほか、園児のご家庭や近所、他の園などに無料で配布しました。
見学に来る自治体や議員もいらっしゃるなど、生ごみの回収方法、子どもたちの環境教育という視点から興味を持たれる方は少なくありません。また、今回のプロジェクトで『生ごみがなくなったので、普通ごみを捨てるのが週2回から1回に減った』という保護者からの声もありました。もしかしたら、自治体のごみ回収の回数を減らすことにつながるかもしれません。
生ごみの回収は習慣化できるかどうかがカギ。『こどもやさいプロジェクト』では子どもたちの登園時に回収することで、うまく習慣化できましたが、他の回収方法もあるのではないかと摸索しています。それ次第では、家庭からの生ごみ処理の課題に一石を投じられるのではないでしょうか」(中山さん)
なお、ヤンマーeスターとヤンマーマルシェが連携した新たな取り組みも進んでいます。飲食チェーン「梅の花」では、セントラルキッチンで出た食品廃棄物をYC100で堆肥化し、ヤンマーマルシェのパートナー生産者で活用。生産された農作物を加工し、梅の花グループの飲食店で提供する資源循環モデルの構築に取り組んでいます。このようにヤンマーマルシェとヤンマーの取り組みは、一見、異なるように見えますが、ソリューションを共有するなどの連携が見られます。ヤンマーグループ全体が一丸となって目指す“人と自然の豊かさが両立する新しい未来”には、大きな可能性が期待できそうです。